1話 目覚め
僕は目を覚ます。
どうやら僕は、いつの間にか寝ていたようだ
結構、ぐっすり眠っていた感覚がある
ほぼ開いていない目に、うっすらと景色が映る。
うーんと唸りながら、上半身を起こす
いつもより気持ちの良い寝起き。
……いつもこのくらい良い目覚めができればいいのに
そんなことを思いながら、寝惚け眼をこすり開く。
外は少し薄暗いけれど、明るい
朝までぐっすり寝ていたのか、まだ夜になっていないのかどちらだろう。
「……え? ……え?」
この目に映る景色を見て、僕は驚いてぱちくりと瞬きをする。
ありえない景色が目に映っていた。
普段、僕は寝る時、家で寝ている。
鳥の声が聞こえる。
木々が風に揺られる音
葉が、目の前にひらりと落ちる。
優しく吹いた風が、僕の髪や頬をなでる。
少なくとも僕の住んでいた家の中では起きない現象……いや、風は窓を開けていれば有り得なくはないか
「森の中? な、なんで?」
僕は森の中、大自然の中で眠っていたようだ
日光浴が気持ちいい、というのは本当らしい。
……僕はなんで森の中で寝てる?
首を傾げる。
森の中で寝た記憶はないし日光浴を試そうなんて、普段の僕なら考えない
少し寝ぼけている頭をどうにか回して記憶を探る。
寝る前の記憶があれば手掛かりになる。
……寝た時の記憶がない
どうやら寝る前の記憶を持っていない
霧がかかったように……いや、パーツそのものを失ったかのように思い出せない。
ゆっくりと身体を起こす。
落ち葉が大量に服に引っ付いていてところどころかチクチクと痛い
葉の一部が服を貫通している。
せめてシートでも敷いていて欲しかった。
過去の僕は何を考えてシートも敷かずに、寝ていたのだろうか
ササッと葉を手で払う。
「ん? 何だこの服」
土や草を払う、その時自分の着ている服が見えた。
服と呼べるか微妙……いや服と呼ぶには違和感のある薄汚れた布だ
大きな布を適当に穴を開けて、首や腕を出しているような格好。
その上でその大きな布は、ところどころ破けていて肌が見えている。
こんな物を着た覚えはない。
僕の家にこんなボロボロな布はなかったし、それを身につけるなんて酒で酔っていないとしな……酒で酔っていた可能性が浮上した
酒に酔っていたらやらないとは言えない
僕は酒には強い方なのだけど、流石に飲みすぎたら酔ってしまう。
「薄汚れた布……あれ、手足が短い?」
布(服)以外にも、手足に違和感を感じる。
普段よりも気持ち短いような感じがする。
ただ僕は普段自分の手足の長さなど気にしていない
一度、両腕を確認する。
ちゃんと確認しても変わらず短く感じる
けれどパッと見てわかる長さの変化はないから、気のせいかもしれない。
傷1つない綺麗な両腕
男性の筋肉質な両腕ではなく、女性的な見た目をしているように見える。
……僕の手足ってこんなに綺麗だったっけ? 覚えてない。まぁ悪いことじゃないから良いか
こんな手はしていなかったとは思うけれど、今のところ支障はない。
腕の話は置いておく、他に重要なことがある。
僕は一度周囲を見渡す。
周囲は一面草木に囲まれている。
見た感じ普通の森の中にいるという印象を受ける
僕が見たかぎり、特に森に変なところはない
僕が寝ていたところも人工物が置いてあるわけではなく、直接草の上で寝ていた。
ここは変哲のない普通の森だろう。
「とりあえず森を出よう……どの方向に向かえばいいんだろう」
森を出ようとふたたび周囲を見た。
今度は手がかりがないかを探すために、細かい部分も確認をする。
しかし、外に出るための手がかりは見つからない
地面を見てもここまで来た足跡は見えず、どの方向の草にも踏んだ跡は見つからない。
……酔っていたとしても遠出はしないはず、そう考えると家の近くの森か。あそこなら確か狭かったはず、適当でも良いかも
僕の家の近くには森があった。
ここがその森ならば、適当に数分歩けば出られる程度の距離のはず
実際には、行ったことはないから正確なことは分からないけれど、それくらいには狭い森だったと僕は記憶している。
適当に選んだ南側に進んで歩いていく。
数分、十数分と歩くが一向に外には着かない。
それどころか、木々の隙間から見えるのは草木のみ、森の外の景色らしきものは見えない。
もう少し歩けば出られるかもしれないと思い、まっすぐ歩いていく。
歩いていると、微かに匂いがした。
これは知っている匂いだ
バッと匂いのした方向を見る。
方向は僕から見て、南西の位置。
……何かまでは分からないな
何がそこに居るかまでは分からない
けれど、この匂いは獣の匂いだと僕は分かった。
僕は進む足を止める。
南西の位置ということは、まっすぐ進むには横切る必要がある。
獣がいるところを横切るのは、リスクが高い
視線は南西に向けつつ、ゆっくりと後ずさる。
その間も木々の隙間などを見て確認するけど、獣の姿は見えない
匂い自体が微かで獣の残り香の可能性もある。
もっとも残り香であった場合、南西以外の方角に居る可能性があるという事だから嬉しくはない。
日本に存在する獣の種類は多くない。
シカや小動物なら良い
イノシシやクマだとまずい
その二種類だと捕捉されてしまったら、人の足ではまず逃げられない。
……姿が見えないのが怖いな
何が居るのか分からないことが怖い。
正体が分からない以上、対応が難しく最善の選択を決められない
獣の種類によって動き方は変わる。
獣は草を踏み木々を避けて奥からゆっくりとその姿を現した。
「は?」
思わず声が出る。
その姿は確かに獣だった。
それも見知った姿をしている
でもおかしい
目の前に居る獣は日本に居るわけがない
いや、日本どころか海外でもこんな獣が居るなんて聞いたことがない。
「これは……」
見上げるほどの大きさを持つ巨大なオオカミ
高さが2m以上はあることが、一目で分かった。
オオカミは確かに大型のイヌ科ではある
でも2m以上ある種類なんてものは聞いたことがない。
少なくとも日本には生息していない。
オオカミの口からヨダレが地面に垂れる。
オオカミと目が合う、完全に捕捉された。
ゆっくりとこちらに近づいてきている
小さくうなり声を上げて、牙を剥く。
目の前の獲物を襲う直前という感じだ。
「大きなオオカミかぁ」
その姿を見て恐怖を感じない。
姿が見える前は怖かったのに、姿を見たら何故か怖くなくなった。
可愛らしい見た目はしていない。オオカミらしい強そうな怖い見た目をしている。
その上、今そのオオカミに襲われそうになっているのに僕は恐怖を感じない。
けれど、襲われそうなら仕方がない。
「迎え撃たなければ」
僕は自分の片目に指でそっと触れた。
第1話をお読み頂きありがとうございます
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