表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魍魎を喰らう  作者: 濡れた大福
第一章 陰陽師の少女
11/14

第十一話 逃走

 逃げている間、少女は目覚めなかった。

 意識のない人間を二本の腕で支え続けるのは容易ではなく、何度も抱き方を変えて、上腕に感じる痛みを軽減した。

 その間も、後ろから追い付かれる想像をして恐怖を感じた。


 どこかに隠れないと、このままでは捕まってしまう、そう考えて、この近くに神社があることを思い出した。

 山の中にある、祠のような寂れた小さな神社だが、悪霊の類は近付けないはずだ。

 俺も厄介な幽霊に目を付けられたときは、神社や教会などに駆け込んでいる。そうして諦められるのを待っていれば良い。


「クソッタレぇぇぇーーー!」


 すでに腕は限界で、もう夜中と言って良い時間に全速力の山登りをする。気合の声を上げた。



 山の頂上近く、木々で隠されたような場所に神社が見えた。

 石造りの階段と同じく、石の鳥居をくぐる。

 手水舎や社務所なんてものもない、本当に小さな神社だった。

 本殿と言って良いのか、賽銭箱が設けられた建物の床に少女を横たえる。

 血が乾き始め、少女の装束は湿り、赤黒くなっていた。


「――すまんッ!」


 止血するためにも袴の襟を大きく広げる。まだ、幼さの残る少女の顔に妹の顔を重ねることで、見ず知らずの女子の肌を見る罪悪感を打ち消そうとする。

 雪のように白い肌には、似合わない大きな裂傷が三本走っていた。

 幸いにも血は自然と止まっていたらしい。


 傷に触れてしまったのか、少女のうめき声が大きくなった。

 この傷が怪異によるものなら、なんとかできる。俺の体質なら。

 その方法は身体の傷を俺の身体に移すことだ。

 怪異によって出来た傷は普通の怪我と違い、霊的な通り道が出来る。つまり、その怪異と傷に縁があるため、その縁を切って手頃な霊媒に移すことが可能になる。


 だが、躊躇する。名前も知らない人のためにやることなのか? 血は止まっているし命に別状はないだろう。

 しばらくこの神社で体を休めればいつかは目覚める、と考えた瞬間。


 空気が重くなった。

 濃密な殺意が辺りに充満する。鳥居の外に何かが蠢いていた。黒と言うよりも闇。まるで憎悪が形をなしているようだった。


「入ってこれねえだろ。お前は」


 恐怖をごまかすため、声を出す。体の震えを自覚するとなおさら体が震えてくる気がしてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ