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第139話 最終回

 カミラが薬草を持って橋を渡る。

 イオラが、スッと自然体でカミラの斜め後ろに移動して歩く。

 何かあった時に、すぐに助けに入れる位置。


 ……慣れてるのか?


「何往復?」

「2往復、数種類を1個ずつだから」

「何か足元に違和感あったら言って欲しい」

「わかった」


 橋は完全に安全とは言い難い。

 だからこそ違和感があったら、即座に対応しないと危険になる。


 何事もなく橋を渡りきる


「どこ使っていい?」

「あまり遠くてもだから……この辺かな」


 柵から3メートル位のところに足で線を作る。

 離して育てる理由がないからだ。

 それに離れてなければ、魔法を一度で済ませられる可能性が高い。


 カミラが薬草を植えていく。

 その作業は丁寧で早い、慣れた動きで持ってきていた分を植え終えた。

 橋を渡りまた持ってきて1つを除いて埋める。

 合計で1時間もせずに作業は終わった。


「先に魔法使って欲しい」

「良いの? 分かった」


 僕は、魔法を行使して土の栄養を活性化させる。

 これで早く育つはず。


「凄い魔法ですね」

「栄養はまだ?」

「効果が染み込むまでは時間かかるね。でも午後には完了するはず」

「なら大丈夫」

「そういえばなぜ魔法が先?」

「最初から栄養が豊富じゃないと、この種は周囲の栄養を喰らい尽くすから」


 ……怖っ!?


 栄養を喰らい尽くす。

 それほどに栄養を求めているのだろうけど、中々に恐ろしい話だ。

 迂闊に植えたら周囲の植物が全滅してしまう。


「僕の育ててる植物で栄養はある程度整ってるから新しい魔法の効果が効き始めたら、かなり栄養豊富になると思う」

「なら良かった」


 午後までは、各自の作業をする。

 僕はゴーレムとの鍛錬を再開した。

 そして、午後、食事を終えて3人で向かう。


「しっかり染み込んでる」

「分かった」


 カミラは透明な容器から小さな種を取り出す。

 そして、地面の中に埋める。

 カミラが埋め終えて少し離れる。


「離れておいた方がいい」

「わ、分かった」


 突如、土が蠢く。

 埋めた部分を中心にして土の中を何かが這い回る。


 ……えっ、何これ!?


 初めて遭遇する事態に僕は恐怖を感じる。

 まるで生物が土の中を這い回っている、そんな感じがしている。

 凄い怖い。

 土が変化していく。水を失い砂漠の砂のようにサラサラとし始める。


「これは……水を運ぶ」

「緊急事態?」

「想定よりも栄養が豊富だったから、種が次は水を溜め始めた」

「なら任せて」


 物体操作で水場から水を持ち上げる。

 そして、埋めた場所に注いでいく。

 注がれた水は、土に染み込む前に根っこに取られて吸い取られていく。

 生き物のように動いている。


 ……怖っ!?


 改めて怖い。

 やってることが植物じゃなくて生物。

 それも宇宙生命体とかそっちの方の動き。


「どんだけ飲むのかな」

「いや、もう充分」


 残った水が地面に吸われていく。

 必要分は吸いきったようだ。

 それでも、僕が持ち上げた2mくらいある水のたまの半分は吸い取った。


「これでOK?」

「この後はもう育つだけ」

「なんとも奇妙な植物ですね」

「特殊な植物だから」


 何とか山場を超えたようだ。

 凄いびっくりした。

 こうなるなら先に言って欲しかった。


 そして、各自の作業に戻り3日後

 埋めた場所に2mにはなる立派な植物が生えていた。

 草と言うよりは小さめな木のような植物だ。

 その植物から、複数の薬草が混ざったような匂いが鼻腔をくすぐる。

 凄い不快に感じそうなのに、不快じゃない。

 むしろ良い匂いがする。


「これで害虫は寄らない」

「取引完了ってことでいい?」

「良い」


 それから2週間毎日様子を見たが、虫食いは一切起きなかった。

 その間に商人が来て、こちらの取引も進めた。

 新しく作ったものを売り、鉱石類や生活に必要そうな物を購入した。

 雑談でこれまでに起きたことを話す。


「地龍が……いえ、こちらはそういった怪しい噂は聞いてませんね」

「そうか、もしも何か掴んだら情報料は払うから教えて欲しい」

「分かりました。こちらも少し探りを入れてみますね。あぁ、それとイオラ様、彼が街中を歩いていたという情報がありましたよ」

「情報ありがとうございます。気をつけます」

「それではフィリス様との交渉がありますから」


 商人は話を終えて立ち去る。


 別の日にフィリスが来た時、2人を見た後、呆れたような表情で僕を見ていた。

 何故だろうか。僕には分からない。


「人間2人か。片方は暗殺者か。一体何をする気だ?」


 フィリスさんが、イオラを少し睨みつける。

 相変わらず、圧がある。

 イオラは動揺していないのか冷静に返す。


「私は匿われているだけで、あなた方に危害は一切加えません」

「彼女が何かするようなら、追い出すか突き出すから」

「そうか、ならば良い。そこの薬草師」

「何?」

「傷に効く薬草があれば売ってくれないか。馬鹿が遊んでる時に怪我をしてな。少し深めの傷だ」

「それなら、これかな? 傷口に塗って包帯で縛ったら効果ある」


 カミラは、包帯と傷薬を手渡す。


「感謝する」


 イオラに向けた圧のある睨みではなく、フッと優しい顔で硬貨を渡して礼を言う。

 フィリスさんってあんな顔が出来たのかと、僕は驚きである。


 それからは平和だった。

 暗殺者が来るでもなく、冒険者も来ない。

 イオラが行う集落での手品の手伝いをすることもあった。魔法が僕起点だから。

 騎士たちは僕を龍だと認識していながら、騒ぎ立てることはせず、軽く挨拶をしてくれる。


「悠真兄、手品師の助手?」


 この集落には、定期的に勇者の大和か嶺二のどちらかが来ている。

 一応、僕の監視らしい。

 間違いなく勇者なんて人手は、他のところに送った方が良いと思う。

 思うだけで、僕としては歓迎だ。

 ここは比較的安全、ゴーレムの守りもあるし神狼族のナワバリでもある。

 勇者とはいえ2人に無理をして欲しくない。


「そうだよ。2時間後から始まる」

「良いね。頑張って」

「何か用事でも?」

「いや、騎士がいると威圧感あって客が集中出来ないんじゃないかと思って」

「……威圧感? いやいや、君らって僕やゴーレムよりないでしょ」


 僕は笑いながら言う。

 龍とゴーレムの威圧感に比べたら、騎士なんて可愛いものだ。


「それは嬉しいような嬉しくないような……」

「威圧感なんて与えない方がいい。その方が楽」

「それもそうか。……よし、みんな手品見に行くぞ! 特別休憩だ」


 騎士たちが喜んでいる。


「職務は全うしろよ?」


 手品は無事に終わった。

 騎士達がしっかり観客席に居たからゴーレムの数を増やして入口待機をさせた。


 小屋に帰り、葉水の入ったコップを片手に外で座って空を見上げる。

 特に理由は無い、けれどそういえば空をしっかりと見上げたことがなかったなと思い出した。

 晴天な上、森の澄んだ空気で綺麗な星々が見える。


「どうかしたか?」


 シクがヌルッと現れて隣に座る。


「……平和だなぁと思ってね」

「最近は争いが少ないな。良い事か?」

「とても良い事だよ」


 これからも戦いは起きるだろう。

 命をかけた殺し合いだって起きる。

 だから、強さを求めるのは辞めない。鍛錬は続けるし新しい魔法も作る。

 戦い以外にも、新しい道具を作ったり、冬用の植物を育てたり、料理をしたり、とやることが沢山ある。


 葉水を飲み終えて立ち上がる。


「そういえば、そろそろ2人に会わない? 同じ場所に住んでるんだし」

「私を認識するのはおすすめしない」

「僕は、既に認識しているのだけど」

「気が乗った。良かろう」


 2人が居る小屋の中に帰る。


 これからも過酷なこの世界で僕は生き抜く。

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