5話 第二王子
学園に入ると、私たちのことを学園の生徒たちは人集りになって待っていた。
「キャー、出ていらっしゃったわ!
アーク殿下と、婚約者のエレナ様よ‼︎」
「キャー‼︎」
アークはその美貌と魔力量、そして剣の腕が有名で、そんな素敵な王子と一緒に学園生活を送れると知った女生徒たちが、黄色い声を上げながら馬車の前に押し寄せていた。
「聞きました?お2人、とっても仲が良いんですって。」
「えー、いいわね、うらやましいわ」
「ほら!見て!殿下があんなに優しく微笑んで…エレナ様をずっと見ていらっしゃるわ!」
「ああ…ほんとに素敵!私もあんな風に思われたい…」
口々に好き勝手なことを言われる中、アークとエレナは気にせず2人の世界を作りながら学園内へと入って行く。
「やぁ、兄上にエレナ。大変な騒ぎだったね」
後ろで結んだ、肩より少し長めの艶のある黒髪を揺らしながら、アークの双子の弟である第二王子フェリスが前から歩いて来た。
双子と言っても二卵性のため、同じなのは青い目くらいで、あとはほとんど似ていない。似ていないとは言っても、どちらも美しい造形の顔立ちだが。
アークの目は優しく、笑うと目がなくなる。反対にフェリスは少し鋭い目をしていて、髪色も合わせると、例えるなら黒猫のようだ。
エレナは、8歳でアークの婚約者に決まった時から2人とよくで遊んでいたが、いつも犬と猫がじゃれあっているように見えて、この双子が大好きだった。
「おはようございます、フェリス殿下」
エレナは笑顔で挨拶すると、フェリスも穏やかに微笑み返し、
「ああ、おはよう、エレナ。
制服良く似合ってるよ、可愛いね」
と優しい声で言った。
「こら、フェリス、人の婚約者にそういうこと言うな!」
「はい、はい、本当のこと言っただけなのにうるさいなぁ、兄上は。
エレナ?こんな男と結婚したら絶対大変だよ?
僕にしといた方がいいんじゃない?」
フェリスはそう言って冗談ぽくウインクする。エレナはそれを見てクスクス笑った。
「大変な騒ぎだと言ったが、どうせお前も入る前に騒がれたんだろう?いつもきゃーきゃー騒がれてる癖に」
「兄上たちほどじゃないさ。僕は一人だしね?」
「お前も早く婚約者を決めればいいだろ。お前を好きだと言う女性は山程いるんだから。
2人でいれば、何を言われても気にならなくていいぞ?なっ?エレナ?」
そう言ってニコニコしながらエレナを見るアークに、フェリスは呆れ顔になる。
「はいはい、僕にまで惚気るのはやめてくださいね?はぁ…この先思いやられるなぁ…
僕たち全員同じクラスなんですよ?
まぁ、魔力量的に一番上のクラスに集まるのはわかっていましたけど」
「あの…私はそんなにないんですが…」
エレナが不安そうに言うと、
「ああ、それはほら、兄上がエレナと一緒のクラスにしろって学園長に……もっもごもごっ…ぷはっ!やめてよ、兄上!」
急に口を塞いできたアークの手をどかせて、フェリスは怒る。
「お前がやめろ!はぁ…行くぞ、エレナ」
そう言ってエレナの手を引くと、アークは教室へと向かった。