第100話 ゴーレムを集落に置く理由
「まぁ、ゴーレムを置く理由は復興の手伝いだけじゃないけどね。手伝いとして置けば、不信感を抱かれないってだけでね」
僕は意味ありげに語る。
ゴーレムを復興の手伝いの意味で置いていたのは決して、嘘ではない。
それは真実だ。
ただ僕は、手伝い以外の理由も考えているという話
ゴーレムによる復興の手伝いだけでは、僕自身に明確な利益が無い。
「手伝いだけじゃない? どういう事だ?」
嶺二はピクっと反応して、怪訝そうな顔をする。
僕の今の言葉は守る立場としては、少々聞き捨てならないのだろう。
僕も同じ立場なら同じ反応をする。
「一応、護衛としても置いてる。岩のゴーレムはそこそこ強いらしいから」
飛竜クラスには勝てないけれど、魔法師団の隊員クラスになら複数人相手でも善戦出来ていた。
それを考えたらあのゴーレムはそこそこ強い。
その上で再生能力があるから、護衛として見ても充分に優秀だと言えよう。
強い相手でも、再生能力で時間を稼げる。
「本当にそれだけか?」
「と言うと?」
「有難い事だが、そちらに利が無いだろ」
「無害な龍だと宣伝出来るかなぁと、少なくとも国から敵視されなくなるのは大きな進歩」
恩を売れるのは、大きい。
それでも討伐しに来るなら意味は無いけれど、人を守る行為は効果はありそう。
まぁ、他の理由もある。けれど、これは言う必要は無いから伏せる。
「それもそうだな。君は他の龍とは違うと考える村人たちも出てきてる」
「まだそんな経ってないのに?」
「まぁ実際に魔族と戦闘していたのと、あの時、ゴーレムに助けられた人もいるからな」
嶺二にそう言われて思い出す。
確かに、逃げ遅れていた村人たちを、ゴーレムに守らせていた。
村人たちにとってゴーレムは、魔族から救ってくれた命の恩人でもある。
「結構お堅い人達がいるものだと思ったが……」
認識が和らぐのが、妙に早い。
そこに違和感がある。
龍が危険という認識は、根深い物。
魔族戦の時に僕に剣を向けた騎士の動きを見た限りは、教育や宗教などで教えられているような根強い深さを感じた。
それに召喚した勇者にも、きちんとその常識を叩き込んでいる。
嶺二は、葉水を一口飲んでから話を始める。
「あぁ、噂では相当お堅い人物が居たんだが……飛竜襲撃の時に逃げ遅れて亡くなったらしい」
「飛竜……やっぱり結構被害は出てたの?」
飛竜襲撃の被害、外から見た限りでもかなり酷そうな有様だったことから人死は出ていると、僕も予想だけはしていた。
ただどの程度の被害であったかなどは、部外者の僕には測れない物。
被害の規模が気になっていた。
「あぁ、飛竜の際に集落の住人は半分近く亡くなっている。逆に半分で済んで良かったと思えるほどの被害だったがな」
嶺二は悔しそうな顔をする。
その悔しい気持ちは、理解できる。
飛竜襲撃の際に、勇者のどちらかが居たらと無粋な考えをするならば……間違いなく被害を抑えられた。
僕と戦闘した時の大和でも、聖剣の力を使えば飛竜にならば勝てる。
「敵討ちでは無いけれど、飛竜はあの後結構ボコボコにしておいた」
「ボコボコに?」
「集落を襲撃後の飛竜が襲ってきたんだよ。だから返り討ちにした」
「そうなのか……仕留めてはいない?」
「あぁ、殺してはいない。僕からしたら彼らもまた同族だからね」
証拠として飛竜のウロコを、机の上に置く。
商人に売るつもりで集めていたけれど、他の物で足りたから売らなかった物。
よく考えたら妖刀よりもこちらを出すべきだった。
商人が来る前に、シクと色々あったせいでうっかりとしていた。
……売り忘れたのがここで役に立つとは
嶺二は手に取って、ウロコを確認する。
「間違いない、集落を襲った飛竜のウロコだ。落ちていた物と同じ」
「飛竜も暫くはこの山には来ないと思う。僕が居るし、負傷は治ってないと思うから」
少なくともあの時より僕は強くなっているから、飛竜がある程度力をつけても対応が出来る。
あの傷からして治療の魔法を持たないなら、暫くは安静にしているはず。
「そうか、それは良かった」
嶺二は安堵の息を漏らす。
正義感が強そうな嶺二は、守れなかった事に責任を感じていたのだろう。
僕は、部外者だから何も言わない。
「あぁ、そうだ頼みがあるんだけどいい?」
「どんな頼みだ? 出来る範囲ならやろう」
「ゴーレムの材料を変えたいんだよ。だから鉄か何か硬い鉱石類用意出来ない? 5体分」
「ゴーレム5体分か、結構多い数になりそうだな。だが分かった。掛け合ってみよう」
「渋られると思ってた」
僕は少し驚く。
要求は結構欲深く言った。
ゴーレム5体分となると僕が運んでる岩、5個分という結構な量になる。
その量ともなると集めるのも、運ぶのも一苦労、断られることを想定していた。
欲しいのは確か。
だけど、5体は普通に冗談のつもりだった。
「いや、魔族の時のお礼に敵討ちもしてくれたんだ。このくらいならやるさ。それにあの国は鉱石資源が豊富らしいからな。そう難しくもない」
「ほへぇ、それは楽しみだ」
「おう、楽しみにしとけよ。そんじゃ俺はそろそろ集落に戻る。復興はまだ終わってないからな」
「復興頑張れー」
嶺二は小屋の扉を開けて外に出る。
その足で駆け足で集落の方へと向かっていく。
見送った後、僕は椅子に座り直して、攻撃魔法の改良を始める。
戦争になったら、集落も巻き込まれる。
そしてその際の被害は半分では済まない。
間違いなく勇者の大和や嶺二も巻き込まれる。
……絶対に止める
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