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徒党  作者: いーすと
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黎明

この春に家を出て、もう半年が経った。僕は確かに都市部でティーンエイジャーとして、美しいキャンパスライフを送っていた。ただ一絡げに都市と言ってもだ。僕の脳裡に浮かぶのは鉄筋コンクリート製のビル林であって、眼前に広がっているようなバロック様式のユーロピアンな街並みでは決してない。街道を歩く人も風変わりだ。大部分はコーカソイドらしき見窄らしい身なりの男で、女性は極端に少ない。中には端正な顔立ちに特徴的な形状の耳を持つ、いわゆるエルフのような外見の女性も歩いているが、それを含めても男女比は8:2と言ったところか。エルフらしき女性以外にも、背が低く筋肉質な男や背中に翅の生えた少年など、明らかに「普通」ではないいわゆる「異形」がそこかしこに歩いている。

当の僕はどうだろうかと思って、適当な商店のガラス窓に顔を映してみると───

「…白人だな。」

そこには中性的な顔立ちの白人少年が立っていた。視点が低いと思っていたが、どうやら若返っているらしい。記憶の中の僕は19歳だが、今の僕は15歳ほどだろうか。身長は160センチくらいに見える。街ゆく人々を観察するに、この年代としても低めになるだろう。服装は地味な色のシャツに紺の上着、下はクリーム色の長いトラウザーだった。この世界(便宜的にそう呼ぶことにする)の流行がどんな風かは知らないが、少なくとも大通りを歩く大衆よりは上等な生地に見える。シャツをつまんで中を見ると、タフタのような平織りの裏地が縫ってある。僕の知っている世界でも、今僕が着ているような服を一式揃えようとすれば、机に立つほどの偉人の肖像画が刷られた紙切れが必要になることだろう。

衣服の他にも持ち物は沢山あった。

僕は肩から、これまた高価なものだろう黒い鞄を提げていた。オーストリッチのそれに酷似する本格的な革製の鞄で、不思議なことに縫い目も継ぎ目もどこにも見当たらない。革用の糊かなにかで接合してあるのだろうか。中には財布と何か文章の書かれたメモ、少しの食べ物と動物の皮でできた入れ物のようなもの、そして短剣が入れてあった。入れ物を持ち上げて見てみるとなんのことはない、水筒のようだった。中には水が限界まで入っていて、それでも1リットルもないようだが、自分の置かれた状況が分からない以上これは命の水ということになる。食べ物は紙に包んであって、穀物でできた不味そうな四角い塊と乾燥した肉類だった。匂いを嗅いでみたがこれは酷い。とても食べられたものではないだろう。誰か乞食にやってもよかったが、僕も餓死は嫌なので一応取っておくことにした。

財布も革製だった。中には硬貨が何枚も入っていて、見覚えのない記号の羅列が並んでいた。しかしなぜだかこの羅列が文字に見えて、しかも意味のある文字列として僕の頭の中に浮かび上がってきた。

「1000リーン金貨」「ハルディア帝国通貨省」「2リーン銀貨」「50ベイル銀貨」エトセトラ、エトセトラ。

なぜ僕の脳がそう読んだのか知らないが、この情報を信用するならここはハルディア帝国という国らしい。お金の価値はわからないけど、財布の中身はなんだか大金に見えた。

短剣は本当にただの短剣だった。ただ刀身の根元の方に仰々しい紋章が彫ってあった。翼を広げる猛禽の紋章だ。

最後にメモを見てみると、やはり奇妙な記号列が書いてあった。私の脳はそれをこう理解した。

オイゲン・オーレンドルフ、15歳

出生地:ハルディア帝国リベンホーフ州バルトハイム

誕生日:エルエン暦1709年2月14日

オイゲン・オーレンドルフ。それが僕の名前らしかった。リベンホーフ州バルトハイムがどこなのかは知らないし、エルエン暦とやらが何を基準にした暦なのかも分からないがそういうことらしい。自分の記憶と異なる容姿、電灯どころかガス灯さえ無い路地、ファンタジーな民衆。

つまり僕は、異世界転生したのだ。

いや実際のところどうかは分からない。僕ことオイゲン・オーレンドルフが突然発狂して、存在しない記憶を生み出したに過ぎないかもしれない。それでもとりあえず、異世界転生だと思うことにした。だってそっちの方がハッピーじゃない?そういう本読んだことあるけどサ、元の世界のしがらみから解放されて無双する展開は読者にとってはともかく、当事者になってみれば愉快に違いない。僕がそんな人生を歩めるかは分からないが。

とにかく異世界に来たなら、剣でも弓でもいいから武器を持ってみたいと、まず初めに思った。

僕はこの世界に降り立って初めて歩き出した。どうやら今は昼のようで、まるで布を張ったような青一色の空に太陽が燦然と照っていた。この通りはなかなかに広く、中央に通る水路とその上に間隔をあけて架けられた石造りの橋が印象的だった。

少し歩くと、武器屋と思わしき商店が見つかった。ドアの上には例の記号(おそらくこの世界かこの国の文字だろう)で「アンワース鍛治商店」と書いてあった。質素な薄い鉄扉を押し開けると、酷く短身の老爺が奥で槌を振り下ろしていた。僕が店の中に入ると、老爺は僕に気づいたようで作業をやめ、店頭に出てきた。

「いらっしゃい。帝都随一の腕前と評判のアンワース鍛治に入るとは、なかなか見る目があるではないか、少年?」

老爺の渋い声が響く。強面に反して、柔和そうな話し方をする人だった。

「こんにちは。実は何か武器を買いたいのですが、その道に明るくなくて何を買えばいいか迷っているんです。」

当たり障りのないことを言っておく。実際、武器を買うと言っても自分に武器が使えるのかも分からない。

「なるほど…。それならそこに掛けてある武器を試しに使ってみなさい。気に入ったものを買うと良い。」

老人が鷹揚に言う。なんと言うか鍛冶屋は気難しい人が多いイメージがあったので、ここまで寛容な人に出会えたのは嬉しい誤算だった。

「いいんですか!?ありがとうございます!」

「構わんとも。ちょうど裏に巻藁を立ててあるから、そこで試して見なさい。」

老爺の好意によって、僕は武器の試し切りに臨むことになったのだった。

鍛冶屋の裏は思っていたよりも広く、武器の試用が楽にできる空間だった。

「まずは剣だな。最もポピュラー、最もありふれた武器だ。」

五行の構えだとか、なんとなく見たことがあるような構えで剣を持ち、眼前の巻藁に切り下ろしを放つ。

力一杯に振り下ろされた斬撃は巻藁に命中し、真っ二つに両断された。

「ほう、なかなかの剣速ではないか。少年、剣の覚えがあるのかね?」

老爺が感嘆の声を上げる。どうやら筋は悪くないらしい。

「いえ、覚えどころか、剣を持ったのも今日が初めてですね」

前世というか元の世界では、剣も銃も持つことができなかった。それこそが平和で豊かな日常生活を担保してもいたのだが、いざ武器を持てるとなると気分が高まるのを感じた。

「初見でこれとは、君はなかなかの武人になるかもしれんな…!」

老爺は少し驚いているようだった。まあ、才能がないよりは良いことだろう。

その後も僕は様々な武器を試した。小太刀や槍などの王道から、鉄扇や斧のような珍品まで。この鍛冶屋には、驚くほど多くの武具が驚くほど良い保存状態で陳列されていた。

「なるほど…、少年、なかなか筋が良いようだな。よし、これが最後の武器だ。まあ君はこんなキワモノに頼る必要はないだろうが。」

そう言って店主が取り出したのは、一柄の杖だった。この世界に魔法が存在するのかは分からないが、少なくとも鍛冶屋に置く武器としては不自然に思えた。こういう杖って、武器屋とは別に魔法店みたいな所で売っているものだと思っていた。

「おっと、ただの杖だと思っちゃいかんぞ?ほれ。」

店主がそう言って杖を両手で持ち、杖の中から短剣を引き抜いた。

「これは…仕込み杖ですか!」

「左様。この杖はもともと、普通の魔法杖として作られたそうだ。その証拠に、使われている木は間違いなくウィッチウッドだ。それにここを見なさい、上等の魔石が埋め込まれているだろう?」

店主がしわがれているが筋肉質の手で、杖の天面を指さす。そこには真紅の宝石が埋められており、よく見れば微かに赤く発光していた。

「ただこの洗練された杖が、暗い仕事を担う連中の手に渡った時にこういう風に改造されたのだよ。」

言いながら、店主が艶消しの施された刀身を指でなぞる。山葡萄のような美しい黒を放つ刀身は、僕にとってどこか魅力的に感じられた。

「店主さん、この杖はいくらで買えますか?」

僕は自分でも気づかないうちに、店主にこの杖の値段を尋ねていた。その言葉を聞いた店主は、少しの間硬直していた。

「少年、これを武器にするつもりかね?こう言ってはなんだが、こいつは直接戦闘には不便極まるものだ。君ほどの才能がこの武器を振るうのは少し惜しいな…。」

老爺は真剣にそう言っていた。僕という若い才能を、そして僕の未来を真剣に考えていたのだ。

「構いません。それに改造されているとはいえ、杖としても使用可能ですよね?僕はこの子を、ぜひ使って見たいと思います。」

それは衝動なのだった。しかし信じられないほど狡猾で、知的な衝動なのだった。このとき僕の衝動は、僕の知性より遥かに知的で、そして遠大な未来への布石を見つめていた。

「そこまで言うなら売って差し上げよう。…そうだな、普段ならこのくらいな杖は10,000リーンは取るんだが、これには曰くが付いているし、何より儂は君を気に入った。特別に半値で売ってやろう。」

老爺はこのとき、まさに老爺だった。僕は財布の中から大きな金貨を5枚取り出して、今しがた杖を側の机に置いた、老爺の大樹の枝のような手に乗せた。

「ありがとうございます。今後は武器屋はいつもここを利用することにします。」

「はっはっは。そりゃ重畳なことだ。…まあなんだ、もし気が変わったならその杖を持ってきなさい。無難な剣とでも取り替えてやろう。」

店主は机に立ててあった筆を走らせて、簡単な領収書を作ってくれた。その末尾にははっきりと

「未来ある若人のために オレグ・アンワース」

と書かれていた。

初めましての方は初めまして。いーすとです。今度はよくある異世界転生ものです。脊髄でものを書いているので、時々何を言っているのか分からなかったり、話の展開が支離滅裂だったりすると思います。まあなるべく続くように頑張りたいですね。飽きないうちに書きだめとくとかね。

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