第120話 隠し事
「やっぱり何かしらの魔法を使ってるのかな」
「魔力の流れや手品の初めと終わりで、魔力に差が無いから使ってないと思うぞ」
「陣の可能性は?」
「それなら発動が読める。相当隠密技術が高い可能性は捨て難いが……まぁ無いだろう」
発動方法が陣でも魔力の流れなどが存在する。
注意深く見ていれば、魔法を発動したなら気付く。
手品を見破ろうとする人は多い。
ましてや、魔法のある世界なら魔法によるものというのは真っ先に疑うのは妥当だろう。
「手品師って器用だからね。手品師になる為に色々とスキルスリー伸ばしてるんじゃない」
「あぁ、確かに幅広く出来るとその分、手品でも役に立ちそうだよな」
手品師は器用なイメージがある。
だから、色々と魔法関係の技術も磨いているのだろうと考えている。
手品師の話をして一段落ついた後、嶺二は薬草師の話も始める。
そっちも気になっていた。
「薬草師って薬草を使うってことだよね」
「あぁ、そうだ。塗り薬、飲み薬、後湿布みたいなのも売ってた」
「この世界でもあるんだね」
僕は少し驚く。
薬草はあってもおかしくはないけど、この世界では魔法による治療が可能だ。
だから、基本的に薬草などを使うより魔法の方が広まっている物だと思っていた。
「俺も薬草師が来て初めて知った。この世界の治療って基本魔法だから」
「だよね。魔法なら即回復だし魔力は基本的に全員保有しているみたいだし、そっちが主流なイメージある」
「集落でも売れてなかったな」
「何か買った?」
「念の為に、傷口に塗る薬を買った。俺はあまり治療系の魔法が得意じゃないからな。それに」
嶺二は鎧の中から小瓶を取り出す。
緑色の液体が入った小瓶。
小瓶が揺れた際、水のチャポチャポと言った音や感じはせず、ドロッとした動きをしている。
あれを傷口に塗るらしい。
「それに?」
「やっぱり薬系の方が馴染みがある」
「あぁ、分かる」
僕も嶺二の気持ちがよく分かる。
あちらでは魔法なんてなかったから、怪我や病気などがあれば薬が主流だ。
医学、科学技術の結晶たる薬は安心感がある。
魔法は僕らにとっては、未だに未知の技術という認識が強い。
雑談を交わした後、嶺二は帰る為に席を立つ。
僕は、小屋の入口で嶺二を見送る。
「あぁ、ゴーレムの剣は伏せておく」
「そうしといてくれ。無駄に警戒させたくない」
ゴーレムは現状、集落で手伝いや守り神的な役割を担っている。
村人達にも受け入れられているだろう。
しかし、それはあくまで嶺二達のような騎士が操作権を握っていることや救ったこと、害のある行動を取っていないことに由来する。
だから、剣を持っていることは隠すべきだ。
「もう信頼してもいいと思うがなぁ」
「いや、龍の作ったゴーレムだ。警戒心は持っておいた方がいい」
「確かに、警戒心は大事だな」
嶺二は帰っていく。
……さて、あっ、そうだ。小屋の作りさっさとやっちゃおうかな
白銀の鉱石を、物体操作で組み替えて、小屋の壁の材料を取り替える。
これが大量に欲しかったのは、料理器具だけのためではなかった。
5体のゴーレムと2体の地龍が運んでくれた分があれば、今の小屋程度なら余裕で足りる。
「全体を変えるのか?」
シクがヌルッと現れて聞いてくる。
「いや? 攻撃に対する物だから外側だけ」
「外側だけ?」
「外側の壁を結構厚くして、攻撃で中が破壊されるのを避けたい」
変えるのは小屋の全体ではなく、支柱部分や内部は石を混ぜた木で補う。
あくまで外部の攻撃を防ぐための物、密度を高めて層を作っておく。
「内部は前と変わらないか」
「今守るべきなのは外側だからね。そっちに集中させておきたい。内部は今まで通りでいい」
僕が警戒しているのは、外側からの攻撃による破損、被害だ。
テキパキと物体操作で作り替えて行き、夕方の少し前くらいには完成した。
そして、物体強化の魔法を掛けておく。
単一の物質の為、複数対象の時より効果を上がっているはず。
「強化の魔法は応用はしたけど改良はしてないからこれも進めとかないとなぁ」
「今でも十分な硬度、後回しで良い」
「先に害虫対策か」
害虫対策の魔法の考え、夜に眠りについた。
翌朝
新しくなったゴーレムとの鍛錬を行う。
頑丈になっていて石のゴーレムのようには簡単には破壊できない。
魔力を込めて拳を振るい、一撃を叩き込む。
これなら破壊が可能。
充分圧倒は出来る。しかし、硬くなったことで戦いづらさは増した。
今まで使っていたあしらう為の軽い攻撃は、強固な身体に防がれてしまう。
そして、防がれた時に他のゴーレムから攻撃を叩き込まれる。
「いったっ」
ウロコ無しだと攻撃が痛い。
もっとも、それだけ戦力として期待できるということだから嬉しいことではある。
鍛錬を終えて、少し休憩を挟む。
この後は、魔法制作だ。
害虫対策の魔法は、作るのが難しい。
時間がかかりそうだ。
「居た」
「彼女が例の龍のようだね」
「そうみたい」
……2人組? 片方は手品師?
微かに声が聞こえて、そちらに視線を向ける。
すると、2人組が立っていた。
片方は燕尾服を着ていて、手品師が使うハットを身につけている。
もう1人の女性の方は手品師という感じではなく、間違いなくサイズが合ってない大きな白衣を身につけている女性だった。
2人は僕の方に近寄ってくる。