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第6話

クライドたちは、野営を終えて発熱したリネットをおぶって夕方近くになってから、一つ目の村にたどり着いた。

ブリトニーの必死の看病もむなしく、病状は芳しくない状態が続いた為、当初の予定から少し外れてしまうものの、初めての旅の疲れを癒すことに専念しようということになった。


「宿、とってきたよ」

「ありがとう、ブリトニー。じゃあ、俺はリネットを寝かせてくるよ」


クライドは早速宿の一室へとリネットを運び、受付に水と布を借りた。

雨で少し濡れてしまっていた為リネットには着替えてもらい、その上で差し障りない範囲で体をぬぐう。

体をぬぐったものとはまた別の布を水で湿らせて、横になったリネットの額にそっとそれを置く。


「マックスとブリトニーが、薬にになりそうなものを探してくれるからな。今はとりあえず寝ててくれ」

「…………」

「大丈夫か?不安なら手でも握ろうか?」

「……握ったらぶん殴る」

「はいはい、俺が悪かったよ。何かあったら言ってくれ。俺もマックスたちに合流するから」


そう言って宿を出たクライド。

村はさほど大きなものではなく、小さな雑貨屋にパン屋、薬屋がある。

村長には最初に挨拶を済ませている為、滞在そのものには心配がいらなくなった。


「お二人さん、どうだ?薬ありそうか?」

「あ、クライド。それがね、風邪薬のための薬草が足りないんだって。天気もこんなだし、取りに行くとしたら明日になっちゃうみたい」

「明日か……個人的にはリネットが心配だし、早めにほしいところだけど」

「店主さん、俺たちがその材料をとってきたら、すぐに作ってくれるか?」


マックスの提案に、薬屋の店主は少し心配そうな顔をしたが、軽く頷く。

決まりだ、ということで薬草の群生地になっている場所を教えてもらい、リネットを欠いた三人で群生地へと向かうことにした。






「聞いた話だと、この辺のはずだけど……」


少し強まり始めた雨の中、2kmほど歩いて三人は群生地に到着する。

このまま雨を浴び続けたら、三人もリネットの二の舞になる恐れがあるため、手早く薬草を採取する必要があった。


「この辺って魔物も出るって言ってたよね。急ごう」


ブリトニーは薬学の知識こそ持たないが、薬草に関する知識はそこそこに持っていることもあり、草原に足を踏み入れる。

時間にして5分ほどしたとき、茂みの中からガサっと音がして、一行はそちらを振り向く。


「キキ……」

「っち、ゴブリンか!急いでるときに!!」


クライドが剣を2本とも抜いて、マックスたちの前に躍り出る。

二人には薬草の捜索を続行する様に言って、戦闘の構えをとった。


「悪いな、こんなとこで邪魔されてる時間はないんだ」


一気にけりをつけようと剣に闘気を込めて、剣を横なぎに払う。

咄嗟に避けようとしたゴブリンは後ろに飛んだが、腹にその一撃をかすめて蹲る。


「キッ!!」

「増援だと!?」


追撃に出ようとしたクライドの前に、合計3匹のゴブリンがクライドの前に現れた。

1匹であれば、すぐに片付けることも容易だが3匹ともなるとクライド一人では少し時間がかかる。


「クライド、見つけたよ!!撤退しよう!!」

「本当か!!よし行こう!!」


後々のことを考えたらここで討伐しておきたいところではあったが、今はリネットのこともあり、自分たちの状況も良くない。

後ろ髪引かれる思いではあったが3人は足に気を集中させ、高速でその場から離れた。






「ほら、できたよ。しかし驚いたな。ちょっと遠いところにある場所だし、もう少し時間かかるかと思ったのに」


薬屋の店主に材料を渡すと、すぐに薬を作ってくれる。

ずぶ濡れになってしまった3人にも念のため、と薬を作ってもらい、代金は材料を取りに行ってくれたからと無料にしてもらった。


「とりあえず風呂だな……入れるところあるのかな」

「一人ずつでよければ、お風呂使えますよ」


部屋に戻った一行が水滴をぬぐっていると、宿屋の従業員と思しき女性が声をかけてくる。

一人ずつとはいえ、冷えた体を温められるのであれば、ということで女性メンバーであるブリトニーから入浴することにした。


「私も入りたい……」

「リネット、目が覚めたか。でもまだ熱あるし、下がってからな。気持ちはわかるけど……」

「うう……」

「あとでブリトニーに頼んで、体お湯で拭いてもらおう?そうすれば少しはすっきりするだろうから」


マックスもその様子を見ていたが、先ほど死んだ目をしている、と揶揄されてからはリネットに話しかけようとはしない。

しかし薬の材料を取りに行ったりする辺り、心の底から憎んだり嫌悪しているわけではなさそうだ。


「ご一行様、お食事はいかがなさいますか?宿泊とは別料金になりますが、温かいものをお出しできますよ」


路銀はアーウィンからもらったものが十分にある。

何日か滞在しても尚余る可能性は高い。


「じゃあ、お願いしようか。リネットも、携帯食じゃさすがに栄養悪いと思うし」

「かしこまりました、ではよろしいタイミングでお声がけください。一階の食堂にご用意しますので」


軽く頭を下げて、従業員の女性が部屋から立ち去る。

それから少しして、ブリトニーが風呂から上がってきて、マックスとクライドも続いて入浴を済ませた。


「起きられるか、リネット」

「晩御飯よね……私も行くわ」


その顔はいかにも気だるそうで、しかし赤い顔はまだ熱が下がってないことを示している。

ふらつきそうな体をブリトニーが支えているものの、足取りにはまだまだ不安がある。


「起きてこられたんですね、では夕飯をご用意しますので」

「ありがとうございます、お願いします」

「リネット、自分で食べられる?大丈夫?」

「子供じゃないんだから……風邪くらいで大げさよ」


甲斐甲斐しくされることに慣れていないのか、はたまた借りを作っていると思ってしまうのか。

リネットは自力で卓につき、食事を始める。

その様子を見て、残り3人も各々の食事を始めた。


素朴で庶民の家で普通に出される様な食事だが、従業員の言う温かい食事は一行の体を中から温めて、その疲れをわずかながら癒した。






それから2日ほど経過した。

リネットは養生に専念し、熱も下がって顔色も通常に戻りつつある。

3人は村で困っている人間に力を貸し、時には対価を得て、時には無償で尽力していた。


幸いにもあの雨のせいで風邪を引いたという者もおらず、明日には再び旅を再開できそうだった。


「そろそろリネットもよさそうだし、旅を再開しようと思う。どうだろう?」

「いいんじゃないか?」

「この村の人たち、とてもいい人ばかりだから名残惜しいけど、仕方ないね」

「そうね、とてもお世話になったし……」


各々がこの村に思いを馳せていたが、いつまでも滞在しているわけにはいかない。

魔王討伐が成った際には、帰り道でまた立ち寄ることもできるだろうということで、翌朝に村を発つことにした。


「一応、準備は大丈夫だよな?」

「薬も少しおまけしてくれたみたい。助かるよね」

「村長のとこにいた子、お孫さんなんだって。私を見て勇者様とか言ってたんだけど、そんな感じの恰好して見えるのかしら」


再び始まる旅の支度、そして問題の有無の確認。

不足していそうなものは、村の商店で賄って、いよいよ問題がないと確認された直後のことだった。


「失礼します、ご一行様。少しよろしいでしょうか?」


宿屋の従業員が部屋の戸を叩き、応じた一行の前にいたのは従業員の他、村長と呼ばれる人物だった。

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