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3、目つきの悪い男

シュルツ副長官の善人顔にやられてしまった。スキをついて監視をつけられるなんて。

「ユージー少尉だよ」

 ユージーは敬礼もせずにジロリとマリアを見た。恐ろしく無愛想な男だ。整っていない黒髪の奥から鋭い目がのぞいている。この男が自分を暗殺するための刺客だとしても驚きはしない。そんなことは何度もあった。すでに。

「いくぶん偏屈だがね、腕は確かだよ」

(そりゃ、仕事には忠実でしょうよ)

マリアは心の中でため息をついた。あきらめた。もう戦うしかない。

「お心づかい、感謝します」


 そういう段取りになっていたのだろう部屋の外にはもうぞろぞろといたSPたちも外務大臣もおらず、本部ビルのロビーに出るまでユージーがマリアの後ろをついてきた。一言も口をきかない。少しはこちらの気を許させようという努力をしないと監視の役目ができないんじゃないだろうかと心配になってくるほどだ。

 マリアから話しかけてやる筋合いはないので、二人ともダンマリのままエレベーターにのり、ダンマリのまま廊下を歩き、ダンマリのままロビーへの正面階段を降りたら、そこにドリーが待っていた。

 ドリーはオレンジ色の髪と茶色の瞳を持った四十がらみの女性である。軍人なのだが、かつてマリアの乳母であった。料理はプロ級、ブラスターの腕も一流でマリアの留学中の家政婦件ボディガードになる。マリアが信用している数少ない人間の中の一人だった。

 ドリーは階段から降りてくるマリアの後ろのユージーをじっと見つめた。そしてすぐに事情を了解したようで、マリアに向かって肩をすくめた。大きな肩だ。身長はマリアと同じくらいだが、横幅は三倍ある。

「おーや、ずいぶん大きなプレゼントをもらっちまいましたね」

マリアも肩をすくめた。

「ちょっとぼうや」ドリーは降りてきたユージーの鼻先に指先をつきつけた。

「あんたね、どうしてついてきたんだい。マリア様にさ」

「・・・護衛に」

ユージーはぼそりと言った。ドリーは大げさに驚いて見せた。

「へぇっ! 護衛! 言ったねぼうや。あんたね、言っておくけれどこの私はもう二十年以上も軍隊でブラスターを扱ってきたんだよ。このマリア様の護衛と言えばこの私、ドリーさ。この平和だれした地球じゃ分からないような危険をくぐってきたんだ。この私がついているってのに今更あんたのような青二才に何ができるつもりだい! 悪いことは言わないよ。今すぐあんたの上官のところに行って、僕には無理ですって言っておいで!」

マリアは腹の中で拍手喝采した。

 ユージーはゆっくりとあたりを見回した。ロビーに若干の人数が動いているが、こちらに気づいている様子はない。それを確認すると、マリアに向かって、言った。

「あなたは考えが足りない」

「「・・・・・!」」

マリアとドリーは、そろって絶句した。たかが軍の少尉ふぜいが、マリアに向かって直言するとは。

「惑星ホワイツはエネルギー資源ゾイサイトの塊です」

マリアはカッときた。

「あら、教えてくれてありがとう。知らなかったわ。じゃ、あなた知ってる? 採出したゾイサイトは大部分を地球に送らなければならなくってホワイツでは夜間に灯火規制をしてるのよ。なのに地球では平気で昼間から灯りをつけているのね」

マリアはタフベルトの部屋のシャンデリアに憎悪すら感じていたのだ。しかしユージーはマリアの言葉は無かったかのように続けた。

「そういうホワイツの次期治星官が地球に来ているわけです。ゾイサイトは宇宙船を動かす燃料にもなる。内乱をおこしたがっているテログループやら独立をねらうあっちこっちの植民星の連中がみんなあなたをねらっているんです。あなたを人質にゾイサイトを手にいれれば、宇宙戦争でさえおこせますからね。実際ここ一月ばかりテログループの動きがおかしい。それなのに家政婦一人連れてきただけという判断の甘さにはあきれかえりますね。留学制度に反抗しているつもりかもしれませんが、意地より命でしょうが。チクバ閣下は名君だそうだが、よくもこんな浅はかな行動を許したものだ」

マリアは、あまりのことにぼう然としていた。自分はいやしくも次期治星官、十九とは言えすでに公務について星を動かしている身分だ。その自分に向かって、地球では少尉ふぜいが意見できると思われているのだろうか。

(原始人に火の使い方を教えている現代人のつもりなのかしら)マリアは怒るよりも悲しくなってしまった。(かわいそうなホワイツ。絶対に、私の代で、独立を勝ち取らなくちゃ)

 しかしとりあえずこの無礼な男は追い払おう。クビにするいい口実ができた、と口を開きかけた時、横でふきだす笑い声が聞こえた。

「あっはっはっ! よく言った! えらいよぼうや!」

驚いたことに、ドリーが大喜びでこのでかい男の背中をばっしんばっしん叩いたのだ。

「ちょ、ちょっとドリー・・・」

「いいじゃありませんかマリア様! こういうでかい口たたく役立たずは私ゃ結構好きですよ。おとぼけててね!」

そして目に笑みを含んだまま、ユージーの胸をこぶしでたたいた。

「いいかい、ぼうや。ぼうやの言ってるようなことはマリア様は先刻ご承知なんだがね、そういう厳しーい状況でも、ぼうやが来てくれたからにはもう大丈夫ってわけなんだね」

「・・・・・」

ユージーは仏頂面で何も言わない。

「そこまで言うからには地球本部ももっと役に立ちそうな奴を大勢つけてくれてもよさそうなもんじゃないのかい? それをこんなうらなりへちま一人つけて、さあ護衛をつけてあげましたよって? ふざけちゃいけないよ」

マリアは再び心の中で拍手喝采した。

「とにかく言ったからにはぼうやにはマリア様の為に死んでもらうよ。ついてきな」

ドリーはマリアも待たずにのしのしと歩き出した。マリアもしかたがないのでドリーに続いた。背後についてくるこのでかい男を、できるだけ早く追い払ってやろうと心に決めながら。

 

 ユージーは先に立って外に出ると、襟元のボタンにふれた。リニア・カーがすべりこんでくる。コンピューター制御の無人車だが、ガラスもボディも防熱線、かなりの高級車だということが慣れているマリアには見て分かる。

 マリアたちを後部席に乗せたあと、ユージー自身は前座席に乗って、コンピューターに行き先を打ち込んだ。車は音も無く走り出す。 

 ユージーがぼそりと言った。

「この車はシュルツ次席の個人的好意で、自由に使ってほしいそうです」

「なんだって!」

ドリーは目をむいた。

「個人的好意ですむ代物じゃないよこの車は。まさかその次席、親切な顔してマリア様を口説くつもりじゃないだろうね!」

「ドリーッ・・・!」

あわてたのはマリアの方だ。

「口説くって私が口説かれたからどうなるっていうのよ!」

「だってありえることですよ。気をひいておいて、ホワイツへの税を少なくしてやるから今夜一晩どうだ? おまえの体一つで星民の暮らしが楽になるんだ、これも治星官の勤めじゃないかい。なぁんてことを言うつもりなんだよ。なんてこった! まったく地球の人間は恐ろしいケダモノだよ!」

「妄想ストップ!」

あわててユージーの方を見ると、ユージーは後ろの話など聞いていないのか、鋭い目付きで左右をみまわしている。

(本気で護衛のふりをするつもり?)マリアは大きくため息をついてシートに身を預けた。


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