12.ネコは存在する
さて、夕食も済ませたし、明日も早いから寝るかと思ったが、その前に確認しなければならない事がある。
俺は部屋に戻り、早速確認したかったことを確認する。
「電話」
昨日は多分、この「電話」の言葉に反応して好感度の表示がされたがさて……
結論から言うと、好感度表示は出てきた。おそらく、ゲームと同様に家、もしくは自分の拠点でしか使用できないのだろう。
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エナ ♪♪♪♪・
ニーア ♪♪・・・
ハルカ ♪♪・・・
ツムギ ♪♪♪・・
マナエ ♪♪♪♪・
アンナ ♪・・・・
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1日過ごしただけでこれまたすごく賑やかな好感度表示になったなー、などと思いながら俺はその好感度をチェックする。
……あ、エナちゃんの好感度上がってる。マナちゃんとツムギちゃんの好感度も思ったより高い。
ニーアさん、ハルカさんはまあ、これくらいでもおかしくはない。アンナさんも、娘の友達、くらいの距離感なら好感度これくらいだろう。
しかし、あのゲームやってた時でもこんなに賑やかな好感度表は見た覚え無いんだけど、なんでだっけか……知り合いが多いと何か面倒臭かった気もする。だからゲームプレイ中は知り合いを増やさないようにしてた覚えがあるけど、まあいいや。
「ハルカさんとアンナさんとはもう少し仲良くなってもいいかなぁ……あとは丁度いい距離感かもしれない」
こうやって人との距離感が掴みやすいってのは利点かもしれない。……あれ? もしかして俺って、対人最強な可能性がある……?
「にゃ~」
どこからともなく猫の声が聞こえ、俺は周囲を見回すと……
「にゃ~」
――猫が1匹、カシカシッと窓を叩いている。
「ああ、中に入れて欲しいのか? ……仕方ない、特別だぞ」
その時の俺は何故その猫を部屋に入れようとしたのかよく分からなかったものの、気が付くと窓を開けてその猫を招いていた。
今いる場所を居場所と認めてはいたものの、やはり環境が急激に変わったことが怖くなり、身寄りのない境遇の猫に自分の境遇を重ねてしまったのだろうか。
俺が窓を開けると、猫はその俺が窓を開けた隙間からヒョイッと部屋に入ってくる。
「お前は、どこの子なんだい?」
俺がベッドに腰掛けると、そのまま俺の膝に飛び乗りくつろぎ始める猫。
俺はそんな猫を撫でる。ああ……こんなに生物とのふれあいは安らぐものなのか……こう安らぐと、不思議と心に溜まった不安なんかが口に出てしまう。
「なあ、俺は……追い出されたとはいえ、親友を一人王城に置いて来た。薄情者なのかな……。親友を助けたい、だけど今は自分の居場所を確保するので精一杯だ……いつか、親友を助けられる日が来るだろうか?」
不思議だ。まるで魔法にかけられたかのように、この猫に秘密を吐いて楽になりたい、なんて思ってしまうのだ。
慎吾を置いて王城を出た事に対する不安、一刻も早く何とかしたくても、まずは自分の周りを固めなければならないという焦燥感。
皆にそんな事を吐露して心配かける訳にもいかない。俺の事を皆がそれなりに好意的に見てくれてるとは言え、まだ出会って1日2日なのだ。
一刻も早く救出したいと思うなら、全て俺が一人でやるべき事なのだろう。
気が付くと猫は俺を見上げ、にゃーん、と一鳴き。
つい不安を吐き出したせいか、撫でる手が止まっていた。もっと撫でろとの催促だろうか。
「ああ、手が止まってたな、悪い悪い」
俺はその猫の喉を撫でると、猫は気持ちよさそうな表情でゴロゴロゴロと喉を鳴らす。
そして、俺に撫でられるのに満足したのか、すっと俺の膝の上で立ち、そのまま窓の方に歩いて行ったかと思うと、ピョン、と窓から外に飛び出していった。
俺は窓まで歩いていき、部屋から下を見る。
俺の部屋は2階のため、地面に居る猫を見下ろす形になる。さらに、猫は俺を見上げておりそのまま
「にゃ~ん」
と一鳴きすると、そのまま茂みの中へと入っていった。
果たして今の猫は何だったのか、よくわからないが、猫を撫でながら心の不安を吐き出したおかげか心は先ほどより少し軽くなっていた。
これが俗に言う、アニマルセラピーというやつか。心の中で通りすがりの猫に軽く感謝しながら、俺は窓を閉め……ようとして、ある事に気が付いた。
この宿、イフリート亭は2階建ての宿である。1階は洗身場などの共用部とエナちゃんたち母娘の住居部、そして、2階が客室となっている。
そして、客室の窓の外は特に足場などは無いのだ。
――あの猫、どうやって2階の窓まで到達したんだ?
気になったので俺は窓から外を確認するが、特に足場になるような場所はない。となると、今の猫は「壁に張り付きならが登ってきた」という事にならないだろうか……?
「……まあ、どうでもいいか」
もし敵意などがあれば、こんなに簡単に部屋から出て行こうとはしないだろう。俺はその疑問を頭の片隅に寄せ、そのまま窓を閉める。
そのまま俺は、猫に対しての疑問を忘れるのであった。
◇
高級宿『空飛ぶシャーク亭』のとある一室。暗くなった部屋で灯りも付けない暗い中、黒い影が2つ、互いに向き合って何かを話しているようである。
だが、会話をしているにしては異様なのだ。その理由は影の大きさにあった。一方は非常に小柄な人間、そしてもう一方は小動物のサイズなのだ。
辛うじて人影だろうと思われる側が手を差し出す。
「そう、ありがとう。これは報酬ね」
「にゃーん」
小動物の影はその手の中にあった者を口にくわえるような動作を見せると、そのままどこかに消えてしまった。
「ふぅ……」
小さな人影がため息を吐いたとほぼ同時、部屋の明かりを何者かが点ける。途端に明るくなる室内。
「マナエちゃん、灯りくらい付けようよ」
ツムギはマナエにそう告げると、マナエも首を縦に振って肯定の意思表示をした。
「……もしかして、サクヤくんの周辺を探ってたりしたの?」
マナエの使える特技の中に、猫を派遣し人の秘密等を探る技がある。
マナエが時々、そうやって猫に周辺の人物の秘密等を探らせているのはハルカもツムギも知っている。そして、それがマナエに多大な負荷をかけている事も。
それは3人が安全に暮らせるよう、マナエが好意でやっている事をハルカもツムギも分かっている、だからこそ、止めてほしいと言う訳にもいかず、せいぜい『無理しないで』程度のお願いとなっている。
マナエは少し考え、そしてツムギに向けて口を開いた。
「サクヤさんは、悪い人ではない。秘密もあるけど、これは時期が来たら本人から私たちにも教えてくれると思うから、今は気にしなくていい」
「その発言に<心理学>」
心理学、これは、相手が行った発言の意図や、その発言で何かを隠そうとしている事を察する能力である。
テーブルトークRPGでは、キャラメイク時にこの能力の成功率を設定する。
成功するかどうかは、10の位と1の位の0~9までの10面サイコロを振り、そのダイスの目が成功率より小さい目が出れば実行しようとした事が成功するのである。
ちなみに、ハウスルールによっては違うものの、0が2つ出ると100とみなし、どんなに技術値が高かろうと強制失敗とする。
ハルカもツムギもステータスMAXチートで転移してきているので、この能力は99%、つまり、100回に1回失敗するかどうか、といった精度を誇るのだ。
「……ツムギさん、イジワル。隠し事してもバレるから、隠し事なんてしてないのに」
「あっはっは、ごめんね。マナエちゃんがウソついてるとは思わないけど、私たちに隠れて動いてたから、ちょっとイジワルしたくなっちゃって」
ツムギがあっはっは、と笑うと、マナエは頬を膨らまし言葉にしない抗議の意思を見せる。
「ごめんごめん、機嫌直して? ……ハルカさんとアタシは、マナエちゃんの判断に従うよ」
と宥めつつ、ツムギはマナエを抱きしめ、よしよし、と頭を撫でる。
「もー! また子供扱いする!!」
マナエがまた怒るが、これでいいとツムギは思う。
まさか召還時に遊んでいたゲームによってステータスや特技が変わるとは思わなかったのだ。
その結果、一番年下の、隣で対戦型ゲームをやっていたと言うだけの子に一番大変な戦闘を任せてしまっている事を、ハルカとツムギは悔いている。
いや、自衛官のステータスであるツムギはまだ戦闘がある程度出来る、だが、犯罪者としてステータスを設定されたハルカは戦闘能力としてあまり前面には立てないのだ。
ツムギやハルカは、最悪この世界で骨を埋める覚悟はしている、だが……まだ小さいこの子だけは、現代に無事返してあげたいと考えているのだ。
(まあ、マナエちゃんにその心を探られでもすれば、すぐにバレちゃうんだけどね)
だからこそ、ハルカとツムギは出来るだけ自然に、出来るだけ明るく振舞うのだった。ハルカは司令塔として、ツムギはムードメーカーとして、戦闘を一人で担おうとするこの子を支えるために。




