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13.システムが違うが故の相乗効果

 翌朝、受付に居たアンナさんとエナちゃんに前日と同じように銅貨5枚を渡し、「行ってきます」と言って宿を発つ。


 これが今、俺なりに表現できる「絶対に帰ってくる」の意思表示である。


 宿泊客と従業員という、迎えられて当たり前の関係性ではあるものの、初めて俺の滞在を笑顔で迎えてくれたエナちゃんの所に俺は帰ってきたいと思うようになったのである。


――多分、ニーアさんに最初に会った時に「私の家にいらっしゃい」なんて言われたら同じことをニーアさんに対して感じてただろう事は否定できない。


 そういう意味では俺は自分の事をチョロいと思う。


 本来は慎吾を助け出し、元の世界に戻る方法を模索すべきなのだろうが……今はその足掛かりすら見つからない。


 戻る手がかりを探るためにも、同じ世界出身者で固まるより、現地の人に繋がりがある方が目的に叶うだろうという打算もあるんだ。


……決して、エナちゃんとお近づきになりたいなんていう下心があるわけでは……ごめん、多少はある。


 そんな事を思いながら、俺は約束の15分ほど前に到着する。


 女性達を待たせる訳にはいかないので、俺は早めに到着して待つ、そして、待ち合わせ時間5分前に、3人がやってきた。


「あ、おはよう、サクヤくん!! 早いわね、まだ時間じゃないわよ?」


 危なかった……時間ジャストに到着していたら、恋愛ゲームの能力持ちなのに女性を待たせる事になるところだったぜ。


 時間通りに到着しても遅刻みたいな扱いされるって、ある意味トラップだよな……。



「ちょ、こ、これはやばいって!!」


 俺が怯えているのが面白いのか、腰が引けている俺をツムギちゃんがそんな俺をからかってくる。


「むっふふー、サクヤくん、こういうの、初めてかなー? ほら、さっさと、いっちゃいなよ」


 ツムギちゃん楽しそうに、グイグイと体を押し付けてくる。


「ちょ、こ、これ、思ったより狭い……し、きつい!!」


「ほーら、さっさと渡っちゃおうよ!!」


 俺が今居る場所は、足場がものすごく狭い断崖絶壁の中あたり。


 足場も狭く、かといって手で岩場にしがみついても、腕の疲労がものすごいことになって大変キツイ。


 なるほど、この世界の人がこんなところに自生している山菜をわざわざ取りに来るわけが無いと言うのも頷ける。


 ちなみに、ハルカさんは既にこの断崖をスイスイと渡り切っており、マナちゃんに至っては、文字通りジャンプでひとっとびだった。


……20mくらいある断崖絶壁をジャンプ1発で飛び越えるとか、ちょっと人としての能力超えてる気もするが……


「ほーら、ガンバレ、ガンバレ」


 ツムギちゃんから気の抜ける激励を受けつつ、ゆっくりと慎重に断崖絶壁を渡る。体力と運動が999ということで、片手だけで自分の身体を支える事は可能だと思うので、落ちる心配は無いとは思うのだが


――ビュゥゥゥゥゥ


 やっぱり下に足場が無いと言うのは、怖いのだ。


 ツムギちゃんも能力を使えばササッと渡れるらしいが、俺の補佐の為に俺のペースに合わせて進んでくれている。だからこそ、これ以上迷惑を掛ける訳にもいかないだろう。


 俺は恐怖心を抑え込み、出来るだけ早く、かつ丁寧に、断崖を渡り切った。


「サクヤくん、やれば出来るじゃん!!」


「ツムギちゃんがサポートしてくれたからだよ、ほら、ツムギちゃんも早く渡っちゃおう!! 危ないよ」


「平気平気、私、登攀99%だから。判定で十面サイコロ2つ降って0を2つ出さない限りは失敗しないから!!」


 あははー、と、呑気に渡って来たツムギちゃんだったが……


――スカッ


「え?」


 最後の最後、あとちょっとと言うところでツムギちゃんは断崖に掴まろうとして、手で岩場を掴み損ね、そしてそのまま体が後ろに倒れて行き……


「ツムギちゃん!!」


 俺は落下しようとしていたツムギちゃんの腕をギリギリのところで掴む。俺に腕を掴まれて、宙づりになるツムギちゃん。


 そして、俺を見上げるツムギちゃんの顔には、先ほどまでの余裕のある表情ではなく、明らかな恐怖が張り付いていた。


「え? なんで? どうして?」


……恐らく、さっき言っていた、まず出ないであろう1%の失敗を引いてしまったのだろう。ツムギちゃんは動揺し、暴れ始める……


「ちょ、ツムギちゃん、落ち着いて!! ……うわぁ!!」


 ツムギちゃんを引っ張り上げようとするが、混乱したツムギちゃんを思うように引っ張り上げられず、俺とツムギちゃんはそのまま崖の下に転落を始める。


――結構な高所だ、こんなことをしても意味は無いだろう、だが……これはゲーム能力に影響されたのかは分からないが、俺は、転落しながらもツムギちゃんを庇うように抱きしめる。


「ツムギちゃん!! サクヤくん!!」


 上の方でハルカさんがそう叫ぶのが聞こえるが、俺達の落下速度は重力に引っ張られて加速度的に早くなる、これはもうダメか……?


 そう思った瞬間、マナちゃんの発言が聞こえたのだが、流石の俺も最初はその発言の意図が分からなかった。


「判定妨害!」


 落下のダメージを軽減でもなく落下を止めるでもなく「妨害」なのだ。


 もしかして、マナちゃんは、人が苦しんでる所に笑いながらムチ打つようなタイプの子だったのか、などと思った俺を許してほしい。


 マナちゃんの叫びを聞いた直後、突如として、落下する俺達の下方から上方に向けて突風が吹き出す。その突風は尋常ではない速度で吹き出したかと思うと、俺とツムギちゃんをそのまま上方、厳密に言えばハルカさんとマナちゃんの前に何の衝撃も感じさせないほどふわりと着地させた。


……いや、そうはならんやろ。と言いたい気持ちもあるが、とりあえず俺は抱きしめたままのツムギちゃんに声をかける。


「ツムギちゃん! 大丈夫か?」


「こ……」

「こ?」

「怖かったよぉぉぉぉぉぉ!! サクヤくん、ありがとぉぉぉぉx!!」


 と、緊張の糸が切れたのか、俺に抱き着きながら泣き始めたのだ。


「いや、俺は何もやってないよ。だけど……ツムギちゃんが無事でよかった」


 俺に抱き着いたまま泣き続けるツムギちゃんの頭を撫で、しばらく好きに泣かせつつも、俺はマナちゃんに聞きたい事があった。


「マナちゃん、さっき「判定妨害」って言ってたけど、あれで俺達を助けてくれたの?」


 マナちゃんは首を縦に振る。どういうメカニズムなんだ……?


「多分、遊んでたゲームのサイコロの扱いの違い、なんじゃないかな?」


 ハルカさんが何かに気が付いたような声を上げる。


「サイコロの扱いの違い?サイコロって、出目が大きければいいのでは?」


「それがね、私とツムギちゃんの遊んでいたゲームは、サイコロの目が小さい方が有利に働くゲームなのよ。そして、マナエちゃんが遊んでいたゲームはサクヤくんが言っていたような、サイコロの出目が大きければ有利になる対戦ゲームなんだけど……」


 へー、サイコロなんて、すごろくの進めるマス目くらいにしか使ったことなかったから、大きければ良い物だと思ってた。でもそれだと、マナちゃんのサイコロとツムギちゃんのサイコロが違う、という事しか分からない。


「マナちゃんのゲームは、相手にサイコロの振り直しを強制したり、相手の出目を強制的に『1』にするっていうスキルがあるのよ」


……つまり、マナちゃんは


「大きな数字を出して失敗したツムギちゃんのサイコロを強制的に小さい数字に書き換えたから、成功になった、ってこと?」


 ツムギちゃんは感情が表に出ないような無表情だったが、小さくピースをしてくる。


 どうやら、俺の考えた通りのようだ。


 え? なに? マナちゃんは過程をすっ飛ばして結果を変える事が出来るってこと?


 なにそれ、最強じゃん。


「しかし、皆が全く違うゲームのステータス表示である時点で取っ散らかってると思ったけど、それぞれのゲームシステムも超越して影響を与え合うのか……」


 まあ、ここの3人の好感度すらチェック出来る俺が言えた義理ではないが、怖いな。

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