22.【Sideシンゴ】4番ピッチャー、マ男者
本日は7時、12時、16時、19時に更新させていただく予定です。
後編もどうぞよろしくお願いします。
サクヤが王城を追放されてから俺は、国王に来賓として豪奢な客室に案内された。
「勇者様、このような粗末な部屋しか用意出来ずに申し訳ありません。勇者様のお眼鏡に叶う従者がそろうまで、こちらにご滞在ください」
ベッドは数人で寝ても余裕のあるサイズであり、部屋にあるテーブルと椅子も非常に大きく、このテーブルだけでもそれなりのパーティーが出来るのではないかと思われるような大きさである。
それらが、すべてピカピカに光り輝くほどに磨かれており、俺はその眩しさに目を細める。
「それでは、何か御用がありましたら扉の外に居る兵士にお申し付けください。可能な限り必要なものはご用意させていただきます」
国王は俺にそう告げると笑顔を俺に向け、そのまま部屋から退出した。
自分の知ってる部屋という概念から大きく外れる巨大な部屋の中に一人取り残された俺は、ため息を吐く。
そして、最期に見た国王の笑顔を思い出していた。
俺はその笑顔を知っている。表は良い人を装っているが、内心にはドス黒い物が渦巻いている人間が顔に笑顔だけを張り付けて取りつくろっている時の顔だ。
自分がプロ野球からも注目されているため、周囲が自分に向ける表情と同じなのだ。
特にプロ野球関係ではなく、自分に近づいて甘い汁を吸おうと思う人物の表情に……
……ああ、俺はこういう表情を向けられるのが嫌で、サクヤの陰に隠れてたのだったな。
そう考えると、サクヤと離れ離れにされた事が急に不安になる。これから、この世界で一人でやっていけるのだろうか……いや
「あっちに戻ったとしても、近くにサクヤは居ないんだ……」
不安に駆られた俺がシンとなった時に、何やら騒がしい声が扉の前から聞こえる。
「……どうかお待ちください」
「折角勇者様がいらっしゃっていると言うのに、お一人で部屋に放置するなんて失礼とは思わないのですか!?」
どうやら、若い女性と男が言い争っているようだ。
部屋の外に兵士が居る、と言っていたから。男の方が兵士で、若い女性が……メイド、にしては上から目線の発言のように感じる。
「お、お引き取りください!!」
「まあまあ、いいから」
と女性が押し切ったような声が聞こえ、そのまま
「バタン」
と扉が開く。
そこからやってきたのは、豪華な服装を纏った、同じ年くらいの女性だった。
ブロンドの長い髪にゆるいウェーブをかけたロングヘア、青い吊り目の瞳は、意志の強さと同時にすべてを包み込んでくれるような優しさすら感じさせる。
激しい気性の中にも優しさが感じられるのだ。
「あら、勇者様と伺ってたのでどんな強靭な男かと思ったら……私と同じ歳くらいの男の子だとは思わなかったわ」
そして、ある意味予想通りではあったが、ずいぶんとあけすけに物事を言う子だ、と思った。
「え、えっと、貴方は……」
「王女殿下!! 王より、誰も通すなと申しつけられております!! どうかお引き取りください!!」
俺に近づこうとする王女と呼ばれる女の子に兵士が近寄り、近づこうとするのを止めようとする。
「お父様もそうですが、あなた方、賓客としてお招きした勇者様を一人で放置するなんて……恥を知りなさぁぁぁいい!!」
王女は兵士が完全に近寄る前に俺に背中を向け、腰に手を当てて怒りをあらわにする。
ちょうど兵士と俺の間に立ちふさがっているが……王女は腰に当てた手に1枚ヒラヒラと手紙のようなものを俺にむけて振る。
ちょうど、背中で兵士の視線から隠すように……
俺はそれをサッと受け取ると、王女はそのまま手を小さく動かす……まるで、隠せと言っているかのようだ。
俺はそのまま隠す……
「だから、私に責任が及ぶのです、おやめください!!」
王女はそのまま兵士に従うような様子を見せるが、最期には威勢の良い発言を残す。
「分かったわ!! お父様に厳重に抗議させてもらう!!……勇者様、次来るときはゆっくりとお茶でもしましょう」
最後に俺に笑顔を向けてくれた王女は兵士に連れられ、扉から出て行った。
「……一体、何だったんだ……?」
このグイグイと来る感じ、何か初めて会った感じがしない……・
「おっと……そうだった」
俺は部屋に誰も居ない事を確認し、先ほど渡された手紙のようなものを確認する。
可愛い女の子だったのでラブレターとかそんなのだろうか? なんて期待をしていたが、その手紙には事務的な内容のようで、俺はちょっとだけガッカリしたが、中を確認する。
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拝啓、マ男者様
直接のあ日通りが叶わめたぬ、こめようた連絡手段となり申し訳おりません。
只今、マ男者様と面会出来る人物や非常に制限きれてあり、筆を執っな次第です。
マ男者様ほ口王より、魔王をなあすようた言ねねていなぬなと思いほすや、どうや
口王め要求を飲またいよう、お願いいなしほす。
たちらでもたんとやマ男者様め開放を氷面下で進のほすや、マ男者様たおやねほしてほ
だ白受いななけねぼと思いほす。
王口財務相 ギノレ
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中を確認したが、全体的に日本語が間違っており、解読に時間がかかった……。
なんとか、国王を信じるなと財務相が言っていると言うところは理解出来た気がする。
だが、この間違いだらけの手紙もなんとか日本語を勉強して書いてくれたのだろう。
――国王、ちょっと聞くが……お前、ステータスの文字、読めてるか?
サクヤが王城から追い出された時に残したこのセリフ、これが無ければ俺は、この手紙を「イタズラ」だと判断し、読もうとすらしなかったかもしれない。
確かに変な所はあった。
……何故、俺の身の回りの世話をする役目で控えるのがメイドではなく兵士なのかといった違和感は、俺に近づく人間を排除するためだろうか。
または、俺が変な事をしないようにといったことか?
その扱いからするに、少なくとも国王が俺を信じているというわけではないのだと判断出来るのだ。
頼れる相棒はおらず、王城では国王も信じられない。
まだ状況を俺に伝えようと、こちらの言葉を一生懸命書こうとしてくれた財務相の方が信用できるのではないだろうか……まずは、財務相側の人間だと思われる王女殿下、彼女の動向を見守ってから判断しよう。
◇
「まあ、勇者様は元の世界でも有名なお方だったのですね!!」
あれから数日、王女は国王を説き伏せたようだ。
部屋に閉じ込められほぼ丸1日誰とも話さない俺が唯一毎日話す事の出来る相手として、俺の部屋を訪れてくれるのだ。
俺との話で表情がコロコロ変わる可愛らしい女性だ。俺もそんな可愛い女性と話して嬉しくないわけではない。
それに、女性に「有能だ」と褒められて嬉しくない訳ではない。
「俺は4番ピッチャー……簡単に言うと、チームの攻守の要だったんですよ。自分で言うのも気恥ずかしいですがね」
「なるほど、パーティーの全てを勇者さまが取り仕切り、お一人で戦っていたのですか……」
「いえ、私にも相棒が居たのですが……サクヤという相棒が……」
「……え?」
俺との会話の中で、急に王女が目を丸くして俺を見ている。
どうしたのか、もしかして、俺が気に障る事でも言ったのだろうか?
「……何故、私が、勇者様の相棒なのでしょうか?」
……んん?
「そういえば、お互い名前を名乗っておりませんでしたね。俺はシンゴと言います」
王女は「これは失礼」といった反応を示し、そして名前を教えてくれた。
「私はサクヤ、王国第一王女サクヤです」




