12 四百年前
俺はな、ホワイツへの最初の調査団の一員だったんだ。
ホワイツには知的生命体はいないと思われていた。だが違った。
知的生命体はいたんだ。それも完全な生命体が。
俺たちは人造物が、文明が無いことでホワイツには人類がいないと思い込んでしまったんだ。
ホワイツは地球に比べると恒星から遠く、半分が雪におおわれていた。そして調査船がホワイツについてすぐ、奇妙な生き物が襲ってきたんだ。
その生き物の形は次々に変化した。一瞬アメーバのようにもなり、花のようにもなり、鳥のようにもなり、熊のようにもなった。
いくら撃っても、あいた穴はすぐにふさがった。恐ろしい力だった。木々をなぎ倒し、氷の壁を割りながらすすんできた。
俺たちはこの生き物を、白い星の悪魔、デモノバイツと名づけ、もてるだけの弾丸と火薬で追い払った。意外とおとなしく連中はいなくなったよ。しかしこのデモノバイツがいる限りは人類が移住することは不可能だ。
俺たちはデモノバイツを倒すことを使命だと考えた。
そして、調査の結果、デモノバイツは雷には弱いとわかった。アイランズにはひんぱんに落雷がおこっていたが、デモノバイツは雷の落ちやすい体質だったんだな。雷にあたると変身していられずに、不定形のアメーバ状になって岩石の下なんかに隠れて動けなくなるんだ。そこを襲えばいかにデモノバイツだって一発だ。
俺は毎日デモノバイツを殺してまわった。だけどある時、俺は一人で行動していてクレパスに落ちこんじまった。
体の骨が折れる音を聞いたよ。血が流れて出ていって、死ぬのがわかった。
その時頭の中に声が聞こえた。声じゃ無いな。「意味」だ。ただの「意味」だった。
『生きていたいか』
俺は死にたくなかったさ。
『それが永遠でも生きたいか』
と「意味」が言った。
『死にたくない』
と俺は思った。
『では助けてやる』
と「意味」が言った。
で、俺はその時、最後の力で目をあけて見たんだ。雪で凍る岩棚に何か光っていた。
デモノバイツだった。
不定形のデモノバイツが一体、岩だなにへばりついていた。
俺はその時初めて、化け物と思っていたデモノバイツが知的生命体で、この星の人類だったことを知ったんだ。
デモノバイツには雷以外の弱点はなかった。どんな環境でも生きていられたし、天敵もいなかった。だから文明を作る必要なんかなかったんだ。そして、やってきた俺たちを歓迎するために近づいてきただけだったんだ。
俺はホワイツの人類を殺戮してしまったんだ。
連中あまりにも無敵すぎて戦闘心ってものがなかったから、俺たちを倒そうとは思わなかったんだ。
気を失って、もう一度目覚めたとき、俺の体には傷一つなくなっていた。クレパスをのぼろうとして、手がどこまでも伸びるのがわかった。俺はデモノバイツになっていた。
デモノバイツは俺を助けてくれたんだ。デモノバイツは、自分たちを殺しまくったこの俺でも、死にそうな者は助けようとするそういう生き物だったんだ。
しかしデモノバイツになってしまった俺は、二度と宇宙船には戻らなかった。髪の毛が青くなっていて、一目で体の変化がわかってしまうしな。それに、つぐないのためにも俺はデモノバイツとして生きようと思った。
それから本格的な移住が始まってデモノバイツは狩られていった。たぶん俺が最後の一体だろう。
しばらくの重たい沈黙のあと、ドリーが言った。
「マリア様には本当のことを言っちまった方がいいんじゃないのかい。デモノバイツだってことを隠してちゃ護衛もしにくいだろう」
「そりゃ人間のままじゃ守れない時には変身するさ。しかし、普段は人間でいたいね」
「なぜ?」
「・・・さっきあんたが言ったろう。マリアが、あんたがデモノバイツじゃないかと怖れてたって。理由はそれさ。マリアは、デモノバイツを怖れてる。はつかネズミになって助けに行った時も俺から逃げたからな」
「あたりまえだよ」
「マリアは立場のせいか簡単に人を信用しないようだ。それでもデモノバイツなんていう化け物より人間の方を信用するだろう」
「・・・・・」
「無事にホワイツに戻った時に、チクバから紹介してもらいたいんだ。俺の夢なんだ。チクバが言ったんだ。ホワイツ家の人間は、これからずっと未来にかけて、俺の友達になると。シュルツもそう言ってくれたが、シュルツは奥さんと息子を事故でなくしてしまった。俺は人間だよ、ドリーさん。一人は嫌だ。俺を受け入れてくれる場所がほしいんだ。・・・この一年、約束どおりマリアを守りきって俺はホワイツへ行く。チクバの家では、ホワイツの厳しい冬でも暖炉が暖かく燃えていて、そこで俺は、チクバにむかえられ、チクバが俺を、マリアに紹介するんだ。友達のユージーだ。おまえの友達でもあるんだよってな」
「・・・・・」
「女々しいか?」
「そ、そんなことあるもんか」
そんな日は決して来ない。チクバ様は亡くなったのだ。
「あ・・・そういえばあのレーコとかいうアンンドロイドを手に入れたいって言っていたそうだけど、あれも・・・」
「そう。俺はスターダストに隠れ家を持っているんだが、想像してみてくれ。一本の花すらないスターダストの上で、毎日真っ暗な空と、同じ星だけを見てたった一人で暮らす生活を。レーコは人間よりずっと長生きだ。俺と同じ生を一緒に生きてくれるだろう。その間俺は寂しくないよ」
「・・・・・」
ドリーは宇宙のどこかにある星くずの上で、たった一人暮らす肌寒さを感じた。