31.叛逆者
――最初の勇者……ユートさんは確かに今、そう言った。
最初の異世界人だとは聞いていたが、勇者とは聞いていなかった。
だが、もしユートさんを最初の勇者だとするなら……言いたいことがある。
もし貴方が魔王討伐を成功させていれば……
もし貴方がもっとちゃんとしていれば……
もし貴方が勇者であり続けていたなら……
――俺達は、こんな所にこなくてよかったのに――
知らず険しい顔になっていたのか知らないが、ユートさんがそんなおれをマジマジと見つめたかと思うと、次の瞬間はニヤッとして
「ん? なんだ? 俺に文句でもあるのか? 聞くぞ? 俺はチートステータス無くなってるからな」
などと軽い感じで聞いてくるのだ。
「……いえ、いいです。なんかわざと俺を怒らせようとしてる感じがして、挑発に乗るだけ損な気もしますので」
毒気を抜かれ、俺は吹き出しそうな言葉を飲み込む。
「文句が言いたくなったらいつでも聞くぞ。俺も最初の頃は恨み言の一つや二つ、言いたくて仕方なかったからな。早く帰りたいーって」
ユートさんはそう言いながらおどけた感じで肩をすくめる。
「それよりも、聞きたいことがあるんだろ?」
さっきまでおちゃらけてた態度から一変、優しい顔になったユートさんが俺に質問を促す。
「ええ、最初は2個ほどお伺いしたかったのですが……ユートさんとのやり取りで、聞きたい事が増えました、聞いてもいいですか?」
「お手柔らかに頼むぞ」
「まず第一に、何でダメージは各人のHPに合わせてくれるのに、薬は合わせてくれないのか? 次に、この世界に来てチート能力がゲームとは違った効果をもたらした例はあるか? ここまでが、最初に聞きたかったことです」
薬草2個で相当体力が回復し、動きも機敏になったエイジさん。一方で、薬草2個食べてHP60しか回復しなかった俺。エイジさんのHPは数値化されてなかったから分からないものの、同じ回復道具を使っても効能が人によって違うのは明白である。
そして、チート能力が必ずしも「ゲーム準拠でない」可能性。俺の爆弾なんかが良い例だ。恋愛で失恋の辛さから命を投げ出すと言った話は聞かなくもないが、恋愛ゲームでそんなダークな内容を実装しているとも思えない。そうなるとダメージを受ける仕様は、この世界に来た事に由来するのだろうと推察できるのだ。
「ふむ、確かに地球出身で一番こちらの世界に居る俺なら答えられるかもしれないな。あくまで推測で話す事になるだろうが……他は?」
「他は……後で良いです。話が取っ散らかっても困りますから」
まずは最初に聞きたかった事だけを聞こう。
「ふむ……まず1つ目の質問に答えよう。例えばだが、RPGのゲームがあるとする。強い防具を装備した時に、敵から受けるダメージはどうなる?」
「……そりゃ、ダメージは減りますよね」
「それじゃ、そのカッチカチの装備の時に、HPが30回復する薬草を使ったとしよう。回復量は増えるか、減るか?」
「増えも減りもしませんよね」
この人は何を言っているのだろうか。だが、俺の答えに満足そうだ。
「そう、攻撃はダメージを与える側と受ける側の両方の要因から計算される。だが、薬は薬の効能をそのまま受ける。そこに計算式は存在しない」
……んん?
「えっとつまり、ゲーム上で受け手の数値も影響するものは受け手側の数値に換算される、ってイメージですかね……でも、固定ダメージ攻撃とかもありませんでしたっけ?」
「ああ、固定ダメージ攻撃も裏で計算してるぞ。ージ、攻撃力無視防御力無視ランダム要素ゼロとはしてるが」
……しらなかったそんなの
「よくそんな事知ってますね?」
「ああ、こっちに来る前はゲームのプログラムとかやってたからな。それで、2つ目の質問に関してだが、ゲームと違ったスキルが付くことはありうるぞ。レースゲームやってた奴が運転技術がプロ並みになったり、重火器を使うゲームだと重火器を呼び出せたり」
今ユートさんが言ったのは心当たりがある。リョウさんとエイジさんそのままや。
「そんな事聞くって事は、お前も何かゲームにないスキルを使えるのか?」
「あ、いえ、使えると言うか……被害を受けると言うか……」
俺はユートさんに、爆弾のダメージの件を話した。女性を傷付けてしまうと周囲の知り合いからの信頼を失う上、ダメージを受けると。
「はー、恋愛ゲームのカンスト能力か。モテて羨ましいと思ったが、恋愛に命懸けなんだな、お前は」
命を全てかけて恋愛に挑んでいるように勘違いされそうな物言いでユートさんは同情してくれた。
だが、同情しただけで何もしてくれず、そのまま話は流された。
「で、追加で聞きたくなった内容ってのは何だ?」
「何故勇者でありながら、国王に叛逆したのか、そして、地球に帰りたいと思っていた貴方が何故、帰ろうとしないのか」
そもそも追い出された俺はともかく、勇者として歓迎されたこの人が叛逆する動機が分からない。仮に国王じゃないと帰還魔法が使えない等の理由があるのならそれこそ、魔王を倒して帰還させてもらえばよかったのではないか?
まさか心の中に飼っている明智光秀が抑えられなかったわけでもあるまいし。
「あー、まあ、そう思うか……」
ユートさんは頭を掻きながらちょっと考えていたが、意を決したように俺に話してくれた。
「結論を言うと、国王が魔王と呼んでる人には会ったよ、そして分かった。……魔王は国王の方だってな」