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38.説得という言霊術

 俺達の行き先に立ち塞がるがごとく、ハルカさんとツムギちゃんが対峙する。


 そしてそんなハルカさんとツムギちゃんから俺と王女を守るように、マナちゃんが2人に敵対するような姿勢で立つ。


 同じパーティーメンバー同士、そして、元々召喚される前からの知り合いだった3人が何故敵対しているのか。


「私の邪魔をするなら誰だろうと容赦しない……ハルカさん、ツムギさん、そこをどいて!」


 マナちゃんがいつもの緩い空気ではなく、わずかに苛立ちや焦り、そして怒りを含んだ感情を乗せてハルカさんとツムギちゃんを威嚇する。


 だが、ハルカさんとツムギちゃんもその迫力にたじろぎつつも、一歩も引こうとしない。


「マナエちゃん、分かってるでしょ!? 私達も貴方を困らせようとしてる訳じゃないって!!」


 きっとハルカさんとツムギちゃんにも事情があるんだろう。それにどちらかというと、俺としても実はハルカさんたちに賛成である。


 これは俺の戦いである、だからこそ、他の無関係な人を巻き込みたくはない。


 特に、まだ幼いマナちゃんを巻き込むのは俺としても避けたい。


 え? 王女? あいつは知らん。勝手についてきてるだけだ。


「それでも、私は止まる気はない!! 止めたいなら、力づくでとめてみせて!!」


 完全にハルカさん達の言葉を聞く気が無いと宣言され、ハルカさんとツムギちゃんはうつむき、悲しそうな顔をする。


 止められないと悟ったのか……? だが次の瞬間、ハルカさんとツムギちゃんは顔を上げる。その表情は覚悟を決め……マナちゃんと対決も辞さない覚悟が浮かんでいるかのようだ。


 まずはツムギちゃんが一歩前に出る。


「……わかった。でも私はマナエちゃんに攻撃は出来ない。だから……私は私の出来る事をする!! お願い、マナエちゃんを危険な目に逢わせたくないの!! <説得>!!」


 説得、それはテーブルトークRPGの登場人物を説得し、登場キャラクターにプレイヤーの望む行動をしてもらうための行為判定に使われる能力だそうだ。


 説得の技能値が高い程、人を説得するのが上手いという事になる。


 だが、これはユートさんの理屈で言うなら「マナちゃんが説得という攻撃を受けた」事になるため、マナちゃん側としてはそれを通常の攻撃として処理してしまえば意味が無いのだ。


言霊術(ことだまじゅつ)による攻撃、回避をすれば問題ない」


 とマナちゃんは呟く。余裕の表情だ。だがツムギちゃんはそれでもなお、不敵に笑う。


「これだけは使いたくなかったけど、仕方ない。確かにマナエちゃんだけがそのゲームの能力を持ってるけどね、アタシもそのゲームは知り尽くしてるのよ!!」


 と宣言すると、懐から1枚のカードを取り出す。


「ユートさんから買ったこのクリティカルカードを使う!! カードの効果として1度だけ、相手への攻撃をクリティカルに変更し、かつ相手のゲームシステムの範囲内で好きな効果を付与する!! クリティカル効果は私のテーブルトークRPGの効果の回避不可!! 効果付与は変調、サクヤくんへの感情の忘却!!」


「!!」


 先ほどまでと違い、明らかにマナちゃんが動揺している……


「ね、ねぇ……この子たち、何やってるの?」


 王女が俺に聞いてくるが知らん、俺もわからん。


「……回避不可、これは私のゲームシステムならサイコロ2個振って両方とも6を出せば避けられる……。だけれども変調の忘却これは……私がサクヤさんの事を忘れてしまい、赤の他人になってしまうって事。ダメージじゃないから、防御は意味が無い」


 マナちゃんが説明をしてくれたので俺も理解が出来たが、赤の他人になるという発言に背筋が凍る。


 それすなわち、人の感情さえもゲームシステムで動かせるという事だ……俺の見た夢がそこで実体化しているような錯覚を受け、俺の背筋を冷たい物が伝う。


「さあマナちゃん!! 諦めて私たちと一緒に帰ろう!!」


「っ!! <完全成功>!! 回避判定を完全成功する!!」


 マナちゃんは咄嗟に回避を完全成功能力で成功させたようだ。だが……


「まあそうくるよね。でも同じ技は短時間で繰り返しては使えない、だから」


 俺は気が付いてしまった。ツムギちゃんを上手くこなしたとしても、その後に控えるのは……


「<説得>!! さらにクリティカルカードを使用!! 説得攻撃に付与する効果はツムギちゃんと一緒!! さあ、成功率が低い状態で避けられるなら避けてみて!!」


 ハルカさんが同じ攻撃をしてくると言う訳だ。


「!! ……回避判定前に<回想>を使う!! 私が抱えてる【秘密】を暴露する事で【本当の使命】を達成するための底力を出す効果!! 私はこの効果で回避成功率を上昇させる!!」


 マナちゃんがそう宣言すると、そのまま俺の顔を見る。その表情は今までの表情が殆ど動かない中にかすかに浮かべる表情ではなく、満面の微笑みだった。


 そしてマナちゃんは語り出す。


「サクヤさん、私を、そして私のお兄ちゃんを救ってくれてありがとう」

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