9.てーぶるとーくガールズ
「まずは自己紹介しましょうか。私はハルカ、カワニシハルカ。キミも同じだと思うけど、召喚された日本人だよ」
眼鏡にロングヘアのお嬢様のようなお姉さん、ハルカさんから促され、自己紹介をすることとなった。
「あ、どうも、虹原朔也です」
俺が名乗ると、3人のうち俺の年齢に近いような吊り目にポニーテールの女の子がすごくうれしそうに名前を教えてくれる。
「おお、イケメン!! アタシはフミヤマツムギ、ツムギと呼んでね!! そしてこの子が」
「……ミサキ、マナエ……ミサキと呼んで」
一方で、最後の一人、この子は年下かなー? 下手したら小学生かも。
「同郷の人が居てうれしいよ。ハルカさん、ツムギちゃん、マナちゃん、よろしくね」
マナエちゃん、略してマナちゃんだけ俺の挨拶が気に入らないのかちょっとむっとしたようだが、のこりの2人は普通に笑顔で「よろしく」と返答してくれたので、ファーストコンタクトは間違ってなかっただろう、うん。
「3人は召喚されてから知り合ったの?」
おそらくハルカさんは大学生か就職して間もない若手、ツムギちゃんが高校生、マナちゃんが小学生かな?
苗字が違うため召還前の接点があるとしても分からない。と思っていたら、ハルカさんから衝撃の発言が飛んできた。
「私たちは召還前からの知り合いよ。召還時は3人を含めた複数名で遊んでたわ」
……一体何をやっていたのだろうか……そうだ
「何かのゲーム大会とかかな?」
俺も慎吾も直前に遊んでいたゲームのステータスチートで召喚されたのだ。だから、3人も、いや、その周囲の人たちもまとめて何かのゲームをやってたと考えるのが自然だろう。
「イケメンくん、カンが良いね!! アタシたちはテーブルトークRPGをやってたんだよ」
テーブルトークRPG、名前だけなら聞いたことがある。
「SAN値とかいうやですか? 名前だけなら聞いたことありますが」
「それそれ!! まあ、それだけじゃないけどね」
「へー、でも、ツムギちゃんみたいな子もハマるようなものなのか」
「面白いよ!! 元の世界に戻ったら一緒にやろうよ!!」
「あはは、じゃあ、一緒にやろうね」
このままだとゲームの話で時間が終わってしまう。何とかしないと。
「ところでサクヤくん、提案なのだけど、しばらく私たちと一緒に冒険しない? とりあえず、サクヤくんが文字を読めるようになってクエストが選べるようになるまでの間でどう?」
ハルカさんが俺にそう提案してくれた。それは俺にとっても渡りに船である。
「いいんですか!? ぜひ、お願いします!!」
二つ返事で了承する。ハルカさんもツムギちゃんもニコニコとして迎えてくれる。よし、このまま俺は当面の生活費を!!
「……ステータス、教えて?」
マナちゃんがボソッとそう呟く。途端に全員の視線がマナちゃんに向く。
「能力がチートなのは知ってるけど……仲間なら、その能力を把握しておきたい」
どうしよう、正論過ぎる。
「そうね、召還直後に国王から計測された時の情報しかないけれども……」
と、ハルカさんが言いながら、紙にステータスを書き上げる。
「あ、アタシもハルカさんの横に横に書いておこう」
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ハルカ/ツムギ
犯罪者/自衛官
STR:18/ 18
CON:18/ 18
POW:18/ 18
DEX:18/ 18
APP:18/ 18
SIZ: 9/ 12
INT:18/ 18
EDU:21/ 21
********
……え? ハルカさん、犯罪者なの……? ツムギちゃんが自衛官なのも驚きなんだけど、犯罪者の方がインパクトありすぎ。
俺は出来るだけ悟られないように、ハルカさんから距離を取る……
「あ!! ここの犯罪者って、ゲームの設定だからね! 勘違いしないでよ!?」
分かってても自称犯罪者は怖い……
「えっと、つまり、そのテーブルトークRPGのステータスがMAXなのね……このSIZってのが数値が違うのは?」
「うん、これは体の大きさの事なんだけどね、一律に高いから良い、というわけでもないんだよ。大きいと狭い道を通れなかったりするんだよ。小さすぎると力が弱くなるから、どっちがいいとも言えないけどね」
つまり、強さをチートの基準にするなら、数値がデカいから良い、と一律には言えないのか。
「そういえば、マナちゃんのステータスってどうなってるの?」
ハルカさんとツムギさんが同じステータスを持っているわけだけど、マナちゃんは書かなかったな……
「私は、これ」
マナちゃんが別で書き出したステータスを見せてくれた、どれどれ。
********
マナエ
わんにゃん軍
体力:10
********
……なあにこれぇ……
「マナエちゃんは隣で別の対戦型のゲームやってたからねー」
困惑する俺を見て、ツムギちゃんが大爆笑する。
「ステータスで表示されない項目が多いゲームなのよね、それでも普通に戦闘をするゲームだから、戦いをする場合、私やツムギちゃんよりも強いですよ」
ほー、俺はSAN値とかいうのしか聞いたこと無いけど、いろんな種類のものがあるんだな。
「……サクヤも、見せる」
マナちゃんからそう言われ、俺は自分のステータスを書き出し3人に見せる。
「戦闘能力としては未知数な数値ですね……これは何のゲームの数値なんですか?」
「あー、これはですね……」
……俺は、女の子3人に対して、召喚前に恋愛ゲームをやっていたと暴露しなきゃならないのか。……いや、命を預ける事になる相手に恥ずかしいからと誤魔化すわけにもいかない。
「これは……その、恋愛シミュレーションゲームってやつで……」
若干ツムギちゃんが引いてる気がする……
「もしかして……元はキモオタなのにステータスの影響でイケメンになっただけ?」
ちょ、そんな引かれ方されるとは思わなかったが……
「それはない、遠くからしか見た事無いけど、この人、同じ姿」
ああ、マナちゃんからも避けられ……あれ? 擁護された?
マナちゃんは先程からあまり感情を変えなかったが、その時は俺に微笑みかけたように見えた。
「あれ?マナエちゃん、イケメンくん(仮)と知り合いだったの?」
マナちゃんは頭を横に振り
「知り合いではない、だけど、全国大会をTVで見た」
と応えるのだった。
「え? TV? イケメンくんって、もしかして、有名人!? いやー、私は最初からすごい人だと思ってたよ!!」
クルックルッと手のひらを返し続けるツムギちゃん、いっそ清々しくて好き。
「あの後召還されてしまってたけど……よかった、もう泣いてない」
全国大会で泣いた事、それは……俺の最後の登板の時だろう……
それは、俺の野球人生が終わった瞬間である、あの時はテレビも試合を映していたのを忘れて泣いてしまったものだ。
そんな俺を気にかけてくれていた人がこんなところにも居た事がとても嬉しいとは思わなかった。