第21話 薄青色のオオカミ
まだ日が出てまもなく、少し暗い時間帯に目を覚ましてすばやく朝の支度を済ませる。
石のナイフを持って、昨日と同様のやり方で崖を登って探索を開始する。
近い部分は昨日の時点で結構見て回ったから、今日は先へ進む。
上り坂になっていて登っていく。
初めて見た色の小石を拾って、ゴーレムに持たせている箱に詰めていく。
小石程度のサイズのため、量的にはあまり使えないけれどとりあえずで拾っている。
いずれ何かに使える可能性がある。
……石用の入れ物作ろうかな。果実と一緒はやめた方がいいかな。入れる予定のは小石程度のものだけど少々大きめに作るか
食用の果実と小石を一緒の箱に入れておくのは良くないかもと思い、帰ったら新しく箱を作ろうと考える。
探索を続けているとふと匂いがした。
……この匂い、微かだけどあの匂いか
微かに匂いがした。
微かだけど嗅いだことのある匂いだったから、気づいたのだろう。
匂いの方向を確認する、匂いは僕の左側からする。
そちらへ視線を動かす。
草木に隠れているのかその姿は見えないけど、動いてもいないようで匂いは消えない。
感じた物は、獣の匂いだった。
……土のゴーレムは……後方待機かな。一応、警戒もさせておこう
「待機と警戒」
ゴーレムに命令を出す。
ゴーレムは荷物を守るように構えて静かにその場に待機して、周囲の警戒を始める。
オオカミなら僕1人で楽々対応できる相手だけど、囲まれるのは避けたい。
数で負ければ、何があるか分からない。
動く様子はないので、こちらから向かう。
草を分けて、匂いのする方へと進む。
すると、唸り声が聞こえる。
威嚇のつもりだろうか、構わず声のする方へ向かう。
……近くにいるはずだけどどこにいる? 草木が邪魔で見えない
まだ姿が見えない。
幹の太い木や背の高い草もあり、上手く視界が確保できない。
声と匂いを頼りに進んでいると、目の前の木が突如鋭利な何かに切り裂かれたかのように、6分割された。
6分割された木が地面に落ちる前に、鋭い爪がこちらへ迫ってきた。
ゾクッと悪寒が走る。
突然のことだったが、爪の軌道はしっかりと目で捉えている。
そして、爪が身体に当たる前には動き出せた。
後ろに飛び退いて、攻撃を躱した。
……今のちょっとゾクッと来た。なんだ今の
飛竜の時も感じなかった悪寒、直撃は無事では済まないと、本能が理解したのだろう。
冷や汗をかいた。
僕はしっかりと構える。
今使っているのは身体強化の力、だから間一髪で回避が間に合った。
もし、他の能力なら間に合ったか、分からない。
姿を現す。
2m以上あるオオカミだ。
身長は初日に会ったオオカミと変わらないが、全く異なる点が存在する。
それは毛の色、初日に会ったのは黒寄りの薄灰色の毛をしていた。だが、目の前に居るのは明るい薄青色をしている。
手入れされているのか、目立つ汚れもない。
磨かれた宝石のように美しい毛色だと感じる。
最初の日に出会ったオオカミ2匹とは、格が違う雰囲気がある。
……綺麗な毛並み、ボスオオカミ?
オオカミは僕の姿を目で捉えて、軽く息を吐く。
そして何かを言いたげに、静かにこちらを見ている。
……攻撃をしてこない? なんで?
奇襲を仕掛けてきたかと思えば、目の前に現れたあとは僕を見て動かない。
何がしたいのか、分からない。
こうなると、こちらから攻めていいのかも悩む。
……もしかして会話が可能? いやでも別種と可能なのかな。それを言ったら人間と話せそうだったか
飛竜とは仮にも同族だったから、会話が出来たと考えられる。
例外の可能性はあるけど、僕が人の話がわかることから異種族間でも会話が可能な存在が居ても、何ら不自然ではない。
「もしかして話せる?」
恐る恐る話しかける。
もちろん、その間も目は離さずに、警戒をしておく。
先程のような奇襲に対応出来るように。
少しの静寂の後にオオカミは口を開く。
流暢な話し方で、美しい声音で、冷たく話し始める。
「蛇龍よ、我らのナワバリで何をしている」