第104話 魔物との初遭遇
初めて見る生物だ。真っ黒なモヤで正確な見た目は分からない。
ただ大雑把に見て、2足の人型に近い姿をしている事はわかった。
あまりサイズは大きくない。
不気味な雰囲気を持っている。
この雰囲気は魔族に近い気がする。
「あれは何?」
「魔物だ」
「魔物?」
……うーん、魔族とは違うのかな?
魔物と言えばファンタジー定番だ。
ただ魔族とは分けられているという事は、魔族とは違うのだろう。
「魔族に近い凶暴な生物だ。しかし、統率は取れていない上、この辺に出るのは雑魚だ」
「なるほど」
……これが魔物かぁ。なんか不気味
荷物を持っているゴーレムは後ろで待機させて僕は拳を握って構える。
初めての魔物との戦闘だけど、時間はかけず軽く叩いて仕留める。
急ぎでは無いけど、不要な遅れは避けたい。
「剣を使え」
「剣を? どうして?」
僕は構えたまま、シクの方へ視線を向けた。
シクは腰に携えた剣に、視線を向けている。
「怪しまれない為にだ。武闘家は確かに居るが剣の方が一般的だ」
「あぁ、なるほど」
……みんな武器持ってたもんねぇ
僕は冒険者に、挨拶がてら身につけている装備も、確認していた。
その時、剣や槍、斧などと言った武器を持っている冒険者が多かった印象がある。
何も持たない武闘家のような人物は、1人、2人しか見かけなかった気がする。
それなら大多数に混ざる方が隠れやすい。
「剣を持っていて使わないのも不可思議だ。怪しまれたいと言っているような物だ」
「確かにそれは怪しいか。剣の練習も兼ねて扱おう」
剣を持っていて使わないのは確かに変だ。
一旦、握る拳を開き構えを解く。
そして、腰に携えた剣を引き抜いた。
せっかくだから魔物の戦闘を、剣の練習の良い機会と考えるのもありかもしれない。
魔物は突っ込んできていた。
……遅いなぁ
魔物の動きが凄い遅く感じる。
これなら容易く倒せる。
シクが雑魚と言っていた通り、この魔物は強くない種類のようだった。
僕は、剣を振るう。
瞬きの間に振るわれた一閃は、魔物の身体を容易に切り裂いた。
為す術なく切られ倒れた魔物は、身体が崩れていき、ある物体を残して消滅した。
僕が振り返った時には魔物は消えていて、思わず首を傾げた。
……あ、あれ? 今切ったよね?
ちゃんと切ったはずの魔物が居なくなっていて、困惑してしまう。
そんな僕を無視して、シクは地面に落ちている黒色の物体を拾い上げる。
「魔族と同じで魔物は消滅する」
「そうなんだ。確かに、魔族も倒したら消えてたね」
「気にしてなかったか」
「あの時は、対応に忙しくて消えて処理が楽だ程度にしか思ってなかった」
確かに魔族も倒した時、消滅していた。
あの時は、魔族の数が多くて対応に忙しくそんな事は気にしてなかった。
消滅する理由がわからないけれど、まぁそういう物なんだろうと思考を止める。
「それは何? 魔物から落ちたの?」
シクが手にした、黒い物体を指差して聞く。
真っ黒な物体、石のようでいて少し透明感があることで水晶のように綺麗に感じる。
シクの手にピッタリの為、大きさは小さい。
「然り、これは魔石、魔物を形成する魔力の塊、魔力の調整を行えば外部に己の魔力を蓄積出来る代物だ」
「何それ便利、魔力使うなら必須級」
「大きさによって込められる魔力に差がある事と、調整が困難な所を除いたら便利」
「調整が困難……それってどのくらいなの?」
困難でも便利な道具なら使うだろう。
しかし、僕が戦った人達や集落の戦いで協力していた騎士などは持っている様子がなかった。
だから、その困難は相当の物だと考えられる。
騎士や冒険者が手に入らない程の物。
「一握りの魔法使いや魔女と言った魔法に精通した存在くらいな物だ」
「それは困難だね」
「人の王族や金を多く持つ者が稀に保有している事があるが無い物と考えて良い」
……欲しいと思ったけど、無理そう
魔力を外部に貯めておく事が出来る道具なんて、魔力を使う僕としては喉から手が飛び出る程に欲しい。
だけど、作れるのが一握りの存在となると僕では手に入らない。
「他の使い方は何かあるの?」
「込められている魔力を引き出せる。しかし、魔物の魔力同士でしか組めない上、大きな魔力を持つ魔石か大量の魔石を集めなければ単独で魔法は使えない」
「うーん、不便」
「主は膨大な魔力を保有している。使う事はほぼ無い。気にしなくて良い」
「そっかぁ」
剣をしまって、移動を開始する。
道中、何体か魔物と接敵したけれど、弱くなんの問題もなく倒せた。
弱過ぎて剣の練習にならない。
歩いていると、日が暮れてきた。