37.Wサクヤ共同戦線
俺は夢を見ていた。
魔王と呼ばれる絶対的な相手を前に、この世界に来てから与えられた能力やステータスを全て奪われ、圧倒的な力でねじ伏せられる夢を。
カンストしたステータスも好感度が上がりやすい電話スキルも何もかも奪われるのだが、だがそんなものを怖がっている訳ではない。夢の中の自分はそんな状態でも魔王を倒し、そして解放したエナちゃんに近寄る。
「大丈夫かい? エナちゃん」
「……どちら様ですか?」
その時のエナちゃんの目はとても冷たく、まるで嫌いな人間を見下すかのような目線を俺に向ける。
そして、様子がおかしいのはエナちゃんだけではなかった。
「能力が高くないなら普通の冒険者ですね。それじゃ、低レベルのクエストだけ受けてください」
「サクヤ様、流石に冒険者仲間の皆さまと同じ宿に泊まられた方がよろしいのではないでしょうか?」
ニーアさんとアンナさんの対応が事務的になる。
「ふーん、君も地球人なんだね? でも能力が低いなら一緒に冒険出来ないね」
「この美女3人とパーティー組みたいならもっと有能な人じゃないとねー」
「私も、2人を守るのがせいぜい……ついてこないで」
ハルカさん、ツムギちゃん、マナちゃんの対応も冷たいのだ。
俺が一番恐れている事、それはこの世界に来てからの皆との絆が、スキルのおかげである可能性。
魔王はステータスもスキルも勇者から奪う事が出来る。それつまり、俺の大事な人たちとの思い出が魔王によって奪われる可能性があるのかもしれない、という考えに至ってしまうのだ。
◇
「はぁ……はぁ……」
まだ深夜といった時間帯に俺は目を覚ます。
そして、夢で見た内容に俺は改めて恐怖を覚える。
慎吾とエナちゃんが捕まった、そして俺はそれを助けたい。例え俺が、皆から忘れられようとも……
だがその一方で皆に忘れ去られるのが怖い。
皆が俺に向けてくれた感情が、全て魔王の与えた力によるものだったとするなら……
――助けたい、助けたい、嫌だ怖い、俺の事を忘れないで、助けたい……
頭の中で感情が行ったり来たりし、なかなか考えがまとまらない。前に進みたいのだが、足が前に進もうとしない。
――サクヤさん
そんな中、ふとエナちゃんの笑顔が頭に浮かぶ。そうだよ、自分の事ばかり考えて、大事な事を忘れていた。
俺が夢を託した親友と、俺が守りたいと思った笑顔を持つ女の子の命が掛かってるんだぞ!!
例え皆から忘れられようと、俺は、前に進む!!
俺は覚悟を決め、部屋を後にする。時刻としては朝の3時ごろあたりだろうか。
夜襲だ、さっさと助けてやる。
「「ギイッ」」
静かに部屋を出ようとするが、扉の開く音が静まり返った宿内に大きく響く。さらに俺と同時くらいに扉を開けた他の宿泊客もいるようだ。
もしや、俺が変な行動を起こさないように見張りでも付けられていたか? と隣を見ると……
「「あ」」
俺と同時に扉を開け部屋から出てきたのは隣の部屋の宿泊客、さらに言うなれば、王女だった。
「おいお前、こんな時間になにやってるんだ!?」
俺は可能な限り小声で、王女に問い詰める。王女も王女で問い詰められるだけではない。
「あんたこそ!こんな時間に何やってるのよ!!」
「お前らは当てにならんからな、今から俺が城に潜入して助けてくる!止めるなよ!」
「はぁ!? 屈辱だわ、まさか私があんたと同じ考えをするとは!!」
……ん? 同じ考え?
「どういう事だ? エナちゃんを見捨てて慎吾だけ助けるんじゃなかったのか?」
「あんた、アタシを何だと思ってるの!! 仲良くなった女の子を放置出来る程私は冷たくないわよ!!」
つまりなんだ、この世間知らずっぽい王女様は、今から単身乗り込んで2人を救出しようとしていたってことか……くっそ、危なっかしいな。
「仕方ない、俺についてこい!! 足だけは引っ張るなよ!!」
「はぁ!? それはこっちのセリフよ!!」
そんなやり取りをしながら入口から外に出ようとした時だ。
「……やっぱり、サクヤさんは行ってしまわれるのですね」
ふと声を掛けられ振り向くと……アンナさんが俺と王女を見つめていた。
「アンナさんお世話になりました。そして、迷惑を掛けてごめんなさい。エナちゃんは私が救って見せます」
王女は別れの挨拶をし、そしてそれにアンナさんは応えるが……俺はいつもの通りの挨拶をする。
「アンナさん、今晩の夕食の代金、ここに置いておきますね」
俺は懐から銅貨10枚を取り出し、カウンターにいつものように置く。
銅貨は10枚で銀貨1枚と同じ価値なので銀貨1枚を出せばいいだけの話なのだが、この時の俺は銅貨で渡したかったのだ。
「アンナさん、行ってきます。夕食はちゃんと2人分用意していてくださいね」
アンナさんはすぐに俺の行動の意味を理解してくれたようだ。いつも通りの笑顔を俺に向けてくれた。
「いってらっしゃい、サクヤさん。……エナを、どうかよろしくお願いします」
◇
「さて、聞かせてもらうわよ!! あんたの秘策を!!」
宿から出た直後、王女が偉そうに俺にそう問いかける。秘策、そんなの決まっている
「ある訳ないだろ」
途端に頭を抱える王女。おいおい……
「お前だって、意気揚々と出て来たじゃないか。お前の秘策は?」
「そんなのある訳ないでしょ?」
……困った。カッコつけて出て来た2人が早速暗礁に乗り上げてしまった。
いや秘策が全くないわけではないのだが、成功するかは分からない。
「どーすんのよ! 私はまだ王女だから何とでも出来るけど、あんたはただの不法侵入者よ!! 命の保証なんて出来ないじゃない!!」
おお、堂々と自分の立場を使ってでも何かをやり遂げようとするその根性だけは見直してやる。
「大丈夫、私が守るから」
周囲に人の気配は無い、それなのに俺と王女以外の声が聞こえ、2人で周囲を見回したところに
――シュタッ
っと、小柄な人影が空から飛んできた。
「き、きゃぁぁぁぁぁ!!」
「おい、静かにしろ!! ……マナちゃん? どうしてここに?」
空から飛んできた人物、それは俺のパーティーメンバーのマナちゃんだった。
「手伝いに来た」
そうだ、前から不思議だったのだ。マナちゃんはしょっちゅう俺を気にかけてくれていた。
「マナちゃん、君はどうして……」
俺をそこまで気にかけてくれるんだ? と聞こうとした俺の言葉は、続く他の人物の言葉にかき消されることとなった。
「駄目よ、マナエちゃんは連れて行かせない!!」
「サクヤくん、君に恨みは無いけど……アタシたちにも事情があるの。許してとは言わないけど、マナエちゃんは置いて行ってもらう」
俺達の前に立ちふさがった2人の冒険者、それは……俺のパーティーメンバーである、ハルカさんとツムギちゃんだった。




