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3.能力値とは

「勇者……?」


 周囲の盛り上がりとは別に、俺は冷めた目で周囲を見ていた。


 どうみても周囲は喜んでいるというよりも、先輩のムチャ振りに付き合わされている後輩みたいな感じを受ける。


「さ、朔也……な、何が起きてるの?」


 世間から注目されてる野球部のエースがそんな気弱でどうする。やっぱりまだまだだな。


 さて、この空気感に紛れ込むには……


「勇者様万歳!!」


 俺は周囲の兵士に合わせて同じ事をしてみた。途端にシンとする周囲。


「……勇者様がなぜ、勇者様万歳と言ってるのかね?」


 偉そうなオッサンにそう突っ込まれるが、おかげで何となくわかったぞ。薄々は分かっていたが、確認も大事だ、うん。


 先ほどから勇者と言われているのは、俺と慎吾の事だろう。そして、発言の内容、周囲の雰囲気から察するに、このオッサンが一番の先輩、またはOBで、このオッサンが何かやったわけだ。


 その結果、俺達が召喚され、俺達は勇者という肩書で呼ばれている、と。


 野球を辞めてちょこっと無料サイトとかでファンタジーを読む機会があったので、そこから考えるに、そのファンタジーの出来事が実際に起きたという事か?


 俺は動揺する慎吾を落ち着かせようと、小声で話しかける。


「落ち着け慎吾。最近俺が読んでた本と同じような展開だ。異世界に呼び出されるとかいうやつだ」


「あ、ああ。そういう事か。野球やってれば1度は起きるやつね」


「……大丈夫か? お前、混乱して変な事言ってないか?」


「野球やってると、お化けになったりタイムスリップしたり、ロボットにされたり異世界を旅したりするのは野球ゲームあるあるだよね?」


……こいつは一体、何を言ってるんだ。


「さて、我はこの王国の国王、リュパン十三世じゃ。魔王を倒さんと異世界より召喚されし勇者よ、まずはお主らの名前を教えてもらえぬかの?」


 そんな俺達に国王と名乗るオッサンが声をかけてくる。


 なるほどね、つまり、ごついプロテクターを付けたキャッチャーの集団かと思ったが、これは鎧を身に着けた兵士、というやつか。


 どこかの野球部でOBが幅を利かせている場面かと思ったぞまったく。


「失礼いたしました。俺は虹原朔也、この横に居るのは親友の矢森慎吾です。ここの礼儀を知らない部分もあるので、口調、態度などで不快な思いをさせてしまうかもしれませんが、ご容赦ください」


 礼儀と言う意味ではまだ丁寧な応対は出来るとは思うが、礼儀に気を取られ、必要な情報が引き出せなかったり、気が抜けて対応がなおざりになった事を理由に処刑などされても困る。


 あえて「こちらは礼を尽くすつもりだけど、違ったらごめんね」というスタンスにしておこう。


 ファンタジーだと勇者という肩書は結構な免罪符として機能するみたいだし……この国王にその免罪符が効かないなら……俺が体を張って、慎吾だけでも逃がそう。


 慎吾は俺の横で、ガッチガチに固まっている。


 こいつ、頭では何が起きたかを理解してるのに、体が理解してないようだ。


「ふむ、サクヤ殿にシンゴ殿だな。それでは、早速で悪いが、この場でステータス確認をさせていただこうか」


 ステータス確認、これも最近読んだものに良く出て来たな。このステータスで強さの基準が測られるというやつか。


「我が使った勇者召喚は特殊な魔法でな、呼び出した者をステータスMAXで呼び出す事が可能なのだ。お主たちもステータスはMAXのはずなのだが……」


 そこで国王が苦虫を噛み潰したような渋い表情をするのを俺は見逃さなかった。


「失敗もありうる、という事ですか?」


「うむ」


 ちょっと不躾な質問だが、それでも国王は気にしていないようだ。


 まさか、失敗もありうる、というのが「まだ弱い表現」だから「許容範囲の不躾」と判断されたのだろうか?


「……もし、全ての数値がMAXでなければ?」


「その場合は、その者を追放するだけじゃ。過去には最高数値21程度でMAXとか抜かしてたたわけが居たが、問答無用で追い出してやったわ。魔王の脅威に晒されている我が国は、完璧な勇者以外を支援する余裕はないのでな……お主らを信じておるぞ」


 このジジイ、よく言ったものだ。今の発言で、理不尽に呼び出され追放された勇者が1人や2人で無い事が確定したようなものではないか。


 しかし、帰還のための手がかりを持っているのもこのジジイだ。下手に刺激は出来ない。


 願わくは、俺達のステータスがMAXでありますように……


「それではまず、慎吾殿から確認させていただきます」


 国王の傍に控えていた、占い師みたいなローブに身を包んだ男が水晶を慎吾の前に差し出す。


「慎吾殿、お手を触れてください」


 慎吾はそのまま、言われるがままに水晶に手をかざす。すると、広間に大きなスクリーンのようなものが出現し、慎吾のステータスを表示する。


 そこには全ての項目が「S」である事を表示し、全ての能力がMAXである事を示していた。


「おおおおお!! 素晴らしい!!」


 その「全てがS」である事で全能力MAXである事を認識し、国王は歓喜の声を上げる。


「勇者様だ!! 勇者様万歳!!」


 今度はやけっぱちではなく本心からの万歳を取り巻きの兵士たちがする。


 さっきやけっぱちに聞こえたのは多分、何度もやらされてたからだろう。


 そして俺は……


「は?」


 としか言いようがなかった。もちろん、慎吾も困惑している。


 何故かって? それはそこに表示された能力値のせいである。


 そこにはこう書かれていた。


********

矢森 慎吾


制球:S

スタミナ:S

打技術:S

打力:S

走力:S

投力:S

守力:S

********


 これ、どうみても、慎吾がさっきまでやってた野球ゲームのステータスだよな……


「勇者よ!! どうか、にっくき魔王軍を打ち倒してくだされ!!」


 あかん、この流れで魔王軍とか言われても、野球にしか聞こえない。


「勇者様!! 勇者様!! 魔王軍倒せー!!オー!!」


 野球の声援かよ!!


「本物の勇者様が居れば、魔王が最強魔法、コールドをしてきても怖くない!!」


 こいつら、わざと言ってるだろ⁉


 ものものしい雰囲気から一転、周囲の盛り上がりと、どう聞いても野球にしか聞こえない会話に笑いをこらえている俺。


 実に平和であった……次の瞬間までは。


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