第125話 手品師
「気付かれたか。思ったより早かった」
冷気吹き荒れる中から、燕尾服を身につけた人物がゆっくりと現れた。
上は少し大きめなジャケットにピッタリなワイシャツを着ている。
下はピッタリとして、線が分かるようなズボンを履いていてポケットも見える
昼間に薬草師と一緒に居た手品師。服装も一切変わっていないから一目で分かる。
薬草師の姿は見えない。
……敵になると厄介とは思ってたけどまさか、本当に敵になるとはね
戦える力を持っていそうではあった。
龍相手に1人抱えて逃げられる自信があったり、魔法にやたら詳しい。
少なくとも楽に勝てる相手じゃない。
構えながら話をする。
「薬草師もグル?」
「いや、彼女は関係ない。本当に偶然同じ時期に集落に来た薬草師だ。利用させて貰った」
「利用……あぁ、敵情視察か」
本当に薬草師がグルでは無いと仮定すると、一緒に居た理由として、怪しまれないためならば普通に納得が出来る。
薬草師の彼女は、本当に薬草を売りに来ていたとしても不思議じゃない。
今日会ったばかりだけど、なんというか裏の策謀とか出来そうなイメージがない。
……まぁ敵の言葉だ。信用はしない
殺しに来た相手の言葉は疑ってかかる。
こうやって会話をしている間に、奇襲をしかけてくる可能性はある。
奇襲より怖いのは、薬だ。
もしも、薬草師もグルで敵なら薬は治療用じゃない可能性が高い。
即効性は無い。ただ夜間の戦闘に備えた厄介な毒は有り得る。
龍の能力のお陰で毒の耐性はあるとは思うが――確定ではない。
警戒はしたいが、今対策が難しい。
「そうだね、敵情視察だ」
「目的は? 龍殺しの称号? それともなにか有益な情報でも流された?」
「依頼だよ。龍狩りの依頼」
素早く手を動かしたと思ったら、3枚のカードを手にしていた。
……え?
僕は思わず驚きの声が出そうになったが、心の中で留めて抑えた。
僕の目はしっかり彼女の動きを捉えていた。なのにカードがどこから現れたのか、分からない。
魔法か、それとも手品師としての技術なのか。
どちらにしても、面倒そうな相手だ。
……カードで戦う? どういう戦法だ?
戦ったことのない戦闘スタイル。
ましてや、カードを使っての戦いとなると、どう来るかが見当つかない。
じっと動きを見て構える。
分からない以上、下手には攻め込まない。
手品師はカードを片手で動かしている。
そして、3枚のカードを指に挟むと動き出した。
3枚のカードが飛んでくる。
迎撃するために、拳をカードの平面を突くように軽く振るう。
……多分、投げナイフみたいな感じ
投げならカードの側面を細く鋭く仕上げていると予想は出来る。
昔、カードを投げて果物に刺さっていた動画を見たことがある。
あれと似たようなことだと思うと、無視よりも迎撃が安定だ。
まぁ果物のように切れる身体ではないけど。
「解」
手品師が言葉を呟く。
剣が降ってきた時に言っていた言葉だ。
悪寒は来ない。
けど、何か嫌な予感がする。
言いようのない不快感がゾワゾワと身体の中を駆け巡るような。
一瞬の思考の末に僕は動く。
拳を戻しウロコを生やして、両手をクロスさせガードをする。
咄嗟の行動に近い速さ。
1枚のカードからは、メラメラと燃え上がる炎が現れ僕を焼こうと迫ってくる。
両手が炎に包まれた。腕を振るい炎を払い消す。
胴体の服も僅かに焼かれた。
「熱っ――炎!?」
その後、大きな衝撃が2つ胴体に走る。
「いっ……」
炎の対処でガードを外した瞬間を狙われた。
胴体にはウロコを出していなかったから痛い。
僕は、衝撃を耐えず地面に倒れる。
受けた部分がヒリヒリとする。
「くぅ……厄介だな」
……なるほど、そういう魔法か
手品師の扱う魔法の正体がわかった。
今受けたこの痛みには、覚えがあった。
僕はすぐに起き上がる。
目の前には2体のゴーレムが立っていた。
カードから現れたのだろう。投げられたカードの数とも合っている。
僕は、物体操作に切り替える。
魔法のカラクリが分かった。
2体のゴーレムを即座に崩し鉱石の山にする。
これでこの2体は封じた。
そして、突っ込む。
接近して、拳を振るう。
「そう甘くはないよ」
僕はグラッと体勢を崩す。
手の甲を叩かれ軌道を逸らされた。
続けて反対の手を振るうが、これもまた同じように逸らされる。
そして、手品師は裏拳を繰り出す。
首を動かし避ける。
……危なっ、距離を取る
距離を取って、一旦体勢を立て直す。
そう考え飛び退こうとした瞬間に、腹部に鋭い衝撃が走った。
「ぐっ……」
そのまま、飛び退いて距離を取る。
痛むお腹に手を置く。
一撃が鋭い。
僕の速度に追いつくどころか、捌いてる。
……どうなってる。身体強化系の魔法?
手品師は接近し拳を振るう。
僕はウロコを生やした腕で防ぐ。
鈍い衝撃は走るが、ウロコがあれば痛くない。
「ほう、硬いね」
「自慢のウロコなんでね」
一度、力は込めず軽く拳を振るう。
手品師は片手で捌く。
上手く捌けなかったのか、彼女は僅かな隙を見せた。
僕は、そこに渾身の蹴りを繰り出す。
しかし、当たるギリギリで避けられ、横腹に鋭い衝撃が走った。
反撃をウロコのない部分に食らった。
「くっそ、罠か」
攻撃を受け、僕は誘われたと気づく。
よろめくが、咄嗟に両手で引っ掻くような攻撃をして追撃を凌ぐ。
その場で、格闘戦が繰り広げられる。
手品師は僕の攻撃に対し、全く怯まず引かず、捌いて反撃を繰り出す。
僕はウロコのある腕で攻撃を防いで、反撃をして直撃を狙う。
奪われたら面倒だから携えていた剣を、小屋の方に放り投げる。
そして、構え直す。