第112話 地龍の王の部屋
洞窟内の整備された道を、素早く駆け抜ける。
真っ直ぐ進む。
目的地は決まっている。
地龍の王の部屋
そこに向かい、速攻で地龍の王を叩く。
シクから予め地龍の王の部屋の場所については、聞いている。
……確かこっちを曲がって……この先を……
記憶にある道筋に合わせて、移動をする。
思ったより洞窟のサイズが大きいせいで、想像していた物との差で感覚が狂う。
道を間違えそうで怖い。
「誰か来る」
「わかった」
僕は足を止めて、素早く壁の後ろに隠れる。
そして、耳を澄ませると、足音が聞こえた。
止まらなかったら、鉢合わせていただろう。
シクが気付いて良かった。
僕は、音に気づけていなかった。
非戦闘員か、洞窟の見張りを担当してる地龍か、どちらにしてもバレる訳には行かない。
気付かれたら戦闘になる。
敵陣でそれは避けたい。
通り過ぎるのを、静かに待つ。
足音が離れていくのを確認して、軽く顔を出して姿を確認する。
地龍は、曲がり角に消えていった。
「よし、行ける」
また走って最短距離で向かう。
見張りや歩いている者は、隠れてやり過ごす。
そこそこ住処に残っているようだ。
……この先にあるはず
「うん?」
走っている途中で妙な違和感があった。
周囲を素早く見てその違和感の原因を探る。
敵陣でこの感覚を無視は出来ない。
そして、気づく。
「道が違う。間違えた?」
シクから聞いていた道と少し違う。
聞いていたよりも明らかに道が増えている。
新しく増えた道か、これでは部屋の正確な位置が分からない。
「慌てるな。落ち着け、道は増えていても位置自体は変わっていない」
「……初めて来るからその位置が分からない。シクは案内出来る?」
「その先、3個目の道を進んだ先を右に」
シクの案内を頼りに進んで行くと、大きな扉のある部屋に着いた。
大きく豪華で目立つ見た目の扉。
……趣味は合わなそう
僕の趣味に合わない扉の見た目をしている。
「この先にいる」
「この扉を開けるのかぁ。不意打ちは無理か」
できるなら不意打ちがしたかった。
しかし、この大きな扉を開けるなら、かなり大きな音がするだろう。
そうなると、不意打ちは難しい。
「無理だな。準備は出来てるか?」
「ちょっと最終チェックをするよ。まぁ足りなくても取りに戻るのは無理だけど」
深呼吸をして、装備の確認をする。
剣や札などの状態確認から、服装の確認までしっかりとしていく。
特に服装は動きづらさがないかが重要。
地龍の王の前の最終チェックだ。
……問題はないかな。よし行ける
想定していた万全の準備のままだ。
これなら問題なく戦える。
扉を軽く開いて中に入る。
地面の中を大きな機械で、くり抜いたかのような大きな部屋だ。
少し進んで周囲を見渡す。
相当のサイズ、龍体の地龍が何体も入れそうな程の大きさである。
明かりが壁に立てかけられて部屋全体を明るく照らしている。
「居ない?」
地龍の姿が見当たらない。
隠れるような場所は無いため、軽く見渡せば見つかるような場所。
なのに地龍の姿が無い。
部屋の中は、静寂に包まれている。
……別の場所にいるのか?
ここが自室だとしても、地龍の王も別にこの部屋に、ずっと居る訳では無いだろう。
読みが外れた。
でも、住処からは出ていないはず。だから、洞窟内を探せばいい。
引き返そうと後ろを向く。
地龍の王の行先が分からないから、しらみ潰しで探すしかない。
「避けろ」
声に反応して、咄嗟に前に倒れるように飛ぶ。
地面を軽く転がり、素早く立ち上がる。
そして、先程まで自分の居た場所を確認する。
大きな土の棘が4本ほど、僕の居た場所を刺し貫くように生えていた。
……能力か
地龍の能力だと、即座に理解する。
「何処にいる?」
能力を使ったということは、近くに居るはずだが、地龍の姿は変わらず見えない。
「蛇龍が儂らの住処に何用じゃ? その様子では傘下に下る訳では無かろう」
どこからか聞こえてくる。
部屋中に声が響いているようだ。
「戦争を止めるためだよ」
「戦争? 何の話じゃ」
「神狼族とのだよ。とぼける気? もう大群が出た事は確認済みだよ」
「あれは別の……」
「同胞を容易く手にかける奴が、断られて挙句、煽られて平然とする訳ないだろ? 悪いけど、ご老人の世話は目的じゃない」
僕は煽るように言う。
地龍2人の態度からして、地龍の王を対話ができる相手とは思っていない。
僕と話し合いをしたから止めるなんて、物分りのいい相手ならそもそも戦争なんて起こさない。
「若いな、蛇龍よ。儂に1人で喧嘩を売るとは、命が惜しくないのか?」
「さぁ、どうだろうね」
身体が震える。
地龍の王の威圧感が部屋中を包み込む。
今からあれと戦う。
正直すぐ逃げ出したい。けど、仕方がない。
そして、地龍の王の攻撃が火蓋を切った。