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第25話 酷い話だ

 居るのは老人1人、他には人は居ない。


 ……老人? この人がさっきのことを?


 あの芸当を、この老人がやったとは信じ難い。

 老人の見た目は、朝に植物に水をやっていそうな優しそうな老人。

 見た目からはあの視線を向けていた人物と、同一人物とは思えない。


「龍に神狼とは珍しい組み合わせじゃの」


 呑気に、話しかけてくる。

 老人は鞘に刀を仕舞う。

 刀を仕舞い構えも取らない老人は、無防備に見える。


 ……今がチャンスか


 見た目はともかく攻撃をしてきたことは確か、一撃返して戦闘不能にする。

 今の無防備な状態を、攻撃のチャンスと思いわずかに踏み込む。

 足に力を込めて地を蹴り、一気に接近しようとした瞬間、ぞくりと悪寒が走った。


 首を切り落とされる……そんな幻覚を見た。

 死を錯覚するほどの恐怖を感じた。


 ……死……あっ、え?


 足から力を抜き、戸惑いながら首に触れる。

 首を切られてはいない。


 ……切れてない


「人間、邪魔立てするなら殺す」


 女性は、老人を睨みつけている。

 周囲の気温が下がり、肌がピリピリする程の凄まじい圧を感じる。


「神狼の娘よ。儂は主とやり合うつもりはない。用があるのはそちらの龍じゃ」

「……僕?」


 僕の方を、指さして言っている。

 訳が分からない。

 なぜ初対面の人間に、いきなり命を狙われなければならないのか。


「僕を狙う理由を聞いても?」


 この老人は、答えてくれる気がしたので聞く。

 理由によっては、戦闘を避けられる可能性はあるかもしれない。

 質問に答えず、攻撃をしてきた時用に僕は警戒態勢で構えておく。


「すぐそばに人の集落がある。そこを襲った悪龍ならば狩らねばならないのじゃよ」

「集落を襲ったのは別の龍、僕は関係ない」


 集落を襲ったのは飛竜、僕じゃない。

 同族ではあるけれど、味方でもない。

 その飛竜と結託していたわけでもなく、本当に完全に無関係。

 酷いとばっちりだ、張本人に文句を言いたい。

 その飛竜は、僕が結構ボコボコにしたけど。


「別の龍……おや、そうかい」

「集落を襲ったのは飛竜でこの龍ではない。それは我らも確認済み」


 女性が会話に入り、襲った龍の情報を老人に伝える。

 僕が伝えるより、第三者の女性が伝えた方が信ぴょう性が高い。

 集落を襲った飛竜はどっかに飛んでいったから、この山にはもう居ないと思う。


「おやおや、それは済まないね」


 老人は、頭を下げて謝罪をしてきた。

 本当に済まないと思っていそうに見える。

 だけど、僕は警戒態勢を解かない。

 先程の死を感じるほどの恐怖を知ったおかげか、彼はまだ恐怖の元凶の何かを、解いていない事が分かる。


「分かったなら立ち去って、こっちは戦う気はない。集落にも近寄らない」

「そうしたいのは山々なのじゃがな。人里の近くに龍がいるとなると人々が怯えてしまってな」

「……別の理由だけどこれから山の外に出るつもりでその後、この山にも近寄る気はない」

「おや、遠くへ行くのかい?」

「さぁ、目的地はまだ決めてないよ。だけど……そうだな。人里の近くは避けよう。住むのは山奥や人の居ない場所を住処にする。それで手打ちにしてくれないか」

「ふむ、……悪くないんじゃがなぁ。約束したとてお主が守るとは限らんからのぉ」

「だから殺すと?」

「そうじゃな」


 酷い話だ。

 どうやら龍は人里を襲う危険な生物だから殺すらしい。僕は、こちらから人を襲ったことのない危険とは程遠い善良な龍なのに。

 会話をして老人は、はなからこちらの意見など聞く気はないように感じた。

 話が出来る事と話が通じる事はどうやら違うらしい。言葉は難しい。

 生憎と僕は、人間側の都合に合わせて死んでやるつもりはない。

 命が脅かされるなら人間相手でも、僕は徹底抗戦の覚悟はある。


「抵抗しないのなら一太刀で楽にできるから動かないでほしいのぉ」


 刀の柄を触れる手に力が入る。

 老人の取る構えを、動画で見たことがある。

 あれは、居合の構えだ。

 もしかして、奇襲の一撃と同じものをやろうとしているのだろうか。


「話が通じないか。僕は悲しいよ」

「人同士ならともかく……龍の言葉は、経験上信じ難いのじゃよ」

「人の言葉なら信じられると? 君は人との関わり少ない人生でも歩んできたのかな」


 老人は、僕を殺す気だ。

 確実に逃げても追ってくるだろう。

 迫ってきていた速度を考えると、完全に逃げ切れるか微妙だ。

 ならば、戦闘は避けられないと考えるべきか。

 避けられないのなら、戦うしかない。

 この老人は間違いなく強い。加減なんてしたらこっちが死ぬ。


 ……悩んでる暇はない。先に一手を防ぐ


 目に触れて、能力を切り替えて攻撃を待つ。

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