第103話 城壁
生い茂る木々を抜けると、青々とした草が生える平原が広がっていた。
かなり広いと一目で分かる。
遠くに人工物らしき大きな壁のような物が、そびえ立っている。
……おぉ、広い平原だ
僕は、まず広い平原を見渡す。
あちらでは平原自体少なく、僕自身が遠出するほどの興味がなかったから、現物で見るのは初めて。
チラホラと、人の姿が確認できる。
遠目でも装備を身につけているのが見えて、彼らが冒険者だとわかった。
冒険者以外にも商人の馬車が人工物の方向へ向かっていたり、逆に離れるなど行き来しているのが見えた。
馬車がこの世界の移動手段なのだろう。
次に僕は、そびえ立つ人工物を観察する。
石かレンガのような物が、大量に積み重なって出来ているようだ。
無傷ではなく、様々な戦闘の跡が残っている。
遠くから見ても大きい。高さは20メートル以上はありそうだ。
……おっ、あれはもしかして城壁かな?
城壁、ファンタジー世界によくある国の防衛の要であり鉄壁の盾。
この世界には、龍、神狼族、魔族、他にも色んな生物が居る。
その中には、人間に危害を加える生物も居る。
それを考えたら、国を守る為に囲むよう作る城壁というのは、理にかなっているだろう。
無傷では無いところが、外敵を阻み続けた強固な防壁としての存在感を強めている。
「こっちは色々と危険多いもんね。シク、城壁って結構基本の物?」
「人の国はあのような城壁で囲んでいることが多い。どうした珍しいか?」
「あっちにはこちらに居る程の危険生物は余り居なくて昔はあったらしいけど、今は見ないから」
「外敵が少ないのなら不要に近いからな」
生息する生物や様々な環境で、国の作り方は大きく変化する。
異世界ならではの国の作り方、あちらの常識とは異なるのだろう。
こちらの世界の人々がどんな生活をしているか気になる。けれど、僕は城壁内には入れない。
そこは残念に感じる。
……うーん、あっ、後々、生活に慣れた大和や嶺二辺りに聞いてみようかな
「城壁から離れて歩けばバレない?」
「人間の目ならば離れておけば良い。その姿ならば気づかれまい」
シクは、僕の頭の上を一瞥した。
半龍化状態では無いけれど、不完全な擬態のため、角が生えていた。
見られたら多分、バレる。けれど、大きい角ではないから遠目では気づかれない自信はある。
「……これは隠した方がいい?」
「何か被り物でもしておけ」
「了解、ならこんな感じかなぁ」
無貌で適当な帽子をササッと作って、ちょっと深く被っておく。
これなら、角を綺麗に隠せている。
「どう?」
「隠れている、怪しまれはしない」
念の為にシクに確認してもらう。
自分ではどうなってるか、分からない。
隠せているつもりでも、角の形が分かっていたら分かる人には分かってしまう。
「よし、OK。行こう」
「地龍の住処は反対側、南に存在する海の東側にある森の洞窟だ」
「へぇ、洞窟暮らしなんだ」
「地龍は洞窟のような場所を好み洞窟を拡張して地下で暮らしている」
「なるほど、頭良い」
地龍は、大地を司る力を持つと聞いている。
それなら、周囲が操れる物体で作られている洞窟の中は、最適な住処だろう。
そういえば、神狼族の1体が普段は洞窟に引きこもってるとか、言っていた覚えがある。
地龍の住処の洞窟がある方へ、歩いていく。
近くを通る冒険者とすれ違った時は、軽く会釈をして挨拶をする。
この姿なら僕の顔を知らなければ、龍だと気づかないようで、普通に挨拶を返してくれる。
結構珍しい格好だと思うけど、冒険者自体が色々な格好するから違和感は少ないのだろう。
冒険者をよく見たら、僕の格好に近いような格好の人の姿も確認出来る。
僕のように動きやすさ重視だろうか。
「冒険者多いね」
「この国は大陸の国の中でも、多くの冒険者を抱えている。そして、その総戦力は一国の軍隊に匹敵するとも言われている」
「うへぇ、それはとんでもない」
「その気ならば主討伐に向けられていた戦力だ。騎士の戦力も上乗せで」
「そんな事にならなくてよかったぁ」
龍の身体が強いとは言え、一国いや、2つの国と同等の戦力を相手取る事は出来ない。
それに中には、老人や元英雄クラスの人々も居ると考えられる。
無理、間違いなく死ぬ。100パー勝てない。
平原を進んでいくと、真っ黒なモヤを纏った生物らしき存在と遭遇した。