赤光
次の日の朝、僕は起きるなり外用の服に着替えてチェックアウトの手続きをしていた。
「あ、あの…。チェックアウト、お願いします…。」
その時の僕はどんな顔をしていただろうか。件の店員さんは少し引いていた。
「か、かしこまりました。えっと、お客様。朝ごはんはいかがなさいますか…?」
「すみません、喉を通りません…。あ、昨日の晩御飯はすごく美味しかったです」
正直、今僕が何を言っているのかあまり分からない。昨日食べたターフェルシュピッツが絶品だったことだけは覚えている。
「あ、それとこれ…。」
僕は震える手で財布を取り出し、50リーン金貨を置く。外国のホテルに泊まったら心づけを払うものだと教えられてきたからだ。
「お客様!?その、お心づけは大変ありがたく存じますが、こんなにはいただけません…!」
「それじゃ、ありがとうございました…。」
「お、お客様ー!?」
店員さんが何を言ってるのかも分からないまま、僕は外に出た。
とぼとぼ。そんな効果音が合う歩調で、僕は歩いていた。悲しくてもお腹は空くので、働く口を見つけないといけない。あてもなく、ただ悲嘆に暮れて僕が歩いていると、何やら争うような声が前方から聞こえてきた。
「貴族ギルドは依頼を一般に解放しろー!」
「貴族と富裕層による討伐産業の独占を許すなー!」
「皇帝は貴族ギルドへの特権を停止しろー!」
なんだかデモというか暴動が起きてるみたいだった。群衆の中には剣や農具、角材で武装している人もいる。…いつの時代もゲバ棒は社会的弱者の強い味方らしい。群衆の前にはそれとは対比的に、統一された軍服とフリントロック式銃火器中心の武器で武装している集団が立ちはだかっていた。
「くそ、抑えると言っても我々だけでは限界があるぞ!」
「いっそのこと、発砲して威圧しますか?」
「ならん!レゼリア王国ではそれが原因で大規模な反乱が起こったそうだ!とにかくギルドへの侵入は絶対に防げ!」
次第に群衆の側も物騒になってきて、軍服集団が守る大きな建物に向かって破城槌のように角材を打ち込むものも出始めた。僕はそれを傍観していた市民の一人に尋ねた。
「あの、これは一体なんですか?」
「うおっ兄ちゃん、えらいクマだな。…ああこれは市民の冒険者ギルドのデモだよ。冒険者ギルドは分かるか?」
「えっと、冒険者の同業者組合として依頼の斡旋とか商人との取引を主導する組織、ですか?」
前世に冒険者ギルドというものはなかったけれど、ゲームやライトノベルの中にそういう組織はいくらでもあった。
「ああ。高額の報酬が得られて叙勲や叙爵の対象にもなる討伐依頼のほとんどが貴族ギルドの間で独占されてることへの抗議だな。市民ギルドにも回ってくるような依頼は、小銭稼ぎにしかならないしょっぺえ依頼だけって訳さ。」
達観したように話すおじさん。その冷めた態度とは裏腹に、眼前の群衆はますます過激さを増している。
「まあでも、討伐依頼ということは危険を伴いますよね。貴族の人がそんな依頼を受けるんですか?」
「まあ自分で討伐に出る変人もいるが、大抵は受けるだけ受けて実際の討伐は雇った傭兵に丸投げだな。市民冒険者は逆だ。自分で依頼を受けられないから、貴族に安く雇われて命張って戦うのさ。ちなみに市民でも貴族ギルドには入れるぜ。ただ会費はひと月1000リーンって話だ」
思ったよりこの世界は闇が深いようだ。1000リーンがどれくらいの額か知らないけど、ホテルで一番いい部屋が250リーンだったことを考えるとひと月の会費としてはかなり高額だろう。…ふと自分の財布を開けてみると、まだ金貨や銀貨がたくさん入っていた。1000リーン金貨も、ここから見えるだけで何枚も入っている。それをひとつ摘んで見つめてみる。
「これがあれば、僕も…。」
自分が階級社会の「上層」に座る。それはなんだか現実離れした事件のように思えた。
「おっ、兄ちゃんも貴族ギルドに入るのかい?そんならひとつ忠告だ。依頼を終えてギルドから報酬を貰った後は背後に気をつけろ。恨みの溜まった市民冒険者が棍棒を構えてるかも知れんからな。」
おじさんが揶揄うような忠告をくれる。僕は憧憬、高揚、不安、そして自分が『そう』であることへの深い悲しみが綯い交ぜになった感情に襲われていた。拍動が早くなる。視界が揺れる。僕は気がついた時には群衆を押し除け、衛兵のポケットに銀貨を賄賂のつもりで入れ、立派な木製の扉に手をかけていた。
外の大騒ぎとは対照的に、ギルドの中は静かだった。室内に光源らしきものはなかったが、贅沢なことにガラス窓が彩光に使われており、明るかった。コーヒーハウスか何かが併設されているようで、朝にも関わらず数人の冒険者が飲食を楽しんでいた。そしてその全員が外の群衆より遥かに良い装備をつけていて、血色もいいので、僕はここが貴族ギルドだと確信した。その反対側ではここのギルドの職員だろうか、統一された服装の男女が何やら話し合っていた。
「うーん、今回のデモ、ちょっと長いですねー。これじゃおちおち散歩もできませんよ。ねえウェズナー先輩、もう薙ぎ払っちゃって良くないですか?」
「良いわけないでしょう、レナ。というかあなた分かってて言ってるわよね。…どうせお午になったら帰るでしょうし、放っておきなさい。それにしても今回は本当に長いわね。フリッツ、この後フォーゲル商店から外商が来るわよね。あなたの『キャリア・クロウ』で裏口から入ってくるように伝えて頂戴」
「りょーかい。道中で烏ちゃんの『手が滑って』しまっても僕は知りませんがね。」
「…ほどほどになさい。そろそろ警吏局が出張ってくるわよ。」
ここからでは何を話しているのか分からなかったけど、なんだかギルドの職員同士の会話という感じじゃなかった。むしろ、友達同士で話し合ってるみたいな。そう思ったら談合もひと段落したようで、自分の業務に戻ろうとした職員の一人が僕の存在に気づいた。
「あれ、そこのお兄さん、もしかして新規登録希望の方ですか?」
そう言ったのは、金髪紅眼の女性。なんだか見るからに陽キャだ。僕は声をかけられたので、女性のいるカウンターまでてくてく歩いていく。
「やっぱりそうみたいですね。おーい、ウェズナーせんぱーい!新規登録希望の方が来ましたよー!」
金髪の女性がそう叫ぶと、さっきここで談合していた黒髪の女性が戻ってきた。
「そんなに大声を出さなくても聞こえているわ。…これは失礼しましたお客様。私はここ、冒険者ギルド帝都本部のギルド長を務めております、ウェズナー・ラツバイトと申します。本日は当ギルドへの新規登録にいらっしゃったということで間違いありませんか?」
女性は美しくお辞儀をしてから、機械のような平坦な声でそう言った。ちょっぴり怖い人かもしれない。
「はい、間違いありません。」
僕がそう言うと、ウェズナーさんはいつから準備していたのか一枚の紙を取り出した。
「それでは、ここに必要事項の記入をお願いします。」
渡された紙にはギルド登録届と書かれていた。僕はそこに、『僕の』個人情報を記入していく。氏名:オイゲン・オーレンドルフ、性別:『男性』、年齢:15歳、現住所:なし…
「あの、すみません。ここの『適性』っていうのは…?」
数ある項目の中に、見慣れないものがあった。少なくともこんな項目は、前世のこういった書類では見たことがない。
「おや、適性検査をお受けになっていませんか。それではこちらに検査を行える設備が整っておりますので、お手数ですが検査をお願いします。」
ウェズナーさんがそう言って奥の小部屋を指す。どうやら今から適性検査なるものを受けないといけないらしい。なんだかわくわくする響きだ。
小部屋に案内されて、木製の椅子に座る。少し待っていると軽薄そうな風貌の男性職員が入ってきた。
「はー全く、伝えろだの検査しろだの、ウェズナー先生も人使いが荒いですねー。おっとこりゃ失敬。えーっと、オイゲン・オーレンドルフさんね。これからあなたの魔法適性を見ていくんで、ちょっとご協力いただきますね。」
男性は机の反対側の椅子に座ると、僕の登録届に軽く目を通しながら顕微鏡のような鏡筒のついた装置を机に置いた。
「あの、実は田舎から出てきたので魔法について良く知らないんです。もし良ければ、適性についてご教授いただけますか?」
「あら、そうでしたか。それじゃまず魔法が何かってところから喋りますね。」
男性はそう言うと、右手を高く掲げた。何が始まるのかとその右手に注目していると、右手から緑色の霧のような光が溢れ始め、突如としてそこから1羽の烏が飛び出してきた。
「…!」
僕はその、前世では考えられない神秘的な光景に呑まれていた。まさに魔法というべき摩訶不思議な現象。雰囲気のある霧の演出、人に驚きと感動を与える突然な烏の出現、男性の巧みな魅せ方。その全てがこの魔法の欠かせない構成要素であり、僕を魅了していた。
男性が手を下げると、烏は一呼吸のうちに消滅し、辺りに立ち込めていた霧も嘘のように引いてしまった。
「これが魔法です。魔力を使って、理に反した力を振るう術。今は見せるためにゆっくりやりましたが、慣れればこれくらいは一瞬で出来るようになりますよ。…まあその魔法を使えるようになるために、この装置を使うんですが」
男性が先ほどの装置をポンポンと軽く叩く。
「人にはそれぞれ、修得しやすい、使いやすい魔法の種類があります。これを私どもは適性と言ってるわけです。適性は大きく分けて3つ。生成系統、干渉系統、幻出系統です。」
男性は指を3本立て、一つずつ折りながら説明していく。
「生成系統は一番ありふれた適性です。さっき見せたみたいに、生物を、非生物を、武器を、防壁を、万物を生み出す魔法です。全冒険者の70パーセントがこの系統の魔法に適性を持っています。みんな使えるが故に、3つの中で一番研究が進んでる系統でもありますね。」
なんだかとても「魔法感」がある魔法だ。さっきの烏は実に魔法チックだったし、僕もこれが使えるならいよいよ異世界に来た感がある。
「次に干渉系統です。これは対象の状態を変化させる類の魔法になります。傷を癒したり、筋力を増強したり、他の魔法を打ち消したりと補助的な魔法が多いですね。全冒険者の3割程度がこの魔法に適性を持っています。その性質上、冒険者や帝国軍以外の一般人もわりと修得してたり、そんな感じですね。」
今度は、よくあるRPGなら僧侶的な人が使いそうな魔法だ。派手さはなさそうだけど、聞く限りとても有用そうだから習得できるならしてみたいものだ。
「最後に幻出系統なんですが…まあこの系統に適性がある人はほぼいません。それに実用性も微妙なところで…。簡単に言うと『伝承』を再現する系統なんです。人々から信仰され、言い伝えられてきた奇跡や神業を再現するという、とてもユニークな魔法です。この魔法を使うにあたって、『信仰』の規模がとっても大事になるんです。そこがネックなんですよ。まず多くの人から、強く信じられている伝承ほど再現度と規模が上がります。それから術者自身もその奇跡を強く信じてないといけません。適性持ちが使うと言うより、神官やら僧侶さんが荒天的に修得する魔法という側面が強いですね。」
残念、僧侶はこっちの魔法にお熱なようだ。それにしても、伝承を再現するということは某匿名希望六芒星教を広めてみんなに信じてもらえば海とか割れるんだろうか。それはそれでやってみたいかもしれない。
「なるほど、だいたい分かりました。それじゃあ、どうやって適性を調べるんですか?」
「ああ、その説明でしたね。まずお客さん、この装置の側面に黒い板があるでしょう?そこに手をかざしてください」
「こうですか?」
この板は見たことがある。ホテルでお湯を沸かす時に使ったやつだ。
「ありがとうございます。そこから魔力を流して貰うとですね、この装置のなかにそれぞれの系統の術式を封入した魔法射出装置が入ってるので、そこに魔力が注入されて各系統の魔法が超小規模に発動します。その規模の大小をこの鏡筒から観察して適性を決めるんですよ。」
なるほど、つまり実際に魔法を使ってみて向いてる系統を確認するということか。
「それじゃ、今から見てみますんで、準備ができたら魔力を注入してくださいな」
男性はそう言って、鏡筒の接眼部に目を当てた。僕はゆうべやったように、むむむと念じて板に魔力を送る。
「…ほうほう!割と良い感じで…ありゃ?これは…。」
男性職員は豊かなリアクションを見せてくれるが、装置の中の様子がわからないため黙って魔力を送り続けることしか僕にはできない。1分ほど経っただろうか、職員が鏡筒から顔を離して、微笑みながら終了を告げてくれた。
「はい、もう大丈夫ですよ。それにしても、ちょっと面白いものが見れちゃいました」
「面白いもの…?」
媚薬でも生成されたのだろうか。もしそうなら僕は鉱山送りか島流しにされてしまうだろう。ああ、これは僕のLex Cornelia de sicariis et veneficisジョークである。この世界にスッラさんはいなさそうだけど。
「結論から言うと、お客さんは『両適性』の状態ですね。つまり生成系統と干渉系統の両方に適性があると言うことです。」
「それって珍しいんですか?」
そう僕が聞くと、職員は僅かに目を泳がせた。
「あー…まあ『ちょっと』珍しいですね。まああれですよ、二つも適性があってラッキーくらいに思ってください。それに何にせよ、多くの魔法を簡単に修得できるのは良いことですよ?」
そう言われればそうかもしれない。火事場に煙草の火なく大水に飲み水なしとは言うけれども、実際のところ足りないよりはありすぎる方が、たいてい良いのだ。
「なるほど。…ところで魔法ってどうやって修得するんです?」
「あー、そういえばまだ話してなかったですね。色々方法はあるんですが、大体みなさんこれを使ってます」
そう言うと男性は、一冊の本を取り出した。
「この本は、魔法大国であるレゼリア王国の高明な魔術師一族が代々製造している魔術書。正式名称は長ったらしいんで誰も覚えてませんが、表紙の色を取って黒本とか、魔法技能に関係する本だからスキルブックとか、勝手にいろんな名前がついてます。」
黒本というのはなかなか良い名前だ。共通テストの対策とかできそう。
「それじゃお客さん、まずこの本に手を置いて、魔力を送ってみてください」
職員が黒本をこちらに差し出す。僕はよく分からなかったけど、とりあえず指示に従って魔力を送ってみることにした。黒本に手を置いて、魔力を注ぐ。この世界に特有な一連の作業にも、だんだん慣れてきた。
魔力を送っていると、ほんの数秒で黒本に施されていた装丁が淡い光を放つ。
「はい、ありがとうございます。これでこの本はもうお客さんのものになりました。ちょっと中を開いてもらえますか?」
言われて黒本を開く。そのページの最上には「干渉系統第一属:防御魔法」と書いてあり、その下には見開きを丸ごと使った樹状の図が載っていた。
「この上に書いてるのが、魔法の種類です。今回は防御魔法ですね。そして中央の図は修得する魔法の順番を表したものです。スキルツリーとか呼ばれてますね。緑色に光っている魔法は修得済み、青は修得可能、赤は技能不足により修得不可能、光ってないやつは前提の魔法を修得してないってことです。」
スキルツリーにはたくさん魔法が載っているが、そのほとんどは光っておらず、一番左にある『硬化』だけが青色に光っていた。
「魔法を修得する方法は簡単。青色に光っている魔法の箇所をトントンと軽く2回叩くだけです。試しにそこの『硬化』を修得してみてください」
言われた通りに『硬化』の欄を指で叩いてみる。すると瞬く間に青色の光は緑色に変わり、『硬化』から右に延びる枝の先にあった3つの魔法が赤色の光を放ち始める。
「はい、これで『硬化』の修得は完了しました。これからは任意のタイミングでこの魔法を使うことができますよ。それからその赤色の魔法も、お客さんが実戦を積めばそのうち習得できるようになります。まあ気長にやってください。…さあ、これで冒険者登録に必要な手続きは全て終わりました!これからは何をするにもオイゲンさん、あなたの自由です。魔王が支配する暗黒大陸を取り戻すのも、各地に散らばる猛者を求めるのも、あるいはちょっと途中で道を踏み外してみるのも。少なくとも僕は、あなたには今言った3つのどれでも、追求するに足るポテンシャルがあると思いますね。」
そう言う職員の目は、今までの道化のようなそれではなく、千里先でも見通せそうなほど鋭いものになっていた。
「それじゃ、僕はこれで失礼します。もうオイゲンさんは冒険者になってますから、これからすぐ依頼を受けてもらっても大丈夫ですよ。それじゃまた!」
職員はさっきの装置を持って奥に帰って行った。
「…。」
え、これで終わり?もっと攻撃魔法とかなんとか、色んな指南を受けられるものだと思っていた。今言われたことといえば、あなたは魔法の才能がありますということと、この魔法書を使って魔法を覚えてくださいということ、この二つくらいである。もっとMPが切れたら云々とか、RPGチックな展開を期待していたのに。これじゃあどこぞの戦略ゲームメーカーと同じくらいチュートリアルが雑じゃないか。僕だって手から炎を出したり、爆発を操って魔王軍の城を後方から吹き飛ばしたりしたいのに。もう知らない、そっちがその気なら僕だって好き勝手にやってやる。そんなちょっと空回りしたテンションで僕は依頼を受けにさっきの受付に向かった。
「あっ、お客さん!冒険者登録が済んだんですね!」
僕が小部屋を出るや否や、最初に僕を見つけてくれた金髪の女性職員が話しかけてきた。
「ええ、そうなんです。それで早速依頼を受けたいんですが…。」
僕が控えめにそう言うと、女性は食い気味に返してきた。
「ええ、ええ!そうでしょうとも!冒険者といえば依頼、依頼といえば冒険者、ですからね!」
太陽みたいな人だ。女性はそう言うとカウンターの下をガサガサと漁り、何枚かの紙を取り出した。
「今だとこういう依頼が出てますけど…まあぶっちゃけ、大した依頼はほぼないんですよ。無駄に何日も馬車に揺られて、ちゃっちい魔物を倒してまた帰ってくるなんてどうかしてると思いません?」
「え、えーっと…。まあ、そうかもしれません、ね…?」
紙に書かれた依頼を見る限り、「牧場の動物を喰らい尽くし施設に火を吐き全焼させたファイアドラゴンの討伐(緊急度4)」とか「子爵家に住み着き使用人8人を呪い殺した呪霊の討伐(緊急度3)」とか、そこそこ危なそうで大したことありそうな依頼もたくさんあるんだけど、この女性職員からしたらこれらは取るに足らない依頼らしい。
「そんな依頼で時間を浪費するなんて勿体無いですからねー、帝都周辺の森で魔物をズバズバ倒してるほうがよっぽど経験になりますよ。」
そう言って女性職員は帝都近隣に出没した魔物の討伐依頼を指差す。これが経験になるかどうかはともかく、最初から無茶苦茶な依頼を出されなさそうで少し安心した。
「そうですね。最初はこの依頼を受けようかなと思います」
「わっかりました!それじゃ魔物の発見位置が記された地図を渡しておきますね。初めての依頼、成功すると良いですね!」
なんだかトントン拍子で依頼が決まってしまった。色々大事な説明を受けていない気がするけどこれで良いのかな?
「ほらほら、善は急げ、ですよ!なんなら今から森に飛ばして差し上げましょうか?」
「え?飛ばすってなに…」
「飛ばすんですね、分かりました!『テレポート』っ!」
女性がその魔法を唱えた瞬間、僕の視界はぐわんと歪み、気づけば僕はさわさわと葉っぱの擦れる音が心地いい森に立っていたのだった。
始まった感