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第2話

話の流れとしては少しひどい展開になるかもしれません。


クローディアがカルカゴ兵士に喧嘩を売った翌日。

城内はいつになく沸き立っていた。


「いいか、私があのエルフと立ち会うからには負けは許されない。我が国の威信をかけて、今日の勝負に挑むことを約束しよう!」


ネイトの言葉に、下々の兵たちは大きく歓声を上げる。

アーウィンは心配そうにその様を見届けていた。


「陛下、その様なお顔をなさらないでいただきたい」

「む……すまぬ、しかしあのエルフ、どうにも引っかかってな」


商人であると公言していたクローディアだったが、その身のこなしが只者ではないことを、アーウィンは見抜いていた。

元冒険者という触れ込みであればそれは至極当然ではあるのだが、アーウィンはそれだけでは説明のつかない何かを、クローディアから感じ取っていた。

アーウィンはもともと、政治だけでなく武にも精通した人間だ。


ただの凡庸な王と形容するには、その経験や見る目は常人のそれを凌駕しているといえる。


「何、たかが商人の世迷言。私がそのことを証明して見せます。陛下はどっしりと構えていていただければ」


そう言ってネイトは、来る決闘に向けて訓練場へと足を向ける。


「失礼します」


ネイトが謁見の間から出ようとしたすぐあと、クローディアが兵に連れられてやってきた。

クローディアの後ろには、4人の男女がついてきている。

いでたちとしては見るからに冒険者と言ったところだが、それぞれが違う武器を携えていた。


「おお、来たか……」

「陛下、本日はこの様な場を設けていただいたこと、感謝します」


先日の様にクローディアが恭しく頭を下げたのを見た、後ろの冒険者の一人がぷっと吹き出した。


「師匠、似合わないことして……いてっ!」

「馬鹿が。頭の下げ方も知らんのか」


茶化した一人がクローディアに頭をはたかれ、慌てて頭を下げる。


「申し訳ありません、戦闘しか取り柄のないクズでして」

「良い、気にするな。して、そちらの者たちは?」

「はい、先日申し上げました、私が手塩にかけて育てた者たちです。お前ら、とっとと自己紹介しろ」

「ちえ……叩くことないのに」

「何だ、魔王に挑む前に私に殺されたいのか?」

「ひえっ!?」


4人はそれぞれ、名乗りを上げる。


「クライド……剣士です」


背中に長剣を二本携えた、黒髪で細身の優男。

膝くらいの丈の黒い革製のコートを身にまとっている。

先ほどクローディアに軽口を叩いて頭をはたかれたのがクライドだ。

その目は自信に満ち溢れているが、クローディアにはおそらく敵わないというのを本能で理解しているタイプだった。


「マックス、アサシンです」


薄手の白い生地のコートを身にまとい、フードを目深に被っている少年。

長く赤い髪に隠れて、その表情はうかがい知れない。


「ブリトニー、神官です」


これまた白いローブに身を包み、長い金髪がゆらめく少女。

マックスとは対照的に、明るい笑みをたたえている。


「リネット、魔術師です」


黒いローブに身を包み、桃色の髪が印象的な少女。

愛想はあまりないが、知的なイメージが付きまとう。


「何だよ、緊張してんのか?魔法少女リネット」

「あんたね……その名前で呼ぶなって言ってんでしょ!!」


知的で寡黙そうな見た目から一変、クライドの軽口に顔を真っ赤にして激昂するリネット。

マックスは自分には関係ないとばかりにそっぽを向き、ブリトニーは慌てて二人を嗜めようとする。

そんな3人の間にクローディアが割って入り、それぞれを一瞥した。


「やめろ馬鹿ども。陛下の御前ってやつだ。次やったらぶっ殺す」

「…………」

「…………」

「……私、止めようとしただけなのに……」

「まぁよいではないか。若者は元気であってこそだ。で、クローディアよ。この者たちの、誰が?」

「全員、と言いたいところですが果たして兵士長どのは全員と戦えるでしょうかね」


尊大なクローディアの物言いに、ネイトが眉を吊り上げる。

もちろんクローディアとしては、連れてきた若者たちの実力を示したいという意図あってのものだったが、ネイトからしてみれば挑発以外の何物でもなかった。


「どういう意味だ、エルフ。場合によっては……」

「そういきり立たないでもらえますか、兵士長どの。今回の決闘、一人ずつやりたいのですが……どうにも兵士長以外の方では相手にならないでしょう」

「貴様、ここへ来てまだ……」

「そこでどうでしょう、兵士長どのとこいつらとで、負け抜き戦にするというのは」

「負け……何だって?」

「どうせ兵士長どのは、こいつらには勝てません」

「…………」


何か言いたそうなネイトだったが、ここはアーウィンの顔を立ててクローディアの言葉に耳を傾ける。


「そこで、こいつらと一人一人立ち会って、兵士長どのが負けたら次の相手と。勝ち抜き戦の逆ですな」

「くっ……いいだろう、私が勝った場合はどうするというのだ?」

「その場合は、私たちが退散するのみです。納得できないということであれば、この国への立ち入りの制限等も視野に入れましょう」


ネイトとクローディアのやり取りを、アーウィンはじっと眺める。

おそらく、クローディアの言うことは本当だ。

ここにいる若者たち、それぞれが只者ではない雰囲気をまとっている。


(木剣での立ち合いにしたのは、正解だったかもしれない)




「さて、誰から行く?」


正午。

クローディア一行とネイト、それに兵士たちにアーウィンは訓練場へと足を運んだ。

アーウィンだけは万一にもケガ等させるわけにいかないということもあり、観覧席で戦いを見守ることになった。


「兵士長!!このクソ無礼なエルフに一泡吹かせてやってください!!」

「だから戦うのは私じゃないと言っている。聞いてなかったのか」


いきりたつ兵士を一瞥して、クローディアは冷徹に言い放つ。

そしてそんなとき、マックスがすっと前に出た。


「俺がやる。殺してもいいのか?」

「馬鹿たれが。殺していい訳がない。気絶させるのもダメだ」

「そんな小倅が、私に勝てると?冗談も大概に……」

「本気でそう思うのであれば、立ち会ってみるのが良いでしょう」


やれやれと肩をすくめながら、クローディアはマックスに木剣を手渡す。

ネイトも木剣を手にして、訓練場の中央へと歩を進めた。


「長剣はあまり使ったことがないのだがな……」

「なら止めるか?逃げるなら今のうちだぞ」


獲物に対して文句を言うマックスに、挑発的なネイト。

アサシンであるマックスは、主に短刀を武器として扱う。

リーチがあまりにも違うため、距離感が多少おかしくなるのだ。


「逃げたいのはそっちじゃないのか?師匠があれだけ言ったのによく引き受けたもんだよ、あんた」


長めの前髪の下でもわかるほど口元を歪めたマックスが、構えをとる。

審判役として選ばれた副兵士長が、右手をまっすぐ上にあげた。


「では、兵士長ネイト対マックス!いざ尋常に、勝負!!」


勝負の「ぶ」の声がかかった瞬間、マックスがネイトの視界から消える。

ネイトだけではなくその場にいたほとんどの人間には、マックスが消えた様に見えただろう。

とんでもない速さで動いたマックスの動きを追えていたのは、クローディア一行だけだった。


「な!?どこへ行った!!」

「だから言っただろ、この程度の速さが追えない時点で勝負にもならないんだよ。それにしても困ったな、どうやって勝てばいいんだこれ」


そう言いながらマックスは、ネイトの体に木剣を軽くぶつけ始める。


「ぐっ!?……っだ!!」

「降参したら?もうあんた立ってるだけで精一杯だろ」


わずか数十秒の間に、マックスから放たれた「かなり」手加減された剣閃をいくつもくらい、ネイトは既にボロボロだった。

たまらずネイトが木剣を振るうも、一撃としてマックスの体に触れることすらかなわなかった。


「はぁ……はぁ……」

「おーい審判さん、そろそろ止めないと続かないんじゃないのか、これ」

「む……」


息も絶え絶えの様子のネイトを見た審判が一瞬迷う。

足を止めたマックスも、呆れた様にネイトを見た。


「実戦経験がほとんどないだろ、あんたら。俺たちとやりあうには経験不足ってこった。名誉だの何だの言ってもそんなのは所詮国内でしか意味をなさないんだよ」

「この……!!」

「そ、それまで!!勝者マックス!!」

「なっ!?」


これ以上続けてもマックスにはおそらく触れることもできない。

そう判断した審判は、ネイトから視線を逸らして試合を止めた。


「イーサン!!貴様……」


イーサンと呼ばれたのはもちろん、審判役の副兵士長だ。

イーサンは黙って首を振り、マックスに訓練場から出る様促した。

この時点で、ネイトの自信はほぼ砕けたと言っていいだろう。



それからの試合はもちろん、一方的で散々なものだった。

剣士のクライドには初撃で剣を跳ね飛ばされ、続いたブリトニーには危うく神聖魔法で焼き殺されかけ、リネットには魔法で動きを奪われたことで勝負は決した。


「よもや、これほどとは……」


全てが終わったとき、ネイトの騎士としての自信は粉々に打ち砕かれたと言える。

リネットとの闘いにおいては、魔法が命中した時点で見かねたアーウィンが試合を止めるという展開になってしまったのだ。


「へ、陛下、私は……」

「良い、気にするな……」


アーウィンはネイトが弱いなどとは思っていない。

クローディア一行が、強すぎたのだと理解している。

訓練を欠かしたことなどないはずだし、それでもここまで勝負が一方的になったのは、純粋に実力に開きがあるからであることを、きちんと見極めていた。


「では陛下、今後の話をしたいのですがよろしいでしょうか?」


ちらりと傷だらけになったネイトを見やり、クローディアがアーウィンに問いかける。

半分落胆、半分は安堵と言った様子のアーウィンは、軽く頷いて兵とともに謁見の間へと足を運ぶのだった。

というわけで、クローディア一行が並外れた実力者であることがわかりました。

ここからどうなるのか、楽しみにして頂けたら幸いです。

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