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第22話 対話

 声を聞きゾクリ、と悪寒が走る。

 冷たい、身体が冷え込むそんな錯覚をしてしまうほどに冷酷な声音。

 この身体になって始めて、恐怖を感じる。

 恐怖とはこういう物だったなと思い出した。


「ナワバリ?」


 僕は、表情を変えずに聞き返す。

 恐怖を感じていることを悟られたくない。

 対等に会話をしたい。


 ナワバリと聞いて、すんなりと納得できた。

 この山で、オオカミ以外の動物を見かけていない。

 オオカミたちがナワバリとしていることで、他の動物が近寄れないようになっているなら山、森の中で他の動物を見かけていないのも自然。


「この山は我ら神狼族のナワバリだ。知らないのか」


 ……しんろうぞく……あぁ、狼、種族名か


 こちらの常識については、さっぱりなので当然のごとく、神狼族のナワバリだったなんて知らない。

 それになぜ神狼族のナワバリで僕は目覚めたのか、余計、謎が深まる。


「そうだったのか。知らなかった」

「ほう、世間に疎いようだな。それで貴様はここで何をしている」

「何を……ええっと生活の基盤を整えてる最中かな」


 今、僕がしている事は、生活に使える道具製作に必要な材料探しだ。

 ただ、服の為にオオカミの毛皮を欲しているなんて、口が裂けても言えない。それはつまりオオカミの命を狙っているのと同義なのだ。

 間違いなく敵意ありと判断されて戦闘になる。

 それだけは、本気で避けたい。


「下の湖に蛇龍が住み始めたとは聞いたが、この山に住む気か?」


 ……聞いた? あぁ、見かけていないだけでオオカミに見られてたのか


 最初にオオカミに出会った時は、まだ水場で家は作っていなかった。

 だけど、聞いたのなら報告した誰かしらが、僕の行動を見ていたのだろう。

 いつの間にか、監視されていたようだ。

 なら見かけなかったのは、意図的に僕の周囲に入らないようにしていたという可能性がある。


「その予定だったけど……」


 この山が神狼族のナワバリなら、流石にこのまま住むのは難しそう。

 そうなると、この山を離れて別の何処か住める場所を探す必要がある。


 ……外に道案内してもらえたらいいな。ただ全部最初からかぁ……いや、マイナススタートかな


 今は、まだほぼ最低限の生活だったが、環境はだいぶ良かったと思っている。

 厄介な外敵は少なく、食料も数種類の果実と魚、家の材料も近くに沢山ある。

 ここまで揃っているところを新しく探すのは相当苦労しそうだ。


「住むことを許可してくれません?」


 運良く住む事を、許可してくれるかもしれない。

 正直、ここに住む事の許可をしてくれるならできる範囲で、神狼族の手伝いもする。

 僕1人で何人分かの働きは出来る。

 ゴーレムも居るから力仕事は余裕。


「即刻立ち去れ。事を荒立てたくなければな」


 淡い期待は一瞬で砕かれた。

 居座るつもりなら、戦闘という宣言。

 ただのオオカミなら、ともかくおそらくは飛竜よりも強い存在だろう。

 勝てるかも分からない上、勝ったとしてこちらも無事では済まないから、戦いたくない。

 その上、神狼族のナワバリと言っていた。

 つまり、目の前にいるこのオオカミ以外にも、神狼族が住んでいると考えるのが自然だろう。

 1対1でも分からないのに、数体相手取るなんて無理、例え他に目の前のオオカミクラスの実力を持つ者が居ないとしても難しい。


 ……まぁ、そこまでする理由もないし、事を荒立てたくないから諦めよう


 僕は、別にこの山の支配権が欲しい訳じゃない。

 単純に割に合わない。


「わかった、この山から立ち去る。ただ擬態のままで、山の外に出たいから案内欲しい」


 龍形態は大きい巨体と白色の身体の為、目立つ。

 僕は出来れば、目立ちたくない。

 目立たないようにするには、擬態の姿が適任。


「……わかった、ならば我が案内しよう」

「いいの?」

「他の者では戦えんからな。不満か?」


 僕は襲う気はないけれど、相手からすれば僕の考えなんて分からない。

 案内役として付けたオオカミを殺して喰らうつもりと、思われても仕方ない。


「いや、むしろこの山を知り尽くしていそうな者の案内を受けられるのは歓迎」


 案内があれば、この山の外に出られる。


 ……水筒増やして携帯できる水の量増やそうかな。果実は数日分だけ確保で……魚は数匹だけ


 しばらくは、石の水筒と箱に入った果実で生活はできる、ゴーレムに荷物を運ばせられる。

 問題は、それが尽きるまでに新しい住処になる場所を見つけないといけない。


 ……水が尽きる前に住処を見つけられるかな


 踵を返して、オオカミと共に水場に向かう。

 オオカミは僕の一歩後ろを歩いている。

 警戒しているのが分かる、監視しているぞと言わんばかりの圧をひしひしと感じる。

 正直すごい怖い。

 オオカミは不審な動きがあれば、即座に対応できる位置で構えている。

 妙に手馴れている感じがする。


「飛竜と戦ったのは何故だ」


 後ろから話しかけてくる。

 飛竜の件を、疑問に感じているようだ。


「あれは……あっちから襲ってきたからそれを迎え撃っただけ」

「そうか」


 話はそれで終わった。

 ゴーレムと合流して、川を下って水場に戻った。

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