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第5話

「これは、少し良くないかもしれませんね……」


翌朝、店の開店準備を終えたメイヴィスが水晶を眺めてつぶやく。

同じく開店準備を終えたクローディアがメイヴィスの声に反応し、水晶を覗き込んだ。


「これは……あいつ、好き嫌いしてるからだろう、こんなの」


リネットの顔色が悪く、息が荒い。

水晶からは音声までは聞こえてこないが、非常に辛そうなのが伺える。


「風邪……ですかね」

「多分な。しかし風邪程度と言っても万病のもとなんて話もある。油断はできない」


一行はまだ、野営を畳んでいる段階だ。

そして、異変に気付いたブリトニーはリネットを看病している様だった。


「風邪で体力を使ってしまってるということは……代わりを用意する必要がありますかね?」

「それには及ばないと思うが……万一は考えておいた方がいいかもしれないな」


現在魔王に対抗できそうな人間は、既に洞窟へと送り込んでしまっている。

彼らはまだ入ってから4日目と言ったところ。

どれだけ早くてもあと2日から3日は出てこられないだろうし、出てきてすぐに魔王討伐へ行け、というのも酷な話だ。


「とりあえずメイヴィス、今日は店番はいいからこいつらを注視しててくれないか?」





当のクライド一行。

リネットが朝方から咳き込みはじめ、ブリトニーが看病をしている。

残りの二人が朝食を終えて片付けを始めている段階だが、その表情にはやや不安が浮かんできていると見える。


「どうする?村までまだ少し距離あるぞ……」

「そうだな……正直ここでじっとしていてもリネットがよくなる未来が見えない」

「私の回復魔法は病気が治せるわけじゃないんだよね。行くなら少し急いだほうがいいかも。雨降りそうだし」


ブリトニーの言葉に一行は空を見上げ、ため息をついた。

厚い雨雲と思しき黒い雲が、東の空を覆い始めている。

東から吹く風も少し強くなっている以上、彼らのいる場所に雨が降り出すのも時間の問題と言える。


「まずいな、なるべく森の中を進もうか。街道よりは魔物に見つかる頻度も低いかもしれないし。雨が降っても、少しは凌げる」


クライドの提案が受け入れられ、一行はゆっくりとその足を進める。

出発して1日も経過しないうちに降って湧いた災難に、一行の表情は暗い。


「おいリネット、もし辛かったらおぶってやるぞ」

「馬鹿じゃないの……私が何であんたにそんな借り作ること……」

「リネット、ダメだよ……風邪かもしれないけど、ここで無理したら後々に響くかもなんだし……」

「だったらあんたがおぶさりなさいよ。私は這ってでも次の村まで自力で行くんだから……!」


人一倍プライドの高いリネットが、これ以上の屈辱はうんざりとばかりに、先頭に立って歩く。

その足はややふらついていて、クライドとブリトニーをハラハラさせた。


「まぁ、お前がそう言うんであれば俺は構わない。だが忘れるな。仮に俺たちのミッションが失敗、なんてことになる様なら師匠からどんな目に遭わされるか……想像できないわけじゃないだろう、間違いなく死ぬぞ」


ぼそっとつぶやいたマックスだが、この一言がよほど効いたと見えるリネットが、渋々その体をクライドの背中に預ける。


「そういうマックスは既に死んだ目してるくせに!早く行きなさいよクライド!!」

「はいはいわかったって……っていうかマックスに失礼だろさすがに。騒ぐと熱上がるぞ……」


心無いリネットの一言に深く沈んだ様子のマックス。

そんなマックスを尻目に、クライドとブリトニーは歩を進め始めた。





「……これ、リネットさん……」

「ああ、まぁ声は聞こえないがこの瞬間だけは何となくわかるな……マックス、不憫なやつだ」





「クローディアさんの商店というのは、ここで合っていますか?」


昼過ぎ。

クローディアを訪ねてきた者がいた。

普段からそこまで客の入りが良い方ではない商店だが、それでもクローディアの仕事の評判は評判を生み、カルカゴやルミヒ近辺に用事がある人間はほぼ必ず立ち寄る。


この客も、その一人だった。


「武器をこさえてもらいたいんですが……」


年齢は20代中ほどと思われる男性客。

クローディアの商店は、これと言って決まった看板を出していない。

依頼があれば可能な限り対応するというのがモットーで、雑用から魔物の討伐まで幅広く行う。


今回は武器の制作依頼だが、これも初めての事ではなかった。


「武器の種類は?」

「槍がいいんですが……」

「突き専門か?それとも切るのにも使いたいのか?」

「どちらも対応できるなら、ありがたいです。パルチザンみたいな」

「値段はこんな感じだが……」


値段も、簡単なものから難易度に応じて上がっていく。

素材を集める必要があるものであれば、そこに上乗せで料金が発生する。

店にあるもので対応可能であれば、比較的安価でそれなりの品質のものをクローディアは作成できる。


また、客が持ち込んだ素材で作成できる場合には相当安くなることもある。


「柄に使う素材は正直金属がいいので、手持ちじゃ足りないんですよね。刃先に向いた鋼はこの通り、持ってきたんですが……」

「なら柄に使う金属をこちらで用意できればいいんだな。メイヴィス、鋼はどの程度あった?」

「えーと……槍に使うんであればぎりぎり間に合うかもしれません」

「だそうだ。そうすると……鋼の代金と合わせて制作料は金貨1枚でどうだ?」

「そんなに安く作れるんですか?」


この世界で使う通貨は、銅貨と銀貨、金貨と大まかに3種類。

銅貨1枚で日本円にして1000円程度。

銀貨は銅貨10枚と同額に扱われる為10000円程度。


金貨は銅貨10枚とほぼ同額に扱われるので、100000円程度の計算になる。

制作料に材料費を合わせているのであれば、相場から見ても相当安い計算だ。


「まぁ、集めようと思えばまた集められる素材だからな。加護を付与するなら、もう少し上乗せすることになるがどうする?」

「加護は先約があるもんで……今回は制作だけでお願いしてもいいですか?」

「わかったよ、毎度。制作には5日ほどかかる。代金は受け取りの時に払ってもらえればいいんだが、いいかな?」

「ありがとうございます、じゃあそれで」


メイヴィスが受付表の様なものを作成して、客用の控えとして半券をちぎり、若者に渡す。

若者も半券を見て、この店のやり方を理解した様で、大事そうに半券をしまい込んだ。


「では、5日後にまた来ます。よろしくお願いします」






そんなわけで、日を跨ぐ依頼がほとんどだが、この店にはぽつりとでも客足が絶えない。

依頼内容の単価も決して低くはなく、従業員に給金を払ってもきとんとやっていける。

更に言えば、クローディアにはもう一つ稼ぐための手段がある。


昔、とあるクエストの報酬でもらい受けた鉱山。

ここで様々な金属を入手することができる。

店から少し離れた場所にあるので頻繁に赴くことはできないが、それでも一度籠れば武器を複数拵えることができるだけの量を持ち帰れる。


「メイヴィス、ノリスはどこだ?」

「先ほど鉱山へ行く、と言って出かけましたが」

「そうか、あいつはやり取りを見ていたんだな。なら待っていればいいか」


距離にして50kmほどの場所にある鉱山。

魔物も出るが、クローディア一派の人間であれば問題なく対応できる。


「マジックバッグは持って行ったんだよな?」

「その様ですね。店所有の物が一個なくなってますし」

「なら私はあいつらを見守るとするか。メイヴィス、槍の作り方はわかるか?」

「ある程度は……わからなかったら師匠に聞けばいいですか?」

「そうしてくれ。練習用じゃなくて商品だからな。それも買い手がついてる」


そう言ってクローディアは再びカウンター内に腰掛ける。

そして水晶を覗き込んだ時、映像に変化があった。

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