第124話 奇襲と冷気の魔法
僕は寝転がり安静にしていた。
1日と言っていたから、少なくとも翌日までは安静にしておきたい。
安静にしつつ出来ることで、監視役のオオカミに「地龍は仕掛けてこなくなったかも」とフィリスさん宛に伝言を任せた。
完全に攻め込んでこないとまでは、言いきれないから曖昧で済ませた。
害虫対策の魔法をぼーっと考える。
「明日からは?」
「状態次第だけど、大丈夫だと思う。元々そんなに酷くはなかったし」
「そうか、魔法は思い付いたか?」
「思い付いたのはあるけど、虫除けの成分が分からないから作れない。他のはパッと出てこない」
……うん? 敵か?
僕は起き上がる。
小屋付近に待機しているゴーレムの1体が、周囲の異変を察知した。
ほぼ敵だろう。
既に外は夜になっている。
夜中にとは暗殺目的か。
そのゴーレムを戦闘態勢に変更させて、他のゴーレムの状態を確認する。
「……居ない? どうなってる」
「居ないとは厳密には?」
「ゴーレムの位置が分からなくて命令が通じない。ただ壊されているのとは違う」
初めての感覚だ。
破壊される程度ならあったが、位置が分からず命令も通じないなんてパターンは初めてだ。
こんなことが出来るとなると、けっこう厄介な相手な気がする。
「ほう、ならば亜空間系の魔法の使い手か」
「亜空間系の魔法? 転移とは違うの?」
「この空間とは違う独自の空間を作り出す魔法、空間を結ぶ移動が基本の転移とは近いが違う。厄介な魔法だが魔力の消費が桁違い」
「うーん、それなら枯渇を狙うべきかな」
魔力の消費が多い魔法なら多用は出来ない。
魔力の枯渇を狙うか、渋っている時に攻めるか。
枯渇なら多用させる戦いをすればいい。
戦いの準備をして、僕は小屋を出る。
周囲を軽く確認する。
すると、ゴーレムの姿が無かった。
小屋の近くに待機させていて、動かしていなかったゴーレムが1体も見つからない。
異変を察知していたゴーレムも、いつの間にか位置が分からなくなっている。
……飛ばされたか。ゴーレムは使えない
「解」
「……!?」
突如周囲に、冷気が吹き荒れる。
身が凍えるほどの寒さの冷気が、僕の周囲を包み込んでいる。
冷気の寒さで身が震える。
視界が白く塗りつぶされていく。
「寒っ……冷気――氷系の魔法か。なら」
能力を切りかえて、炎を作り出す。
炎の熱で、寒さを相殺する。
もしくは、この冷気を吹き飛ばす。
その間も周囲を見渡すが、敵の姿は見えていない。
冷気のせいで、近くしか見えず探すのが困難。
「封」
「なっ!?」
炎が消えた。
僕は炎を消してはいない。消された。
跡形もなく一瞬で。
冷静になり、すぐに答えを導き出した。
……亜空間魔法か。物体、それも不定形の炎すらも可能と来るか
ゴーレムだけでなく、炎までも亜空間に飛ばされた可能性がある。
冷気の強風が吹き荒れて、他の音は殆ど聞こえない。
白い景色の中、僅かに色が違う何かが見えた。
その瞬間、身体に衝撃が走る。
防御が間に合わなかった。
「ぐっ」
すぐに蹴りを繰り出して、反撃を仕掛ける。
しかし、蹴りは大きく空を切る。
この展開された氷魔法は、僕の視界を奪うための魔法のようだ。
炎で消し去ろうにも、亜空間魔法で消されてしまう。
……なら、迎撃だ。物体関係は無理、ならば身体強化で行くか
身体強化の能力に切り替える。
この能力は、物体を操る力ではない。
だから、亜空間に飛ばされるリスクは減る。
周囲を警戒して待つ。
多分、また奇襲をしかけてくる。
そこを狙って、一撃で沈める。
厄介な魔法を使おうが、気絶させてしまえば発動は出来ない。
「寒すぎる」
……これ早く倒さないときついな
身体が寒さでかじかんでいる。
この状態だと、万全の動きは出来なそうだ。
ただでさえ、治療は受けても完治していないのにこの状況は非常に不味い。
一瞬、視界の中に白い以外の色が見えた。
念の為に、ウロコを生やして奇襲を片手で受ける。
また蹴りだ。衝撃はあるが、痛みは無い。
足を掴んで、拳を振るう。
これで終い。
「解」
――複数の剣が空から降り注ぐ。
とっさに敵を離し、素早く拳を振るって剣を砕いて捌き切る。
念の為の警戒をしたが、降って来ていたのは普通の剣だった。
これなら無視しても大丈夫そうだった。
……剣? どういう魔法だ? ――今の声
拳を振るう前、剣が降る前に僅かに聞こえた声を僕は聞き逃さなかった。
そして、その声には聞き覚えがあった。
昼間に聞いた声だ。
「わざわざ、手品を見せに来たのか?」