表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/139

第133話 手品師の名前

「そういえば、名前は?」


 僕は手品師に名前を聞く。

 そういえば彼女の名前を知らない。

 手品師の名前を呼ぶ機会がなかったから、普通に忘れていた。

 カミラは出会った時に名乗ってくれていたけど、手品師の方は名乗っていなかった。


「名乗ってなかったね。私の名前はイオラ」

「イオラね、僕の名前は悠真だ」

「ユーマ? ユウマ?」

「ユマ?」


 2人はうの発音の仕方やイントネーションに困っているようだ。


「悠真、もしかしてこっちの発言と微妙に違うのかな? まぁ呼びやすい名前でいい」


 日本語に近いし喋っている言葉を互いに理解出来ているから気になっていなかったが、発音に僅かな違いがあるかもしれない。

 こっちに来てから僕が名乗ったのは、シク以外では異世界人の2人だ。

 そして、こちらの人名は日本人の名前とは違う。だから、馴染みがない可能性は高い。


「ならユマ」

「私もそっちで呼ぼう。その方が呼びやすい」

「僕が分かる呼び方なら構わない」

「不思議な龍」


 カミラがボソッとつぶやく。


「そう思われるのは自然だろうね」


 僕は龍に詳しくない。だけど、今までに会った龍のことを考えたら僕は異質だ。

 興味はあるけど、僕は龍のような生き方をしたいわけではないから積極的に知る気もない。


「君は人に近い気がする」

「それはどうだろう。僕もよく分からない」


 少し静寂に包まれてイオラが話題を変える。


「……あぁ、そうだ。さっきの焼魚は何か特殊な調味料でも使ったのかい? 確か焼く時に何かを振りかけていたようだけど」

「白い果実」

「あぁ、この果実を使ったんだよ。塩辛い果実でね。身を細かく潰すと甘い塩になる」


 白い果実を見せる。

 何かあっても大丈夫なように少量だけ、そしてしっかりと焼いて提供した。

 薬草師のカミラが果実を見て何も言わなかったから、毒性があるものでは無いと判断した。


「凄いしょっぱい果実、少量使うと調味料として生かせる……知らなかった」

「私は見覚えのない物だ。山に生えてる?」

「そう、この山で見つけて回収した。塩っぽかったから、前に試してみたら上手く行った」

「これ欲しいかも」

「なら細かくして小瓶に詰めようか?」


 ……これ売れるかも


 2人の反応が良いことを考えると、人間社会での一定の需要はありそうだ。

 生存に不可欠な食を豊かにする物。

 そして、虫食われの被害が出なかった植物のため、今年中にも、何個か回収出来る。


 小瓶に詰めて商人に渡せば、おそらく色々な場所で売ってくれる。

 道具では無いけど、商人なら結構食いつきそうな内容のものだ。

 金を得る手は多い方が良い。

 カミラは、存在は知っていても調味料になるとは知らなかった。

 イオラは、初めて見るような反応を見せていた。

 だから、これは良いビジネスチャンスだ。


「小瓶ならバックに大量に入ってる」

「使ってもいいの?」

「良い。予備で持ってるだけだから、保存に使いたいなら数個どうぞ」

「保存容器がなかったから助かる」


 焚き火の火を消して小屋の中に入る。

 イオラはロウソクに火をつけ、椅子の上に置いて部屋の中を明るくする。


「この小屋に明かりは?」

「持ってない。普段は能力の炎を使って少し照らしてどうにかしてる」

「……その炎は、手元から離れてもしばらく維持出来るのかい?」

「燃やし続けるだけなら可能」

「ならいい物がある」


 イオラはいつの間にか持っていた自分の荷物から、鉄製の小型のランタンを取り出した。

 ただ明かりは付いておらず、ランタンの中には何も入っていない。

 そして、ここに火を入れるように促してくる。

 ランタンの大きさに丁度いい炎を出して中に入れる。


 ……このくらいかな


 炎がランタンに入ると、ランタンは光を放って周囲を明るく照らす。

 炎によって照らされた明かりではない。

 感覚としては電球などの明かりに近い。

 炎のような熱を感じず、肌をひんやり撫でる冷たさのある光だ。


 ……少し冷たい光? 僕の炎を原料にして動いている遺物なのか?


「ココに泊めてもらう予定なので、私も貢献しないとだから、とっておきの遺物を提供しよう。遺物光炎灯(こうえんとう)


 イオラは手品師が客に見せるようなウインクをする。ファンサービスに近い事だろうか。


「明かりはありがたい」


 剥き出しの炎は、ちょっと小屋を燃やさないかと不安になっていた。

 夜でも小屋の中で活動が本格的に出来る。


「小屋は少し広めに作ってあるから、2人とも寝れるスペースはある。寝具はないけど」


 山の中でテントで寝かせるのは忍びない。

 来客想定はしてないから寝具は無いけど、小屋の中で寝るスペースはある。


「今日は寝具も入ってる荷物を持っているから問題ない。昨日はありがとう」

「寝袋ならちゃんと持ってる」


 夜、個人でそれぞれ活動をして、好きなタイミングで寝具を使って眠りにつく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ