第26話 看破の嘘
まず、攻撃が来る前にあれがどのような攻撃かを予想してみる。
まず観察、老人の格好の確認。
年季が入った使い古された服を身に付けている。
見た限り、材料は鉄ではなく、何かの皮で作られた防具に見える。
長い間愛用しているのだろう、服が長持ちする秘訣でもあるのだろうか。
敵でなければぜひ聞きたい話。いや、それは今考えることじゃない。
あの老人が持つ武器は腰に携えた刀1本、それ以外に武器は見えない。
ただ他にも武器を忍ばせている可能性はある。
……他の武器は確認できないから、一先ずその可能性は排除するか
重要なのは、姿を見せた時の事だ。
つまり、攻撃を放った後。
刀は抜刀状態、刀を抜いた状態で現れた。
その後に老人は刀を振るわずに、鞘に納めていた。
なら刀を使った攻撃、それも納刀した状態で放つ居合の技を扱うのだろう。
木々を真っ二つにしたということは斬撃。
……ここは魔法がある世界だ。そのことを加味すれば刀の動きに連動した魔法、斬撃系の魔法かな。ファンタジーで使い古された技だね
斬撃の厄介なところは、木々を軽く切り裂く斬れ味と射程距離。
射程距離がどのくらいの距離かは分からない。けれど、今の老人との距離なら確実に当たる射程なことは確定だろう。
老人は動かない、何かを警戒しているのか、構えた状態でじっと待っている。
静寂が訪れる。
「切るなら切りなよ」
「怪しげな術を構えておるからのぉ。お主こそ先に動かんのかい?」
「怪しげな術を使っているのは君の方でしょ。魔法があるのに刀を使うのは……刀を利用することで魔法の効果を高めてるのか」
僕は、この世界の魔法について知らない。
だから、適当を言う。
合っていなければ合っていないで良い。間違えていても問題はない。
合っていれば、相手の動揺を誘える。
老人は表情に出さないが、動揺しているのがわかる。
「合ってるか。まぁだよね。中距離の魔法を使える人間がメイン武器に近接武器を選ぶ訳がない。相当の物好きか使う事で利があるか」
「厄介な目じゃの。解析する力の魔眼かのぉ」
「へぇ、知ってるんだ。そうだよ。僕の目は1度見た相手の魔法の特性を見破る」
大嘘である、確かに僕の目は、いくつかの能力を保有している。
けれど、その中に1度見た相手の魔法を見破るなんてチート能力は無い。
相手の言葉に乗っかり、あたかも真実であるかのように語る。
そうであると信じさせる。
……刀を抜かないなぁ
僕は、刀を抜くのを待っている。
攻撃を誘って、防いで出来た隙を利用して龍の姿に変わる算段。
今、目の前で姿を変えてもただ無防備を晒すだけ、どうにか隙が欲しい。
数秒経っても動かない。
仕方がない、動かないならこちらから攻める。
踏み込んで地を蹴って接近する。
先程は、死を感じて辞めた突進。
正直、今もめっちゃ怖い、これが死が隣にある感覚なのだろうか。
もう二度と感じたくない感覚だ。
……これの性能は試してない。まさかぶっつけ本番になるとは……試しておけばよかった
今の僕は、試していない力を頼りにしている。
試すタイミングがなかったというか、余裕がなく逃していた能力。
他の能力を考えたら、これも相当強い能力だと思うから信じて突っ込む。
拳を握り、振りかぶる。
大振りの一撃、人間の身体程度なら簡単に破壊することができる一撃。
振りかぶった瞬間、老人が動き出した。
刀を引き抜き、僕の首元めがけて振るってくる。
かなりの速度、人間時代なら間違いなく見えないほどの速度。
刃が首元に迫る中、突如音が周囲に響く。
ガラスを殴った時に鳴るような音だ。
……良かった
僕は、安堵した。
試していない力だったから一抹の不安があった。
だが、それは杞憂に済んだ。
僕が使った能力は『防御』
障壁を展開し身を守る力。
見事、その力で老人の振るった刀を食い止めたのだ。
加減して軽く蹴る。
胴体に直撃して、老人はよろめく。
老体相手という事もあってかなり加減をした。
老人が体勢を直す前に僕は姿を戻す。
服が破けるけど、仕方がない。
背に腹はかえられない。
周囲の木々を薙ぎ払い、龍の姿へと変わる。
「蛇龍……珍しいこともあるものじゃな」
老人は、蛇龍の姿に驚いている。
僕が龍だと見切っていたけれど、どの龍かまでは分からなかったようだ。
「死にたくなければ失せろ」
威圧しながら警告をする。
人型よりこの姿の方が威圧感はあるはず。
「まだ戦いは始まったばかりじゃぞ」
目に宿る闘志は消えていない、未だに燃えている。
老人は、刀を構え直す。