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24.【Sideシンゴ】ダブルスティール

 シンゴはパーティーメンバー候補との顔合わせを終え、自室に戻る。


「シンゴ様! 遅いですわよ!!」


 そこには、毎日のお茶会をしてくれる王女サクヤがテーブルに座ってシンゴの事を待っていた。


 口調は責めるような感じではあるが、表情からは長い間待っていた待ち人がやっと来たという安ど感と喜びが見え隠れしている。


「申し訳ありません、王女殿下。先ほどまで勇者パーティー候補との面会が……」


「ほらまた! シンゴ様、この席ではその呼び方は禁止だと申し上げましたわよね?」


「ごめんなさい、まだ慣れないもので……許してもらえますか? サクヤ様」


「これだけ長い間一緒に居る、こんないい女の名前くらい覚えてくださいな……まあ、私はいい女ですから、寛大な心で許して差し上げますけれどね!!」


「ははー!! 有り難き幸せ!!」


「うむ、くるしゅうない」


 と、こんな演技がかったやり取りをした後に、二人してふふふと笑いあう。


 ちょっとした冗談の応酬、そして、喧嘩にも満たないちょっとしたもめ事染みたやり取りと演技がかったやり取りによる仲直り。


 どういう訳か、二人にはその距離感が非常に心地の良い距離となっていた。


 シンゴにはそのやり取りはどこか……親友である、サクヤとの距離感を思い出させるのである。


「ところで、今日はどのようなお方が呼ばれていたのです?」


 王女は勇者パーティー候補の話をシンゴに聞こうとする。もちろん、殆どのメンバーは代わり映えしていない事は重々承知である。


 王女が興味あるのはただ一点、シンゴの女房となる、捕手として呼ばれた女性だ。


 王女も肩書さえなければ、ただの年頃の女性なのである。ただでさえ同年代との交流が少ない身である。自分と同じ年であるシンゴのタイプの女性なんて話題になれば興味が無いわけではないのだ。


「今回はなんというか……年上の男の人をダメにしそうな年下の子だったなぁ」


 なるほど確かに、と王女は考える。シンゴは確かにジェントルマンに位置する人間であるだろう。だがその反面、非常に自分を出すのが下手なタイプではないか、と考えている。


 話を聞く限り、最初の妖艶な少女は色香で篭絡する事を狙い、2回目と今回の捕手選抜は、内心に抱え込みやすいシンゴを考えての選抜だろう。


――3人目のまだ年齢1桁の少女は完全に理解不能だけれども。


「なるほどね。お父様もそれなりにシンゴ様の人物像を掴んできているのかしら……ところで、シンゴ様は本当は、その、ど、どのような女性がよろしいのかしら?」


 王女は何故か分からず、どもってしまう。そして、内心聞きたいような聞きたくないような気持に襲われてしまうのである。


「そうだね、俺の好みとするなら……自分の意思を強く持って、何事にも屈しないタイプの子かなぁ……どちらかというと引っ張って欲しい」


「ああ、それはお父様用意出来そうも無いわね。勇者様が全てを導く存在だと信じてるから、勇者様が引っ張られる事は想定してないと思いますわ」


 そう答えながら王女は内心、羽でも生えて空を飛び回らん程に喜んでいた。それは、もうしばらくシンゴはここに滞在するであろう喜びからか、それとも、シンゴの好みの女性像に自分が近いと感じたからか。


 本当に、もしかしたら、自分はシンゴ様に惚れているのではないか、などと思ってしまう。その証拠に


「そして、そんな性格のサクヤという幼馴染が女房だったと……」


 こう考えると心が痛むのだ。自分の名前を持つ人物がシンゴの隣に居る、だがそれは自分ではない。そんな状況を考えるのが、嫌になる。


「確かにサクヤはそうだったかもね。自分の信念は曲げず、どんな大変な状況でも淡々とこなす。汚い手も躊躇なく使うし負けず嫌いでそのくせ、勝っても負けても笑顔を忘れない……俺が尊敬する男だよ」


 王女は笑顔を自分の顔面に貼りつけながらも内心は耳を塞いで座り込みたい、何なら泣きたい気分ですらあった。


 多分、シンゴの言うサクヤと自分は性格はどことなく似ているのだろう。だからこそ自分に親しく接してくれている、そして、自分を通してそのサクヤという人物を見ている。そう思うと、悔しさがあふれ出す。


 何故出会った順番が違うというだけで、私はその男に負けなければならないのか。いやまだだ、その男のプロポーション等を聞いていない。もしかしたら体型はその男より私の方を女性として魅力的と感じるかもあれぇ?


「……シンゴ様、今、男とおっしゃいました?」


「ええ、俺の親友のシンゴは、男ですよ」


 少しの時間、沈黙が流れたかと思うと、王女の顔が徐々に真っ赤に染まっていき、そのまま目じりに涙を溜めながら


「シンゴ様なんてもう知らない!!」


 と腕を組み、怒ったかのようにそっぽを向く。


 それは張り合ってた相手が男だった事を知って恥ずかしくなったからか、それとも、シンゴに特定の女性が居ない事を知っての安堵か……王女にはよくわからない。


「え、えええ!? サ、サクヤ様、ご……御免なさい!?」


 実際、勝手にヤキモキして勝手に舞い上がったり落ち込んだりしたのは自分なのだと王女も分かっているのだが、それにしても、その親友が男性である事を教えてくれてもよかったのではないか?


「そ、その、ご機嫌直してくださいぃぃぃ!!」


 まあ、王女もちょっとモヤモヤは残ったが、適度な所で機嫌を直し、その後は普通に接したのであった。


 よく言えばサバサバした性格、悪く言えば大ざっぱであるのだ。そして、王女は知らない。シンゴはその王女の態度に無自覚のうちに惚れているという事を。



 皆も寝静まった深夜、シンゴの部屋を訪れる2つの影があった。


「シンゴ様、起きてください」


 シンゴはその謎の影に揺り起こされ、目を覚ます。


「王女さま……? えっと、そちらは……?」


 一人はサクヤ王女、そしてもう一人、傍らに大人な女性が立っている。


 片眼鏡にスーツといったいでたちで、見た目にお金はかけないといったように見えるものの、それらをきちんと清潔感を感じさせる恰好でまとめており、それが仕事の出来る女といった風格すら感じさせる出で立ちだ。


「直接お会いするのは初めてですね、私は王国財務相、キリノでございます」


……ん? キリノ? ギルさんじゃなくて?


 ああ、「リ」が「゛」に、「ノ」が「ノレ」になってたのか……そうはならんやろ。


 などとシンゴが寝起きの混乱した頭で考えていると、唐突にキリノが妙な事を言うのでさらにシンゴは混乱する。


「本来であるならお会いできた事を喜ぶ場面ではありますが、今は時間がありません。勇者様、どうか王女殿下と共にお逃げください」


 急に起こされたと思ったら、ここから逃げろと来たものだ。さらに王女はよく見ると、いつもの豪奢なドレス姿ではなく、町娘といった出で立ち。


 さらに、シンゴにも町の青年といったような服装を用意してきているようである。


 事態が呑み込めないシンゴに、財務相はさらに情報の追い打ちをかける。


「国王がシンゴ様の処刑を決断なされました。このままここにいらっしゃると、命の保証が出来ません。王城内は私がごまかしますので、どうか、お逃げください」

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