16.土下座根性
「あ、あの、ニーアさん」
ニーアさんが出勤してきたので、俺はカウンターに座るニーアさんに声を掛ける。
「……」
ニーアさんは完全に無視を決め込むようだ。そりゃそうだろ、怒らせた挙句にその直後にまた女の子泣かせたと噂も流れれば、こうもなるわ。
「……すみませんでした!!」
もう、言い訳をしてる場合ではない。俺は土下座で謝罪をする。
「……何で私が怒ってるのか、分かってる?」
「はい!! 他の女性とばかり過ごし、ニーアさんと過ごす時間を作らなかった事です!!」
この言葉だけ聞くと、ただの浮気性の男である。誠意をもって謝っている発言とは自分でも思えない。
だが、システム的には正しい発言なのだ。
「……それだけじゃないわ!! 私以外にも女の子を泣かせて、まさかそんなひどい人とは思わなかったわ!!」
ニーアさんの激高した叫びに、一瞬周囲の目線がこちらに集まるが、すぐにいつもの喧騒が戻る。
冒険者、なんて荒くれ者が多いため、この程度なら日常茶飯事なのだ。
俺は土下座したまま、その場を動かない。許してもらえるまで。そして、許してもらえたら、昨日渡せなかった誕生日プレゼントを渡そう。
先ほど買ってきたのだ。これを渡すまでは……
「あ、こいつ知ってるぜ!! ハーレムなパーティーに居ながら他の女を泣かせるド畜生異世界人だ」
「へー、よりにもよってニーアさん泣かせたのか。ニーアさん、安心してください!! ニーアさんに代わって俺達がこの異世界人にケジメつけさせますから!」
「え? ちょっと……」
土下座してて見えないが、どうやら数人の男に取り囲まれているようだ。だが、ニーアさんが困惑してるって……いやな予感がする……とりあえず、プレゼントを壊されないよう、自分の腹部で隠しておかないと……
「おい、異世界人!! ニーアさんを泣かせるとは、オシオキが必要だな!!」
――パリーン
「ぐっ!!」
土下座している俺の頭を何かで殴られたような衝撃が走る。それと同時に、ひどく強い匂いが……酒か。
酒瓶で殴られたらしい。
「おうおう、頭でわからないなら、体に教え込まないと、なっ!!」
ーーボコッ
と今度は鈍器のようなもので背中を思いきり打ち据えられる。
肺の空気が全て抜けるような感覚に陥るが……それでも俺は、まだ顔を上げない。
「いい根性してるじゃねぇか、だがいつまで持つかな?」
今度は脇腹を思いきり蹴り飛ばされる。
「ステータスカンストだかなんか知らないが、調子に乗ってて前から気に入らなかったんだよ、異世界人ってのはな!!」
殴る蹴るを繰り返される。正直、スカウトオーブでHPを確認する余裕もないが、普通にHPが削られているのを感じる。
「お、お前、何隠してるんだ? ちょっとそれ寄越せよ!!」
俺を痛めつけてる連中が、俺が抱えて守っていたプレゼントに気が付き、それを奪おうとするが……俺はそれだけには抵抗する。
「この!! 抵抗するな!!」
他の連中からの攻撃は激しさを増すが、俺は絶対にそのプレゼントだけは奪われまいと抵抗する。
「おらぁぁぁぁ!! しねぇぇぇぇ!!」
シャキン、と剣を鞘から抜いたような音が聞こえる。興奮して、ガチの凶器を持ち込んだのだろう。
ああ、ニーアさんに許してもらえない上に、エナちゃんに謝罪も出来なかったな……。慎吾も助けられなかったし、俺の人生、何か全てにおいて中途半端だったな……。
「やらせない!!」
俺は斬撃による痛みを覚悟し目を瞑ったが、そんな俺の耳に届いたのはマナちゃんの言葉と、一瞬間をおいての
ーーボトッ
と何か肉塊のようなものが俺の横に落ちる音だった。
「ぎ、ぎえぇぇぇぇ!! 俺の、俺の腕が!!」
どうやらマナちゃんは、人の腕を切り落としたようだ。
「全く、マナエちゃんもサクヤくんももっとスマートにやりなよ」
――バタッ!! バタッ!!
ツムギちゃんの声の後にツムギちゃんの声のした方から人が倒れるような音が聞こえる。
「正面から気絶するほどの衝撃で殴り飛ばすツムギちゃんも十分おかしいわよ」
――バタッ!!
ハルカさんの声が聞こえた方からも人が倒れるような音が……
「死角から急所に当てて気絶させてるハルカさんもおかしいと思う」
マナちゃんがハルカさんにツッコミを入れた所で、俺を取り囲み庇うように、マナちゃん、ツムギちゃん、ハルカさんが布陣する。
「な、なんで女の敵であるそいつを女が守ってるんだ!! おかしいだろ!!」
「誠心誠意謝ってる人間を囲んで叩く方が人間の敵でしょ? 女の子を泣かせたのはサクヤくんが悪いけど、他人がそれを理由に殴りつけていい理由にはならないわよ!」
そのままちょっとの間にらみ合いをしていたようだが、そのにらみ合いを止めるように何者かの威厳を感じるような声がギルド内に響き渡る。
「ニーアに急かされて来てみれば……そこまでだ!! 双方武器を納めよ!!」
その声の主に対し、俺を叩いていた人間がこう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「ギ……ギルドマスター」
ギルドマスター? と思う間も無く俺は、体から力が抜け、意識が途切れる。
(あ、このまま倒れるとプレゼント潰してしまうな……)
俺は最後の力を振り絞り、なんとかプレゼントを潰さないように体を逸らし倒れると、そのまま完全に意識を失った。




