第1話
行き当たりばったりで書くことが多いです。
不定期更新ですが、筆が進めば更新はしたいと考えています。
戦闘もありますが、基本的にはのんびりとした話になることが多いかもしれません。
魔王を名乗る魔族が軍勢を率いて一つの国を一夜にして滅ぼし、自らの拠点としたのはもう20年も昔の話。
同盟関係にあった国々が滅ぼされた国を取り戻すべく、兵を送り込むも生きて帰還した者はいなかった。
3年程度は、魔王の脅威へと立ち向かうべく国々が兵を送っていたのだが、魔王を討つことはかなわず、国々は疲弊していた。
「一体どうしたら……」
どの国の王、参謀も頭を抱える。
同盟関係にある国を、今のまま放っておくことなど許容してはならない。
それはわかっているものの、打開策は一つとして浮かんでこない。
また、現実的に魔王に対抗し得る戦力は期待できない。
剣術に秀でた者、魔法に秀でた者。
その両方の才を持つ者……いずれも魔王討伐に駆り出されはしたが、帰ってはこなかった。
「陛下、謁見を求めている者がおりますが、いかが致しましょう?」
ある夜のカルカゴ大国、城内。
国王アーウィンを訪ねる者がいた。
この国は現在魔王城がある位置から、南西に150kmほど離れた位置にあるが、その他元同盟国に比べると比較的魔王城から近い場所にある。
日夜魔王軍が攻めてくるかもしれないという脅威に恐々としており、国を挙げて独自に魔王討伐隊を編成しようとしている。
カルカゴの他のもと同盟諸国は既に、滅ぼされた現魔王城を取り戻すことを諦めつつあった。
国を捨てて避難できた元住民たちは、新たな土地や国での生活を始めている。
王城にいた王を始めとする一族は全員殺されたと聞いた為、取り戻すこと自体に意味が見いだせなくなったのだ。
「何者だ?」
「クローディアと名乗るエルフの女です。追い返しましょうか?」
「……」
一瞬、逡巡する。
正直なことを言えば、一個人に構っているだけの余力はこの国にはないと言っていい。
だが、魔王の脅威に一番近い国と言われるカルカゴにあって、王を訪ねてくるなど稀なことである。
「良い、通せ」
「はっ」
謁見の間へ通されたのは、兵士のいう通りすらりとした体系の女エルフ。
長い金髪をポニーテールに結っており、背中には長剣と槍を携えている。
「初めまして、カルカゴ王……アーウィン陛下とお呼びした方がよろしいですか?」
「好きに呼ぶが良い。して、お主は?」
「私はクローディア。元冒険者のエルフです。現在は幅広く商いをさせてもらっている身です」
「……もしや」
アーウィンには、心当たりがあった。
ここ数年で、ギルド一つほどに値する商店を経営しているエルフがいるという噂がある。
カルカゴと、カルカゴから南東に200kmほどに位置するルミヒ王国の中間辺り。
元々は、何の施設もなく、街道があるに過ぎない場所だったが瞬く間に立派な建物が出来、冒険者や商人と言った旅人の疲れを癒し、腹を満たす場となっていた。
それだけではなく、冒険者の戦闘における立ち回りや連携を指南し、武器の仕入れ、製造を請け負うこともあるという。
「お主……あの商店の者か」
「ご理解が早くて助かります」
恭しく頭を下げ、クローディアは笑みを浮かべる。
その目はアーウィンという人間を値踏みしている様で、鋭く目を逸らすことを許さない何かを持っている。
「では陛下……この国では、独自に魔王討伐の兵を募っていると聞いています。お間違いないでしょうか?」
「どこで、その情報を……」
「商売柄、様々なことが耳に入りますもので。そして今の反応……間違いない様ですね」
再びクローディアは微笑む。
「では、一つ申し上げてもよろしいでしょうか?」
「申してみよ」
「まず……」
アーウィンとしては、現状藁にもすがりたい状況。
しかし、どんな藁でも良い訳ではない。
クローディアはおそらく、アーウィンの抱える問題を解決する一つの策として、こうして話に来ているのであろうと考えている。
「兵を差し向けるのは、中止しましょう。私が鍛えた者どもに、そんなことは任せていただければよろしいかと」
「なっ!?」
これにはアーウィンだけでなく、兵たちも沸き立つ。
日々魔王討伐の日のためにと訓練を続けてきた者たちだ。
それを必要とせず、いわゆる私兵に任せてしまえというクローディアの発言には、その場にいた誰もが度肝を抜かれたと言っていい。
「そ、それは……どういう意味だ?お主の鍛えた者どもが、一体……」
「申し上げた通りにございます。私はこの20年、冒険者を引退して様々な物に触れてまいりました。無礼を承知で申し上げますが、国における兵士というのは国を守る要。専守防衛には長けておりましょうが、攻めるにあたっては不利になることの方が多いことでしょう」
「ぬ……」
それはアーウィンにとても耳の痛い話だった。
各国と同盟を結んでいるという現状、戦争などはもう数十年という単位で経験のない諸国。
カルカゴももちろん例外ではない。
それらが手を結んで魔王城へ攻め入り、送り出した兵は一人として帰ってくることはなかったのだ。
これはもはや、やり方が悪いのだという他なかった。
だが、どの国もそれを求めてしまうことは憚られた。
これが間違いだったと認めることは、イコールで魔王には国では対抗できないと言っている様なものなのだ。
「陛下、この世界には勇者などという不確かなものは存在しません……いえ、厳密には勇ましい者、つまり先んじて魔王城へ攻め入ったのは全て勇者と呼んで差し支えない。しかし、その勇者を以てしても討伐できなかった魔王。これはもはや、正攻法では太刀打ちできないと考えた方がよさそうです」
「……」
「私の鍛えた者どもは、攻守に長けております。物理的にも魔法においても、そこらの兵では敵いますまい」
「貴様!!」
クローディアの言葉を遮る様に、声を上げた者がいた。
もちろんそれはアーウィンではなく、傍に控えていた兵の一人。
屈強そうなその男は、怒りに満ちた目でクローディアを見つめる。
「我が国の兵を、愚弄するか!!」
「……される様なぬるい訓練を積んだ兵など、何人、何万人送り込んだところで魔王にとっては痛くもかゆくもないでしょう」
「何だと!?」
「ネイト、よせ!!」
掴みかからんばかりの勢いだった兵……ネイトと呼ばれた壮年の男。
手にした槍は今にも、クローディアを射抜かんと震えていた。
「クローディアよ、そこまで言うのであれば、一つ試したい。応じてくれるか?」
「何なりと」
飄々とした雰囲気はそのままに、クローディアは立ち上がる。
先ほど猛り狂っていたネイトと呼ばれた男を見て、技量を推し量っていた。
「ここにいるのは、近衛兵士長のネイトだ。お主の言う、お主の鍛えし者とネイトとを立ち会わせる。もちろん、木剣でだ。どうだ?」
「獲物は何でも構いませんが……それで勝利を収めた場合、私の提案を受け入れていただけるものと考えてよろしいのでしょうか?」
「一考の余地はある……現状そう考えているのは事実。しかし、我が兵たちも来る日に備えて日々訓練をしてきているのだ。実力を示してもらいたい」
「承知いたしました。それでは、立ち合いは如何様に?」
傍に控えていたネイトだが、我慢できないとばかりに前へと進み出る。
「私が試します。陛下、よろしいですか?」
「ふむ……しかしお主ほどの者が……」
「私は構いませんよ。私が立ち会っても良いですし、先ほど申し上げた私の鍛え上げた者が相手をするのも良いでしょう」
「どこまでも愚弄してくれているな、女……いいだろう、貴様に任せる。どの者であっても、私を打ち負かすことができるというのであればな!!」
こうして翌日の正午に、カルカゴの近衛兵士長ネイトと、クローディアの私兵との決闘が決まった。
城内に設置された訓練場にて、兵士の意地とクローディアの余裕が今、ぶつかる。
クローディアは元冒険者ということもあって勝気な性格で、それなりの実力者です。
対してアーウィンは王という立場ながら、驕ることなく冷静に物事を見ているという珍しい人物になってしまった様に思いますが、このままいきたいと思います。