27.クエスト受注最速理論
「よう、待たせたなリョウ。1人増えて5人パーティーになるが、頼めるか?」
俺はクラヒトさん達に連れられ、町の出入り口に到着した。そこには一人の男性、リョウと呼ばれた20代前半くらいの見た目の男性が待っていた。
「あ、もしかして、俺以外にパーティーメンバー居たんですか? それなら俺は……」
俺は半ば、ギルドマスターからねじ込まれた存在である。もし無理でもそれは仕方ないと思っているのだ。
「大丈夫だ、リョウは運び屋だ。この世界で言えば、馬車の御者といったところかな?」
「5人ならまだ行けるぞ。……初めまして、リョウだ。早速だが時間が惜しい、乗ってくれ」
と、リョウさんはリョウさんの後ろにある馬車を親指でクイッと指す。
その馬車の形は、よくファンタジーである幌付きの荷駄みたいなものではなく、非常に華美な、ファンタジーなんかでよくある貴族の豪華な馬車のような形をしている。
ちょっと思ったより縦長ではあるが。
そして見た所扉は側面に2つ。扉のように開くドアと、スライド式のドアがあるようだ。
「あ、サクヤはそっちに乗りな」
と、クラヒトさんは扉のように開くドアの方を指さすので、俺は言われた通り扉のように開くドアから入り、すぐそこにあった椅子に座る。
「よっ……と」
クラヒトさんたち4人も後ろのスライドドアの方から中に入り、それぞれ着席する。
想像と違ったのは、座った感じ全員が同じ方向を向いて座って居るところだ。貴族の馬車って対面で座ってるイメージがあったのにな。
俺はある意味の懐かしさを感じた。そうそう、少年野球やってた頃は、監督とかコーチとか、何人かが7人くらい乗れる車を出してきて、その車に乗って球場とかに行ったっけ。
後ろに座ると移動中に皆でトランプとかするんだけど、前に座らされると何も出来ずに、シートベルトを付けて前を見るしか無くて辛かった覚えがある。
何気なしに左手がシートベルトを掴み、そしてそのままの流れでカチッとシートベルトを装着する。
「よし、いくか」
最後に皆が乗り込んだ側と反対側のほうの扉から中に入ってきて、俺の横の椅子に座ったリョウさん。
……そこで俺は3つの違和感を感じる。
まず一つ、シートベルトがある事。
二つ、馬車のはずなのに、馬が付いていない事。
そして最後に、リョウさんの座った座席にだけ、なんか現代日本で言うところの、車の運転席にあるようなハンドルやなんやらが見える事。
そんな俺の困惑を他所に、リョウさんは右手をクイッと捻る。
-―キュキュキュキュ、ブウォォォォン!!
現代日本でも聞きなれた鋼鉄の馬車の駆動音のようなものが聞こえ、確信した。これ車や!!
さらにリョウさんが続けて発した言葉に俺はもう、度肝を抜かれるしかなかった。
「行き先は魔獣の森でいいんだな?」
この世界は殆どの国が陸続きでありかつては陸路で結ばれていたのだが、海運が発達したために国家間の往来は船が主となっている。
そして、廃れた国家間陸路は森におおわれ、かつての道路が辛うじて原型をとどめているだけの森となってしまっている。その森が、魔獣の森。
魔獣の森は凶悪な魔物が出るため、どの国も森から百キロは離れた位置に集落を作っているそうだ。
今や馬車の馬も怯えて近づかないその森に行くには、それこそ往復で1週間かける事すら珍しくはないそうなのだ。
「ああ、今日中に終わらせたいから最速で頼む。……サクヤ、ひとつ言っておくぞ」
「な、何ですか?」
「……手すりはちゃんと掴んでろよ?」
――ブォォォォン!!
クラヒトさんが俺にそう告げるや否やのタイミングで、リョウさんの操る馬の無き馬車が急加速を始め、俺は座席に身体を強く押し付けられるのだった。
◇
「お、おぇっ……」
1時間も経たないうちに、魔獣の森に着いた俺達。だが俺はあまりの衝撃の出来事に餌付いてしまっている。
もう滅茶苦茶だった、なんせリョウさん、馬車の速度を一切落とす気配が無かったのだ。
人が使わなくなって久しくなった荒れ果てた曲がりくねった道を、だぞ?
さっきまで風景がものすごい速さで後ろに流れると思ったら、気が付いたら今度は風景が右側に流れ始めて、そのままガケに落ちるかどうかの所で右に流れる風景がピタッと止まったかと思うと、今度はまた風景が後ろに流れ始める。
いや、あの感覚はちょっと、何と言えばいいか。
その間ずっと俺は「ぎゃぁぁぁぁ!!」だの「落ちる落ちる!!」だのずっと叫んで喉が痛い。
「わりぃわりぃ、初めてリョウの運転する車に乗った奴がどんな反応するか見てみたくてな。でもサクヤ、お前、よく耐えられたな」
途中で「もう無理」とか言うと思ったのに、などとクラヒトさんが言う。
わかってて乗せてたんかい!!
「そりゃ、怖いは怖かったですけどね。リョウさん、途中で一回も表情変えなかったですからトラブルは起きてないというのは分かってたので、あとは自分が慣れるかどうかの戦いでした」
途端に皆がシーンと静まり返る。
え? 何があった? と思い見回すと、皆が俺を驚いた顔で凝視していた。
そんな中、俺が初めて会った時から運転中も一切表情を変えなかったリョウさんが一瞬、フッと笑ったような気がした。
「初めて乗ったと言うのに、ドライバーの表情から危険度は無いと判断するとは……面白い奴だ」
リョウさんは俺の所に歩み寄ると、右手を差し出してきた。
「サクヤ、だったな。もし冒険者を辞めたくなったら俺を頼れ。俺が車の操り方を教えてやろう。お前なら俺を超える伝説の送迎屋になれるかもしれん」
表情を崩さなかったリョウさんが笑い、俺に右手を差し出してくれる。
俺はそれがリョウさんに認められた証だと感じ、嬉しさのあまり笑顔でリョウさんの差し出した右手を右手でつかみ握手し、こう答えた。
「遠慮します」
こうして、病み上がりのリハビリ程度のクエストを受けるつもりであった俺はこの世界で一番の危険地帯とさえ言われる魔獣の森での狩猟任務に就く事となり、冒頭の状況に陥る事となるのであった。




