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第11話 飛竜襲来

 数日、経った。

 この生活にだいぶ慣れてきた。

 今のところ、危険なことも起きていない平和。

 食べられる果実の場所は大体覚えて、魚取りも最初に比べて上達した。


 大きな進展こそないけれど、悪くない。

 それに時間はたっぷりある。のんびりしていて、誰かに怒られるなんてこともない。

 小屋の中で、だらしなく仰向けで大の字のように足を開き寝転がる。

 案外、これが楽な体勢のようだ。

 ボロボロの服が、扉や窓から入る風で捲れる。

 その分、風が当たって涼しい。誰も居ないので格好なんて僕は気にしない。

 どうなっているかも知らず、無防備に寝転がる。


 寝転がってボーとしていると、鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が鳴り響く。

 その音は声で何かの雄叫びだ。

 僕は、思わず両手で耳を塞ぐ。


 ……な、何!?


 これは、オオカミの声ではない。

 とんでもなく大きい音のため、人の声量による雄叫びでもなさそう。

 それらとは、全く異なる別の生物の声だ。

 雄叫びが止んだ事を確認し、耳を塞ぐのを辞める。

 そして、すぐに扉を開けて外に出た。

 周囲を確認するが、近くには何もいない。


 ……近くにはいない? 方向的にはあっちか


 雄叫びが聞こえた方向を確認する。

 僕はすぐに目を凝らして、遠くを見る。

 すると、遠くで黒色の煙が上がっているのが見えた。


 ……あれは煙? 森林火事でも起きたか? 結構遠いな


 煙が出ているところが、今いる場所からかなり距離があると分かる。

 森が燃えているとしたら、かなりまずい。

 この水場は森の中にある。

 つまり火がこのまま広がれば、この付近まで焼き払われてしまう。


 ……まずいけど……


 森林火災は、僕1人がどうにかできる物ではない。

 空気や水に関する力があるならともかく、僕にそんな力はない。

 炎も自分で出して操る力、つまり、僕由来でなければ操れない。

 よく確認すると、複数の煙が見える。


「細い煙が複数? 確認しに行こうかな」


 燃えているところが、どうなっているか気になる。

 もしこの森が燃えているのではないのなら、何が燃えているのか。

 そして、あの雄叫びを出した正体はなんなのか。

 どちらもここからでは、分からない。


 ……準備は特にないから行け……これは何の音?


 移動を開始しようとした瞬間、何かの音が届いた。

 その音は、上空から聞こえる。

 音の正体を知るために、空を見上げる。


 ……あれは


 空には、ある生物が飛んでいた。

 トカゲに似た見た目をしている一対の翼を持つ巨大な生物が、上空に見えた。

 トカゲにしては大きいサイズだ。

 最もこっちの世界では大きいのは珍しくないかもしれないけど。

 その姿は、僕も見覚えがある。

 実物を見たのは、初めてだけど。


 ……飛竜か。あれ? なんかこっち見て


 飛行している飛竜と目が合う。

 何を考えたのか、飛竜は飛行をやめてこちらの方に降りて来た。

 4本の足で地を踏みしめて、僕を視界に収めている。

 対面して巨体故の威圧感をピリピリと感じる。

 ただ特に嫌な感じはしない。


 ……降りてきた。なんだろう


 何が目的か分からない。

 飛竜はしばしの静寂の後、口を開いて話し始める。


「その姿は擬態いや、混ざり物か」

「混ざり物? 初対面で失礼なやつだ」


 この場には、僕しかいない。

 その上、ちょっと心当たりがある。

 混ざり物という言葉は、僕のことを指して言っているのだろう。


「人里から追放されたか。まぁ、いい。どちらにしても殺す」

「対話くらいしないか? 好戦的過ぎるのは悪い事だ」

「不要、貴様のような下等な混ざり物など目障りだ。疾く消えろ」


 そう言い終わると、いきなり周囲の温度が上がったかのような熱さを感じる。

 その原因は、すぐに分かった。


 ……熱? いや、これは炎か


 飛竜の口の中で炎が作り出されていた。

 その炎が高熱を纏い、周囲の温度を上げている。

 僕は素早く目に触れて能力を切り替える。

 メラメラと燃え上がる赤い炎を作り出す。


 ただでやられる訳には行かない。

 相手が炎を使うなら、こっちも炎を使う。

 迎え撃つ!


 同じ炎なら相性差はない。

 出力を高めて、相手の攻撃に合わせて放つ。

 炎同士が衝突して弾けて、花火のように飛び散る。

 炎の欠片が周囲に落ちて、触れた草木を燃やす。

 僕の着ている服にも、炎が触れた。


 ……ヤバっ!?


 気づいてすぐに手で叩く。

 何とか火を消したけれど、一部は間に合わないで燃えてしまった。


 ……うぅ、服は今、ひとつしかないのに


 服が更にボロボロになった事に、ショックを受ける。

 代わりの服を、僕は持っていない。

 これを失ったら、僕は裸で生活する事になる。


「生意気にも炎を使うか」


 飛竜は炎を防がれたことに驚いているのか、ふたたび言葉を使う。

 そんなに驚く事なのだろうか。


「事情は知らないけど、あまり君たちと戦いたくないんだけど」


 こちらの意見を言うチャンスだと思い、戦いたくない意志を伝える。

 本当に戦いたくない。


「同族のつもりか混ざり物」

「混ざり物……否定は難しいなぁ。いやまぁそうだよ」

「混ざり物風情が同族とは不快だ」

「不快なのはこちらなのだけど?」


 初対面でいきなり侮辱された挙句、攻撃を受けていて物凄く不快。

 飛竜はふたたび炎を放とうと、炎を集めていく。

 先程以上の熱を感じる。

 先の一撃は、加減でもしていたのだろうか。


 ……戦うしかないのかな


「後ろから熱が……」


 ふと、背後から熱を感じることに気づいた。

 よく耳を澄ませるとパチパチ、と何かが燃える音も聞こえる。

 バッと振り返ると、後ろにあった物が燃えていた。

 燃えているものは小屋だった。

 火に燃やされ、木材が赤く黒くなっていく。

 もう既にかなり燃えていて、今から消火しても間に合わないと分かる。


「小屋が」

「死ね混ざり物」


 飛竜は、溜めた高熱を纏う巨大な炎を放つ。

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