1話 始まりの処刑
ピチョーン…
ピチョーン…
暗く静かな空間に、滲み出る水滴の音が響き渡る。
「…エレナ…君を連れて行きたくない…嫌だよ、どうしたら君を助けられるんだ…」
「……ぅゔっ…」
冷たいレンガの壁から出る重い鎖に手足を繋がれ、貼り付けのようにされた少女が、何か聞こえた気がして、小さく呻きながら目を覚ました。
(体中が…痛い…)
「み、…みず…」
喉がカラカラだった少女は、掠れた声でそう言ったが、視界に入るものを見る限り、飲めそうなものは何もない。どのみちあったとしても、今の状態では手にすることさえできないが。
牢の柵の外のひび割れた壁を、細い線のように伝う地下水が滴り落ちる音を聞いていると、余計に喉の渇きが増幅するようだった。
牢の中には少女一人きり。
(さっきの声は…誰…?)
周りには、他に囚人も居なければ、見張りさえいなかった。ぼろぼろになるまで鞭打たれた体は、もうあまり考える力も残っていない。それでもぼんやりする頭で、自分が何故こんなことになっているのか、なんとか思い出そうとした。
(私、…なんで…こんな目に…
……そう…だ…私…あの2人のせいで…)
カツーン、カツーン、カツーン
と、足音が暗い空間に反響し、誰かが近づいて来る。
ボロボロの布を纏ったその少女の牢の前で足音が止まると、ガチャガチャ大きな音を響かせながら鍵を開け、乱暴に扉が開かれた。
それは顰めっ面をした看守で、ズカズカと中に入ってくると、壁の鎖を解き、少女を後ろ手に縄で縛り直すと、入口に向かって、どんっ、と背中を押した。
「出ろ!」
押されてふらふらする少女は、牢を出ると、さらに後ろから押されて、無理に歩かされる。進んで行くと、光が差し、外が近づいているのがわかった。
「みんなに見られながら、死ねっ!」
看守がそう叫んで外へ少女を突き飛ばした。倒れそうになりながら、何とか踏ん張って前を見る。
そこにあった処刑台が見えた少女は、全て理解して、どうにもならないこの事実を受け止めると、その首を落とすための処刑台へ静かに上がった。
(許さない…私を嵌めた殿下と聖女…)
悲鳴にも似た民衆の歓声の中、少女に無慈悲な処刑が執行された。
それを悔しそうに睨み据えながら、静かに涙する者がいた……