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21 お年寄りは大切に

  「アーチボルト? 私あなたを呼んだかしら」

「く、く、く、アーチボルトか・・・。君はまだそう信じているのだね。グリングレー、私の名前を言ってやれ」

グレングレーはおだやかにほほえんだ。

「マリーアネット閣下、こちらはノアタック・A・キャラハン、評議会首席閣下です」

マリアの頭脳は、理解しようという作業を停止した。

ただ、負けたのだということは分かった。

これからもノアタックの独裁政権は続く。続いてしまう。

「驚いたろう? どうだ二十代にしか見えないだろうが。この私が老醜をさらすなどあってはならないことだからねぇ」

 整形手術! 

ノアタックが病院にいて人前に姿をあらわさないのはこのためだったのか。

「ただし年に一度若返りの手術を行い毎日ホルモンの投与だのせねばならん。わずらわしいといったらないね。その上、だからといって寿命が伸びるわけでもない」

ノアタックの目に狂喜が走った。

「ありがとうマリーアネット! 君のおかげで長年の思いがかないそうだよ! よくぞデモノバイツを連れてきてくれた! その上タフベルトの下司を掃除してくれるとは、君はいい人だ」

「・・・グリングレーがスパイだったというわけ。やられたわ。私も悪知恵じゃ自信あったんだけど、悪には悪がいるものね」

「おほめにあずかりどうも」

ノアタックは、け、け、け、と笑った。笑い方は確かに老人だ。

「で、どうだね。その功績に免じて、君を私の妻にしてあげよう。すばらしいじゃないか。どうだね?」

「絶対いや」

マリアは即答した。妻になったところで、このサディストはホワイツの民に慈悲を与えようとはしないだろう。

「死んでもいや」

ノアタックの目に不快の色が走り、がつっ! とマリアを殴りつけた。マリアはゆったりと微笑んでやった。

「おいたはいけませんよ。おじいちゃま」

「・・・・! グリングレー! この女を外にひきずりだせ!」

「どうなさるのです?」

「デモノバイツを捕らえる餌にする。まだ奴は暴れているのか。よし、玄関の前の広場に連れていけ。噴水の前の広場だ」

グリングレーはうなずいて、兵士にあごで合図すると、兵士二人が走ってきてマリアの両手をとった。もう一人が背後からマリアに銃をむけている。

 玄関までの道程は、血と屍の山だった。入り込んでいた軍人の、おそらく半数がグリングレーの部下でもう半数がタフベルトの部下だったのだろう。タフベルトの部下がことごとく殺されていたのだ。

 残虐で非道。それがノアタックのやりかただ。

 マリアを本部ビルの前にさらすと、ノアタックは拡声器を使ってどなった。

 「デモノバイツ! マリーアネット・ホワイツはここにいるぞ!」

獅子は黄金のたてがみをふりまわし、今最後の戦車をふみつぶしたところだったが、マリアの名前に反応し、本部ビルへ目をやった。  

 ひげが震えた。

 なんでアーチボルトに捕まってるんだ? 何の為の人質だ? クーデターは失敗していると分からないのか?

アーチボルト=ノアタックが不老不死の研究の為に自分を欲しがっているのだと知らないユージーは状況が分からずに動きを止めた。

「逃げてデモノバイツ! 逃げてよ!」

マリアは声の限りに叫んだ。ノアタックはデモノバイツを解剖するつもりだ。ノアタックの独裁政治が永久に続くことになる。宇宙がノアタックの奴隷になる。それ以前に、でもノバイツがノアタックに捕らえられ、蹂躙じゅうりんされるなんて、絶対に許されない。

「マリーアネットを返してやるから、こっちに来い!」

ノアタックはさらに叫んだ。

 ユージーは首をひねった。俺を捕らえようというんだろうな。しかしあれっぽちの兵隊でどうしようってんだ? まぁ、近寄れればマリアを助けるのが楽になるから助かるが。

 ユージーはのしりと足をふみだした。

「だめよ! きっと汚い罠があるのよ!」

叫ぶマリアに、ノアタックは、舌先でチッと音をたてた。そして、ナイフを逆手に持つと、鉄の柄の頭で、マリアの頭を殴ったのだ。

「うっ!」

マリアは思わず首を下げた。額に血が一筋流れる。

 ユージーの怒りは一気に燃え上がった。


  この野郎! 殺してやる!


 ユージーはひとっとびした。ほんとうに、ひとっとび。それでマリアたちの前まで来てしまったのだ。ビルとほぼ同じ大きさの獅子が、一声吠えた。兵士たちの顔に恐怖がうかび、数人は逃げるためにあとずさった。

 しかし、ノアタックの唇に冷たい笑いが浮かんだ。

 次の瞬間、ユージーの体全体に火花が散った。

「うわあああああああっ!」

獅子の毛の先から、すさまじい放電現象がおこっている。何かが、何かがおこったのだ。

 マリアはゾッとして、はるか上空をふりあおいだ。

 雷が落ちている。雷が、獅子を直撃していた。本部ビルの上から。

「ふふふっ」

ノアタックは笑い、目尻にしわがよった。

「雷ですよ。雷を発生させてデモノバイツに向かって落としたんです。デモノバイツは雷に弱くて、変身していられなくなるんですよ」

ユージーは耐えようとした。変身が解けようとする自分の体と、必死に戦った。のたうつ。

 それは断末魔の苦しみに見えた。

 獅子は吠え、もがき、うめき、倒れ、また起き上がろうとし、また倒れた。体が縮んでゆく。コンクリートは獅子の爪にけずられて幾重にも亀裂が入った。

「やめて!」

マリアの悲鳴は、しかし何の役にも立たない。

「こうして、不定形のゲル状態になる。つまり大きなアメーバのようなものですよ。それも恐ろしく細胞のつまったアメーバ。それがデモノバイツの正体です」

兵士たちが五台の四角く黒光りする箱を持って取り囲む。

「フリーザーですよ。零下三十度の冷気をふきかけます。殺すわけにはいかないのでね。凍らせて生け捕りにするんですよ。すばらしい生物だ。凍っても死にません」

 獅子は最後のあがきを見せていた。縮む体と戦い、抗っていた。しかし、それも時間の問題だった。獅子はもう獅子ではなかった。丸い粘土のような、透明な固まりになった。

「そろそろ正体をあらわしますよ。ふふふふ」

が、ノアタックは眉をひそめた。

 奇妙だ。

 粘土が雷をあびながら再び何かの形をとってゆく。まるで、人間のような・・・。


 人間だった。


 青い髪の毛が光る。一人の男が、腕とひざを地面について、うずくまっているのだった。腕から背中にかけて流れる美しい筋肉は、まぎれもなく人間の男のものだ。

 そしてマリアも気がついた。


 それがユージーそっくりだということに。


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