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魍魎を喰らう  作者: 濡れた大福
第一章 陰陽師の少女
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第十話 出会い

 常闇の魔女によって茨戸が呪いにかかっていることを知ってからすでに、数週間は経っていた。

 あの後、すぐに茨戸を探し、呪いについて聞いてみたのだが、茨戸が何かを話そうとした瞬間、口がまるで糊付けされたように閉じてしまった。

 本人の意志では呪いについて話すことが出来ないようだった。

 呪いについて聞こうにも、茨戸本人からは聞けず、常闇の魔女は喋る気がなさそうだ。

 手詰まりだが、今のところ、呪いの影響と思われるようなことは、俺の前では起こっていない。


「ご迷惑をお掛けてすみません。先輩」

「気にすんな。俺なんて、いつもお前の世話になってる」


 俺は陰陽術や呪術関係の知識が浅い。だから、このクソッタレな霊媒体質を克服するのには、この協力者が不可欠だった。

 それに妹の同級生を助けるのに理由なんかいらない。

 申し訳無さそうに小さくなっている茨戸を見ると、ふと、彼女と出会ったときを思い出す。


 孤独だった霊媒体質が、怪異を祓えない陰陽師少女との出会いをもたらした日を。





 中等部3年の冬のある日だった。

 十六時にもなれば、空はもう暗くなる時期。下校するため、学校の玄関に出てきたが、昼の間に積もったのか、誰にも踏まれていない雪景色が広がっている。

 ここの地域は日本海に面しているが、そこまで豪雪と言うわけではなかった。

 最近のヒートアイランド現象のせいか、気温も高くなっており、氷点下十度を下回ることがほとんどなくなってきている。


「寒い」


 それでも寒いものは寒かった。

 口から白い息が漏れる

 ポケットに手を突っ込み、肩を耳の横まですくめて、マフラーを鼻まで覆う。

 もう中等部の卒業が数ヶ月後に迫っていた。

 だが、外部の学校へ受験する気がなかったから、このままエスカレーター式に高等部に進むことになんの疑問もなかった。

 毎日、普通に勉強して、普通に友人と駄弁って、家では妹と過ごして。この霊媒体質で見える幽霊やら以外は穏やかな日々だった。

 でも、そんな日々は仮初めだったのかもしれない。


 血まみれになった彼女。茨戸明理を初めて見たのは、登下校でいつも通り過ぎる路地裏だった。

 大正の女学生と言えば良いのか、矢絣柄の袴を着ていた少女は雪を血で赤く染めていた。

 あまりにも唐突な非日常。最初は、霊媒体質で見えた、昔の幽霊かと思った。

 だが、血を吐き、苦しそうなうめき声が聞こえたとき、彼女は生を渇望する生者なのだと確信した。

 そんな彼女に近づいて、手当をしながら救急車を呼ぼうとしたとき、何かが背後からこちらに向かってくるのが分かった。

 奴らだ。

 感覚で分かった。悪霊。悪鬼。妖怪。それらの類が持つ特有の、悪意を煮詰めに煮詰めたような憎悪。悪寒を感じる程の殺気。

 手当をする暇も無く、彼女を抱き上げて全力で逃げる。

 この少女の事情なんて知らないし、こうするのが正解なのかも分からないが、とにかく逃げないと、と思った。

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