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第2話 この身体の正体

 硬いものに触れた感覚が指に伝わる。

 そして僕は()()()()()

 手を前に出して広げる。

 手元に、炎を生み出す。

 この炎の使い方は、既に理解している。

 手元の炎の火力を高めていく

 メラメラ、と炎が強く大きく燃えあがる。


「このくらいあれば足りるかな」


 炎の火力を確認する。

 そして、オオカミを倒すには充分だと判断した。

 オオカミは炎を見て、威嚇の声を出す。

 歩みを止めて警戒している。

 オオカミの判断は、警戒で留まっている。

 それが命取りだと知らずに。


 ……動かない的なら簡単に狙える


 手をオオカミめがけて軽く振るう。

 その動きに連動するかのように、手元にあった炎がオオカミに向かう。

 まっすぐ、炎がオオカミめがけて飛んでいく。

 炎は手元から離れて数秒にも満たない時間で、オオカミの目の前まで接近した。

 そして一瞬のうちに大きく広がり、オオカミの全体を包みこみ焼き払う。

 断末魔を上げる余裕すらなく、オオカミの肉体は即座に灰と化した。

 灰となり風に飛ばされるのを見届けた後、余波で周囲の草木も燃えてしまったことに気づく。


「あっ、火力が強過ぎた。もう少し弱くてよかった」


 周囲の草木まで焼く気はなかった。

 これならオオカミを倒す分であれば、もっと火力は弱くてもよかった。

 炎の使い方は分かっていても、調整が最初から完璧とは行かないようだ。


 目の前の燃えた草木を見て、ハッとする。

 自然に迎え撃つために炎を使っていた。だけど、少なくとも目覚める前の僕は、そんな力を持っていなかった。

 僕は炎を出すなんてできない普通の人間だった。

 それなのになぜか炎を使えた上、自然と炎の出し方を知っていた。

 目の使い方もわかっていた。


 ……身体が使い方を覚えてた。それにこの目は……


 目にふたたび触れる。

 目覚める前は目なんてじかに触ったことはないけれど、触れているものが人の目ではないと分かる。

 硬い、石にでも触れているような感触がする。

 人の目はこんな感触ではない。


 ……信じられないけど……僕は……


 人ではない。

 炎と石のように硬い目、今の状況からしてそうとしか考えられない。


「参ったなぁ」


 そっと頭を触る。

 髪の毛に触れる感触がある。

 少し動かすと、何か骨のような硬いものに触れた。

 手で触った感覚と触られている感覚がある。

 この場に鏡はないから、これがどういう物かまでははっきりとはしない。

 けれど、僕の頭から角のようなものが生えているのは確かなようだ。

 そして、記憶か分からないけれど、認識したことで鮮明になっていく。

 僕が何者か

 いや、この身体の正体がなんなのか。


「……まぁいいかぁ」


 驚きはあるけど、困りはしない。

 この身体の使い方が分かる今、人間の時よりやれることが多く便利なことが多いと分かった。

 今のところ問題点は慣れるのには、時間がかかりそうくらいである。


「人里に行きたいな……大丈夫だよね?」


 人に近い姿はしているけれど人ではない。

 現代日本であれば、ワンチャンアニメのコスプレで通せる……気がする。

 しかし、どうやらここは日本ではない。

 それどころか、推測が正しければ恐らくは見知ったあの世界ではない。


 ……ここで考えてもだな……とりあえず近くの人里に向かおうかな


 ここで、考えても答えは出ない。

 そう踏んで適当に森を歩く。

 人里がどこにあるか知らないけれど、歩けばいずれは着くだろうという考えで進む。

 そうでなくとも、森の中とはいえ、人と出会える可能性がある。


 しばらく歩く。

 どのくらいの距離、時間歩いたか分からないけれど、かすかに声が聞こえてきた。

 耳をすませてみたら話し声だとわかった。


 ……話し声、人か


「この辺に本当に居るのか? ただの噂だろ」

「今回に関しては目撃情報があった。間違いないだろう」

「私の魔法で余裕」

「油断はしないでください。強いと聞きますから」


 内容が聞こえてきた。

 何かを探しているようだ

 探し物が何か分からないけれど、話しているのは人ではありそう。

 人に出会えたことにホッと安堵する。

 どこかも知らない森の中で、たった1人というのは流石に心細かった。

 話し声がする方へ近づく。


「なんだ? 人か?」


 大男が僕の姿を見て、無警戒で近づいてくる。

 近づかれると、見上げないと顔が見えないほどに大きい肉体を持っている。

 見た限り、190以上はありそう。

 鎧を身につけていて背中に斧を背負っている。

 大男は僕のことを人と勘違いしている。

 その方がこちらにとっても都合がいいから、そのまま大男に話しかけよう。


「……いえ、人ではありません!」


 後方に居た女性が叫ぶ。

 女性の方を見ると杖をこちらに向けている。

 声音、表情からこの女性が警戒状態だと理解した。

 勘がいいのか、それとも角がバレたか、人ではないと見破られた。

 女性の声に反応して大男を含む全員が武器を抜く。


 こちらに武器を向ける。ひどく物騒な人たちだ。

 武器は手入れがあまりされていないのか、汚れているように見える。

 彼らの見た目は創作に出てくる冒険者のよう

 なら僕を殺しにくるのは自然か。

 初めて会った人間が対話できない相手なのは辛い。

 勘違いしてしまいそうだ。


「角……ってことはこいつがドラゴンか」

「人型に擬態できるほどとなると高位のドラゴンだと思います」

「まじかよ」

「バインド!」


 地面から突如ツタが飛び出し、僕の手足に素早く絡みついてくる。

 動かないで居たら、強く縛りつけられてしまった。

 ツタで絡まれた腕を軽く動かす。

 かなり強く縛りつけられているけれど、これなら簡単にちぎれる。


「ナイスだ! 畳み掛けるぞ」


 剣を持った男性がそう叫ぶと、大男と男性が同時に突っ込んできた。

 剣と斧が大きく振りかぶられる。


 ……困った


 少し思考する。

 今のこの状態程度は問題はない

 この身体なら拘束を破り、目の前の4人を数秒足らずで殺し切れる

 そんな自信がある。

 だけど、僕は元とはいえ人間だ、人に対しては同族としての意識が強い。

 人を殺したくない

 襲いかかられているけれど、殺すのには抵抗がある。


 ……どうしようか


 考えている間も、刃が迫ってきている。

 そして、動かない僕に2つの刃が触れた。


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