第129話 2つ目の取引
案内されて歩いている間、周囲を見る。
集落は家が何軒か増えていて、酒場と書かれている建物も見えた。
だいぶ復興が進んでいる。
魔族戦以降は、敵襲は来ていないからだろう。
……ゴーレム1体で足りるかな
鉱石製にしたゴーレムは強い。
しかし、上澄み連中には届かない気がする。
まぁ、上澄みばかりを考えていたら埒が明かない。
「そういえば、ゴーレムを集落に1体置いてるのは何かの理由が?」
「人畜無害だって教えたいんだよ。ここなんて襲撃の拠点に丁度いい」
「確かに、私もここに来たのその為だったし……あぁ、手品をしに来たのは本当だよ」
「どっちが本業」
「手品師のつもり、暗殺は……まぁ色々とね」
手品師の声が少し小さくなり、最後の方は上手く聞き取れなかった。
後ろに居るから、彼女の表情も分からない。
……冒険者ではなく、暗殺か
彼女は暗殺と言った。
つまり彼女は暗殺者で、今回の邪龍狩りもその暗殺の依頼となる。
大和に伝えた伝言で、表立っての依頼が出来なくなった可能性はある。
だから、暗殺者に頼む。有りそうな話だ。
「着いた。ここだよ」
大きめのテントが立てられていた。
中で占いとかしてそうなテントだ。
この大きさなら、中で商売が出来そう。
「本当に簡易的なテント……中に居るかな」
「失礼するよ。居るかい?」
「どうぞ」
中から声がした。どうやら居るようだ。
手品師が、先にテントの入口を開け中に入る。
「怪我でもした?」
「いや、別件」
「失礼します。うおっ、薬草の匂いか」
……薬草って匂い強いんだったね
テントの中に入ると、薬草らしき匂いがする。
臭くはないけれど、匂いが強く驚く。
香水に使いそうな匂いも少しする。
僕の姿を確認すると、持っていた小瓶を置いて心配そうな顔をしてこちらを向く。
「体調悪化した? どんな変化か教えて」
「いや、体調は問題なく回復したよ。別の件で聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「植物育てているんだけど、害虫対策で何か良い道具とかある?」
「害虫対策?」
彼女は首を傾げる。
「先生は薬草育てていませんか?」
「育ててる。避けとして使えるの1つあるよ」
「どんなやり方?」
「ある薬草を育てる。私の一族に伝わる薬草」
「一族に……」
……それは譲ってもらうの難しいかな
一族に伝わるとなると、一族の手で改良されている人工薬草。
もしも、大量繁殖させていたら、ワンチャンあるくらいだろうか。
「それって大量にある物?」
「少ない。多分……10個くらい?」
「それは……無理かぁ」
さすがにそんな貴重品を、譲ってもらうわけには行かないだろう。
薬草となると育てて、維持をする必要がある。
僕に農業系のノウハウはない、小屋の付近は戦闘が起きかねない危険地帯だ。
「必要なら譲ろうか?」
「いや、辞めておく。育てられる自信もない」
……何かあった時に責任も取れない
「……その場所って広い?」
「狭くはないかな。見てたか分からないけど、滝の反対側の土地」
「ほう、あそこなら、十分な広さがある」
「それなら、一部貸してほしい。私はちょうど薬草畑が欲しい」
「薬草畑? 構わないよ」
あの場の全体を使う訳ではない。自分やシク分の食用植物が取れたらいい程度の話だ。
大半を使わない予定だった。
薬草畑の大きさは分からないけれど、中規模くらいなら多分何とかなる。
「なら土地を借りる代わりに、私が害虫害鳥避けの薬草を育てる」
「それは、こちらとしてはかなり有難い条件」
カミラの出した条件は、悪くない条件だ。
害虫対策が出来る上、その薬草は知識のあるカミラが育ててくれると言う。
そして、カミラにもメリットがある話だ。
薬草も水が必要になる、あの場所ならばすぐ近くに水は大量にある。
その上、僕の魔法を使えば育つのも早くなる。
……こっちの得が多い気がする。平等じゃないな
「こっちに出来る条件を増やしていい。貴重な物を共有してもらうなら平等じゃない」
「普通に受けたら良くないかい?」
「取引は平等にやりたいんだよ。そっちの方が後で問題が起きづらい」
損得において、自分の得よりも損の方が大きく感じてしまう。
今は良くても、その得と損の差は埋まらないから、いずれは何かの拍子で関係に亀裂が走るリスクとなる。
そうなることだけは遠慮したい。
「それなら……近くに住ませて欲しい」
「構わない。簡易なものだけど小屋も作れる」
「なら、薬草置ける棚欲しい」
「木製で良ければ用意出来る。必要なものは材料と仕組みさえ教えて貰えれば出来る」
「充分、それで取引」
カミラは僕に手を差し出す。
「分かった。取引成立と行こう」
僕はその手を取る。