3話 可愛い弟
コンコンッ ガチャ
ダダダダ、ドンッ
「きゃっ!」
「おはよう!姉上!」
ノックに返事もしないうちから扉を開けて、エレナに飛び付いてきたのは、エレナの2歳下の弟ルーカスだった。
弟と言っても、血の繋がりはない。
私の実母は私が幼い頃に病気で亡くなって、弟は後妻である今の母がこの家に入った時の連れ子だ。
ルーカスがうちに来たのはまだほんの2歳くらいだった。初めて弟ができたのが嬉しくて、私はルーカスがこの公爵家に来た時からずっと大事に可愛いがっている。
ルーカスもよく懐いてくれて、本当の姉弟みたいだと、父母も喜んでくれていた。
「もう!びっくりするじゃない、ルーカスったら。ふふっ、可愛いからいいけど」
そう言って、優しく微笑みながら、ふわふわの金色の髪を撫でる。
「姉上大好きー」
と言って、ルーカスはさらにギュッとエレナに抱きついた。
ーーーツカツカツカ…
「…エレナ、ルーカス、おはよう。開けっ放しだから入って来ちゃったよ?今日も朝から仲が良いね」
優しい口調で微笑んでいるのに、そのサファイアブルーの目だけをどす黒くさせた第一王子のアークが部屋に入ってくると、抱きつくルーカスをグイッと掴んでエレナから離れさせた。
「ルーカス?姉弟仲が良いのはいいことだけど、もう君たちは子どもじゃない。こんなにぎゅうぎゅう抱きしめ合う歳じゃないんだよ?」
そう優しく言い聞かせるが、目の奥はやはり笑っていない。
「えー、殿下こそ、勝手に女性の部屋に入ってはいけませんよ?」
ルーカスも負けじと美しく整った顔で微笑みながら対抗すると、いつもなら淡く輝く水色の目は鈍く光っていた。
「殿下じゃなくて、兄上でいいよ?もうすぐ、私とエレナは結婚するんだから、ね?エレナ?」
勝ち誇ったようにそう言ったアークはエレナを見て、ニッコリと微笑んだ。
「ふふっ、まだ4年後ですわよ?」
そう言いながら、エレナは少し照れて俯く。それを見たルーカスは顔を歪めると、向かい合う2人の間に割って入り、
「まだ4年後ですわよ?殿下?」
と、エレナの言葉を真似して、アークにおどけて言った。
「はぁ…
はいはい、あと4年待てばいいんだろ?
8歳の時からもうずっと待ってるんだ。
今更4年くらいなんてことない。
さぁ、エレナ?遅れたら大変だ、急ごう。
じゃあルーカス、またな」
アークはそう切り返すと、ルーカスの横から素早くエレナの手を引き、部屋の外へ連れ出した。
ルーカスは暗い目で、エレナの手を引くアークを見つめていた。