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39.【Sideマナエ】<回想>お兄ちゃん

 私がまだとても幼い頃、5歳年上のお兄ちゃんは野球少年だった。


 そして、とても野球が上手かったらしい。時々、小学生の世界大会の代表選手として海外に行くこともあったようだ。


 野球をやっているときのお兄ちゃんはよく言えば冷静、悪く言えば淡々とした表情で、ちょっと怖かったことを覚えている。


 それでも家で私と遊んでくれる時はいつも笑顔で、お兄ちゃんが私は大好きだった。


 そんなお兄ちゃんがある日、確か世界大会だったと思うけれども、帰って来てから人が変わったようになった。


「すごいよ!! ニジハラくんはすごい!!」


 最初、ニジハラくんって誰かと思った。


 そして、そのニジハラくんが「ニジハラサクヤ」という名前だと知り、女にお兄ちゃんを取られたのかと思って嫉妬した事も覚えている。


 だけれども、そのニジハラくんがお兄ちゃんをいい方向に変えてくれた事にも私は気が付いてしまった。


 お兄ちゃんが野球をやってる姿。前は怖さすら感じたその姿が、ニジハラくんと会ってからはどこかしら楽しそうで、そんなお兄ちゃんが楽しそうにやっている野球に私も興味を持つようになったほどだ。


 そんな中お兄ちゃんは中学生になり、部活で朝早くから夜遅くまで野球漬けの毎日を送るようになった。それでも、家に居る時は笑顔で私と遊んでくれた。


 それだけ充実した野球生活だったのだろう。前のお兄ちゃんのままだったら多分、私と笑顔で遊んでくれなかったかもしれない。


 そして、こんな毎日が続くと……そう思っていた。


 だけれどもある日を境に、お兄ちゃんの帰る場所は、家から病院になった。



 若年性の白血病、それがお兄ちゃんのかかった病気だという事を私が聞いた時は、お兄ちゃんはもう、この世に居なくなっていた。


 ある日の朝の部活の途中で倒れ、運び込まれた病院で白血病が判明したらしい。


――余命数か月、1年は持たないだろう、と言われ、お父さんもお母さんも悲しんでいたのを覚えている。


 そんな中でも私はお兄ちゃんがそんな大変な事になっているとは知らず、お兄ちゃんの病室によく遊びに行ったものだ。


 いやむしろ、あの頃は「お兄ちゃんが野球より私と遊ぶ事を選んでくれた」くらいの感覚だったかもしれない。


 人が亡くなるという事を正確に認識してはいない年齢とは言え、今思うとお兄ちゃんに失礼な事を考えていたものだ。



「おにーちゃん!! あそぼー!!」


「おお、マナエ!! おいでおいで!!」


 お兄ちゃんは病室のベッドに座ったまま、私においでおいでと手招きをする。


 私はいつもの通り、お兄ちゃんの横に椅子を持ってきて、並んで座ってテレビを見る。


 お兄ちゃんはいつも野球を見ているのだ。それもお兄ちゃんと同じ年くらいの男の子が野球をやっている大会を繰り返し見ていた。


 最初は「お兄ちゃんの出てない野球なんて見る価値無い」と思っていたけれど、お兄ちゃんがあまりに楽しそうに見ているので、お兄ちゃんに色々と聞きながら私も見るようになったのだ。


 そしてその時に、私は初めてその人の顔を見た。


「あ、ほら、このピッチャー、これがニジハラくんだよ!!」


 ニジハラ、お兄ちゃんが何度も名前を呼ぶからいい加減覚えてしまった。私はそのニジハラくんの投球を見る。


「全然すごくない!! お兄ちゃんの投げるボールの方がすごい!!」


 実際、お兄ちゃんが野球をやってた時は相手のバッターはボールをバットにすら当てられなかったのに、このニジハラくんはボールをバットで打たれてる。


 他のピッチャーよりは凄いのは分かるけど、お兄ちゃんの方が何倍もすごいもんね!!


 お兄ちゃんはそんな私を見て、ちょっと嬉しそうに笑った後


「ニジハラくんはわざとバットに当てさせてるんだよ。ほら、ヒット1本も打たれてない」


 と解説をしてくれるのだった。そう言われても良く分からないけど、お兄ちゃんが嬉しそうなので私は頷いておく。


「まあ、いつか分かると思うよ……ああ、代打で交代になっちゃったかー」


 その後の試合は一方的だった。ニジハラくんを下げたチームは一方的に点数を取られ、そのまま敗退。それでもお兄ちゃんは嬉しそうだった。


「ニジハラくん、負けて泣いてる。泣いてるけど笑ってる、へんなのー」


「そうだね、負けて泣いてるけど、楽しかったんだよ。だから悔しいけど笑顔なんだって」


 悔しいけど笑顔、よくわからない。


 だけれども、楽しんで野球をやってる人だってのは分かった。そして、そんなニジハラくんを見ているお兄ちゃんも笑顔だった。だからお兄ちゃんとよくニジハラくんが野球をやってるテレビを見るようになった。


 そしてそのうち、私自身がニジハラくんを応援したくなったのだった。



「ニジハラくんは……活躍してたかい……?」


 お兄ちゃんが倒れて3年とちょっと、余命として告げられた期間はとうに超えたものの、お兄ちゃんはほとんど寝たきりとなり、身体を起こして好きだった野球を見る体力すら無くなっていた。


「うん、昨日は2回を投げてノーヒットだったよ」


「そうか……出来れば……もう一度ニジハラくんと戦いたかったな」


 お兄ちゃんは涙を流す、だけれどもその顔は笑顔だった。


「……お兄ちゃん、悲しいの?」


 そういえばお兄ちゃんはニジハラくんと知り合ってから笑顔を絶やす事が無かったように思える。


「ニジハラくんとの約束なんだ、もし負けても、精いっぱい頑張って楽しんだのなら笑顔で居るって。笑顔で居れば、その負けは負けじゃないって」


 滅茶苦茶な理屈だと思う。それでも、お兄ちゃんはそれを信じて実践しているのだ。


「俺は幸せ者だよ。可愛い妹が居て、優しい両親に育てられて、ニジハラくんという最高の友が居て……笑顔じゃなくなる理由が無いよ」


 数日後、お兄ちゃんは息を引き取った。


 その最後の顔は、親友であるニジハラくんと約束した通りの笑顔だった。



 だから私は、お兄ちゃんを最後まで笑顔で居させてくれたサクヤさんを助けたい。私達兄妹を繋いでくれたサクヤさんの、その笑顔を曇らせたくない。


*****************

マナエの【秘密】


 マナエには死別した兄がおり、またその兄はサクヤのライバルであった。マナエは病床の兄の励みとなってくれ、兄を最後まで笑顔にしてくれたサクヤに恩を感じている。

 そして、マナエは兄と一緒にサクヤの試合を何度も見ているうち、サクヤを男性として意識し、好意を寄せるようになった。

 マナエの【本当の使命】はサクヤに愛情の感情を持ち、サクヤの望みをかなえる事だ。

 また、マナエは好きなタイミングでサクヤに対し愛情の感情を持つことが出来る。

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