第101話
私は大のホラー好きである。特に日本のホラー映画が大好きでホラー映画だったら余裕で2時間は話せる自信がある。
でも!お化け屋敷は論外だ。ホラー好き=お化け屋敷が好きとはならない。
勝手に溢れてくる唾液をゴクリと飲み込み、おどろおどろしいお化け屋敷と対峙する。
友達の野村涼子は必ず有言実行する女だ。目を見開き、口角を上げながら「ほら、行くよー」と言い、私の腕を掴み引っ張る。
私は必死にやだー!やだー!と暴れながら訴えているけど非情な涼ちゃんは私の訴えを一切聞こうとしない。
ここでみんなに問いたい。遊園地に着き、最初にお化け屋敷に行く人いる?
きっと、1割にも満たないよね?普通は日が暮れて、ラストにドキドキを味わうためにお化け屋敷に入る人が多いはずだ。
それか、中盤で乗り物休憩を兼ねて趣向を変えるためにお化け屋敷に入る。
だからこそ、私は大声で言いたい!お化け屋敷は一番最初に行く場所じゃないと。
「千紘、いい加減諦めて」
「やだー」
「他のお客さんに迷惑でしょ!」
「迷惑をかけているのは涼ちゃんでしょ!嫌がっている私を連行しているんだから」
「千紘が諦めたら関係ないし」
どこまでも諦めの悪い友達である。私が何をしたと言うんだ。昨日、涼ちゃんが眠れるように物語を聞かせてあげたのに余りにも酷い仕打ちすぎる。
「凜ー!助けてよー!」
「でも…」
「佐倉さん、邪魔をしないで下さいね」
「はい…」
私の最頂点の太陽族の幼馴染は最高に不甲斐なさすぎる。太陽族が月族の威圧に負けてどうすると言いたい。
そして、、もう1人の太陽族はガクガクブルブルでチワワのように震えている。
ホラーが苦手な太陽族の水瀬さんはお化け屋敷も苦手みたいで…目に涙を溜めている。
デカい体が小さくなり、凜の服を後ろからずっと掴み、全く太陽族の面影がない。
って、私が悪いんだけどね!凜と水瀬さんは私と涼ちゃんのいざこざに巻き込まれているだけで申し訳ないとは思っているし。
でも、私も冤罪の被害者だ。良かれと思ってしたことをなぜか憎まれている。
「涼ちゃん…いい加減許してよ」
「お化け屋敷をクリアしたら許すよ」
「悪魔め…」
「死神よりいいでしょ」
悪魔も死神も変わらないしとツッコミを入れたいけど、きっと言っても変わらないから今から始まる地獄を受け入れるしかない。
それに、足掻くのは疲れてしまった。地獄を先延ばしするなら早く地獄に行きたい。
「あっ、水瀬さんと佐倉さんは別に待っててもらってもいいですから」
ずるい!ずるい!私もここで涼ちゃんが帰ってくるのも待っていたかった。
「大丈夫だよ。私も陽奈も一緒に行くから」
「ちょっと!凜!」
「陽奈、うるさい。ちーちゃんが行くのに私が行かないはずないでしょ」
「それは…そうだけど」
「凜、大好き!」
「へへ」
凜の友達兼幼馴染思いの言葉に思わず愛の告白なみの気持ちを伝える。幼馴染って本当に最高だよね。友情を越えるよ。
「うー、、分かったよ。私も行くよ…」
しぶしぶ、口のへの字にした水瀬さんも行くことが決まり私達は前に2人、後ろに2人というフォーメーションを組み歩き出す。
私の横には凜がおり私達は腕を組んでいる。そして、私の後ろには涼ちゃんがいて…
酷いよね。涼ちゃんも前組かと思ったら私の背中に張り付くんだもん。そのせいで歩きずらいし、みんなをお化け屋敷に連行した人がすでに怖がっている。
凛は水瀬さんに後ろから羽交い絞めにされ歩きにくそうに歩いている。基本、前組は後列組の道案内人と壁代わりだ。
おどろおどろしい音楽が鳴り響き、今から私達は地獄の恐ろしい世界に突入する。
でも、、あれ?中は意外に明るくて怖さがそんなにない。お化け屋敷って…もっと暗闇で怖い世界だと思っていたけど、、もしかして私、いつのまにか克服してる?