第114話 シクの考えた作戦
しばらく、ゴーレムを部屋の中で暴れさせる。
床を蹴り壁を遠慮なく殴り続ける。
同時に攻撃を仕掛ける、土の棘を砕いて武器のように振り回す。
片腕をもいで天井に投げ飛ばした後、床に落ちた腕を拾いくっつける、様々な手段で破壊を試みている。
どんどん、部屋がボコボコになっていく。
天井や壁が崩れ、土煙が舞う。
「そんな事をしても無駄じゃよ、その程度で儂は見つけられはしない」
「くっそ、どこにいる! ゴーレム! そのまま攻撃して炙り出せ!」
僕は焦りを見せて、声を荒上げる。
ゴーレムへ指示を出す。
何処にいるか、分からない状態で戦闘が続けば、人は焦り出す。そういう物だ。
だから僕は、そう演じる。
地龍の王の反応からして、どうやらこれが演技だとバレていない。
僕は意外と演技派かもしれない。
「さて、どこじゃろうな」
「引きこもりが、見つけて引きずり出してやる」
「威勢が良いのぉ」
……さて、タイミングはいつだろうか
言葉では過激な事を言いつつ、心の内では落ち着いて冷静に考える。
冷静な事をバレてはならない。
まだ絶好のチャンスを探っている。
そのチャンスの瞬間に、剣で一撃を叩き込む。
ここまでチャンスに拘るのは、確実にダメージを与えたいからだ。
まだ体力に、余裕があるから様子を伺う。
「どうした? 場所は分かったのだろう」
シクが聞いてくる。
シクからしたら、まだ攻撃をしていない事が不思議なのだろう。
「今はタイミングを図ってる。適当に突っ込んでどうにかなる相手じゃない」
「ならば誘い込めば良い」
「と言うと?」
土の棘を捌きつつ、シクから作戦を聞く。
一旦、飛び退いて剣を構え直す。
シクの作戦の内容は、確かにそのやり方なら行けると思うものだった。
地龍の王の不意をつく為の作戦。
僕にそれ以上の案が浮かばない。
「なるほど、良いね。乗った」
実行するなら、早いほうが良い。
地龍の王がいつ動きを変えるか、分からない以上は、手早い実行が望ましい。
「即答か」
「余り時間をかけ過ぎても良くないから」
「しかし、演技が必要だ」
「意外と僕、演技派みたいだから」
「そうか」
土の棘を捌きつつ、無貌の形を変化させる。
僕は、大きなマントを作り出す。
作戦の為の物。
必須では無いけれど、合った方がやりやすい。
そして、戦いを続ける。
ゴーレムに部屋を攻撃させながら、僕は落ち着いて捌いていく。
「小賢しい真似かのぉ。遺物を使うか」
「小賢しいのはそっちでしょ。引きこもりの老害が、救いようがない」
「ほっほほ、死ぬがよい小娘」
僕の煽りが怒りに触れたようで、攻撃の激しさが一気に増した。
土の柱が四方から襲いかかってくる。
翼を利用して大きく飛び跳ねて、攻撃を躱す。
棘と違う質量による攻撃。
これは当たると、かなり痛そうだ。
……怒ったか。でもこのくらいなら
「ありゃ、怒った?」
「怒ってなどおらん。しかし、遊び疲れてのぉ」
「嘘下手すぎ」
身体能力を強化している今の僕なら、この位はまだ対処が可能。
柱を避けて、土の棘を剣で切り裂く。
柱を蹴り飛ばして、破壊する。
柱も棘同様に頑丈な訳ではないようだ。
ただ、数で襲いかかってくる。
避け続ける、捌き切るのは厳しい。
翼で大きく飛び退いて、一旦立て直す。
身体能力強化を利用し、素早く攻撃を捌いていく。
そして、次の柱の攻撃を避けようとした時、ズルッと足を滑らせてしまう。
「しまっ……」
そして、土の柱は直撃した。
滑り、体勢を崩した事で、回避行動が間に合わない。
「がっ……」
僕は、吹き飛ばされて地面を転がる。
そして、地面から生えてきた土の棘が、鋭く僕に襲いかかる。
体勢を直せていない僕にこれは避けられない。
複数の棘の攻撃を受ける。
「ぐぁ……がぁ……」
「ようやく動かなくなったか。全く虫のようにすばしっこかったのぉ」
「く……そぉ……」
僕は声を上げる。
大量の土の棘が、僕に先端を突き立てる。
貫かれたマントが見るも無惨なレベルで、ズタズタになってしまう。
着ていた服も一部が破れてしまった。
そして、僕は眠るように目を閉じた。