第110話 素人知識の制作
……確か、塩と水を分離する方法があったはず、あれが出来たら飲める
昔、何かでそんな話を、聞いたことがある。
だが、詳しく思い出せない。
話半分程度で聞いてたせいで、うろ覚えだ。
……なんだっけかな……分離……塩の分離……えぇっと、確か熱すると出来たはず
塩の作り方について思い出した。
塩水を蒸発させるやり方だ。
……水蒸気から水に戻ることも出来たはずだからその手を取ればいいか
熱するための炎は、能力で使える。
その上、この炎は煙が出ないから、今のような隠密時にも使える。
他に必要なのは、水蒸気を逃さない道具と水蒸気を水に戻すための道具。
つまり、冷却する為の物が必要となる
残念ながら、水系や氷系の能力も魔法もない。
「持つ知識で無理やり作る。まず熱する水を入れておく道具、これは水筒で行けるはず」
作り方を知らないから、僕の持つ少ない知識で必要な道具を割り出す。
「水蒸気を確保するのは……これは空の水筒で行けて、繋ぐパイプが欲しいな」
石を物体操作で操って、パイプ状にして蓋を外してある水筒に嵌める。
これで水を熱した後、発生した水蒸気を逃さない仕組みが完成した。
……冷却の機能が問題だなぁ
魔法でも冷却する術がない。
水で冷やす事は出来る。けれど、分離する為の水を除いた汲んできた水で足りるのか。
それが分からない。
その上、地龍に存在を気取られたくない。
ゴーレムが行くとはいえ、ここと川を何往復もとなるとリスクが高い。
「雨の匂いだ」
シクが空を見上げて、つぶやく。
雨の匂いを感じ取ったようだ。
シクは雨が降る前に、その匂いを感じ取れる。
「分かった」
僕は咄嗟に岩を使い、簡易的な屋根を作る。
その後、すぐに雨が降ってきた。
小雨ではなく、ザーと少し強めの雨が降る。
間に合ってよかった。
少し遅かったら、びしょびしょになっていた。
「雨か。涼しくなるから助かるな。身体拭く用の水として雨水を確保しておこう」
岩で受け皿を作る。
バレないように、草むらに隠して雨を貯める。
飲む用と拭く用を、別で用意出来るのは良い。
この雨はタイミング的に恵みの雨だ。
ゴーレムを隠す為だったけれど、崩しておいて、正解だった。
想像以上に、岩の使い道が多い。
「地龍は雨苦手とかある?」
「得意では無いが苦手でも無いはずだ」
「そうか、それは残念。なら雨の中でもちゃんと警戒は必要か」
「然り、むしろ今、雨に乗じる可能性はある」
「あぁ、この雨なら音も、匂いも紛れるからね」
雨音が大きく聞こえる。
室内ならともかく、外でこの雨音の中、接近されたら気付くのは難しいかもしれない。
逆にこちらの音や匂いも、雨に紛れてくれる。
……さて、水作りを再開しよう。冷却……この雨の水を使えば冷却行けるな
雨水は冷たい。
冷却するための物として、優秀だろう。
……いや、この雨がどのくらい続くか分からない。他の手がいいな
雨がどのくらいで降り止むか分からない。
雨が降ってる間に貯めた分を使うとして、冷却分に足りるかも不明だ。
周囲を見て何かないかと探す。
なんでもいい、使える物があれば。
すると、葉っぱが目に付く。
一見、普通の植物の葉だ。しかし、その葉は雨水を弾いていた。
……水を吸収しない葉っぱ……これなら水蒸気を水に戻す時に使えるんじゃ
葉っぱならば、この周囲に沢山ある。
特に制限も無く、使い放題だ。
葉っぱを幾つかむしり取って、物体操作で薄く滑らかに伸ばす。
……これをパイプのところに詰め込んで……水滴が落ちる場所を作って……いや、冷やす必要があるのは変わらないか
1番、重要な冷却方法が見つからない。
「そんなに悩んでどうした?」
「冷却方法が見つからなくて」
「冷やすのか?」
「そう、冷やす為の物、雨は何時まで降ってるか分からない。石は熱を持つし葉っぱは濡れてたら冷たくはなるけど長続きはしない」
今ある道具類だけでは、問題点がある。
道具の材料が限られているのが痛い。
ガラスのような物凄く便利な材料は、残念ながら今僕の手元には無い。
「魔法を使えば良い」
「そんな魔法、僕作ってない」
「冷たくなるのならその状態を固定すれば良い。仕組みがよく分からないが、冷たくするだけならそう難しくは無い。小屋に使っていた防御魔法は系統が近い」
「状態の固定、でも冷却は固定だけじゃなくて、熱を奪うや逃す必要が……」
「熱を奪ったあと、閉じ込めれば良い。最も物体の強度によっては長くは持たないが」
「使い捨ての冷却か。……あの魔法なら魔力もそう使わないから弄れば……」
すぐに魔法の制作を始める。
対象を絞り、状態の固定の効果を増やしてと魔法を改良していく。
物体の強度を高めつつ、熱を閉じこめる。
元々作っていた魔法からの派生、効果の系統が近いからか、新しい効果を含める作業にはそう時間は掛からなかった。
葉っぱに魔法をかけて詰め込む。
そして、能力の炎を出して火力を調整しつつ、水筒を熱して作業を始める。