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11.帰る場所

「ところで、サクヤくんは今日の宿決めてる?決まってないなら明日一緒に行動するわけだし、私たちと同じ宿に行かない?」


 ハルカさんが俺にそう提案をしてくれた。


 確かに同じパーティーで動くともなれば固まっていた方がいいだろう。スマホなんかの連絡手段があるわけでもないし。


 だが……


「ごめんなさい、俺、帰る場所が……」


 そう、エナちゃんと約束したんだ……いや、約束とも言えない内容だが。


「行ってきます」


 俺はそう告げた、だから、次にエナちゃんに告げる言葉は


「ただいま」


 でなければならないのだ。


 ハルカさんはちょっと驚いた顔をしたが、それ以上は詮索する事なく


「分かったわ、それじゃ、明日の朝9時、冒険者ギルドの前に集合よ!! サクヤくん、遅刻したらダメだからね?」


 と、冗談混じりで念を押してきた。


 ツムギちゃんは


「なに? サクヤくん、こっちの世界で女の子でも引っかけた? フリーじゃないのかー、ショックー」


 などと言うのだ。何か誤解してないか?


 マナちゃんはマナちゃんで、何か変な目で俺を見てるし……一体何なんだ?


「いやー、現代から飛ばされてくると、電話が使えないだけで不便ですよね……あっ!!」


 ヤバイ、今「電話」と発言したが、これ、好感度表示のキーワードじゃなかったっけ?


 今はまだ動きが無いからいいものの、これ、今後うかつに「電話」と言ったら人間関係がめんどくさい事になりそう。


 俺はその好感度表示がここで出てくるのではないかと身構えたが……どうやら、何も起きないようだ。


 どういうことだ? 電話、がキーワードじゃなかったのか?


「そうね、一応、私たちが泊ってる宿の名前教えておくね。私たちは『空飛ぶシャーク亭』って宿に泊まってるから、万が一何かあったらここまで連絡ちょうだい」


 と宿泊している宿の名前を教えられ、今日は解散となったのだった。



「いらっしゃいませ……あれ?貴方はもしかして……」


 イフリート亭に戻ってきた俺を迎えてくれたのは、エナちゃんではなかった。


 髪は栗色なエナちゃんと比べ明るい、どちらかというとライトブロンドといった色味の髪をストレートで腰まで伸ばしている。


 そして、包容力を感じさせる雰囲気が俺の甘えたい心をこれでもかと揺さぶってくる。それでいて、どことなくエナちゃんと重なる部分が多いように感じるのだ。


「あ、俺は昨日からこちらに宿泊している、ヤクヤと申します。貴女はその……エナちゃんのお姉さんでしょうか?」


 実際、エナちゃんが俺と同じ年くらいとするなら、ちょっと上くらい。大学生のお姉さんくらいのイメージだ。


「あら、お上手ですね。私はアンナ、この宿の店主です。サクヤさん風に言うなら、エナの母です」


 マジか。正直、若くてびっくり。


「ああ、昨日のうちにご挨拶に伺うべきでした、お世話になっております、サクヤです」


 アンナさんはそんな俺を見てクスクスと笑いながら俺を笑顔で見ている。一体何だろ?


「失礼しました。昨晩、エナに聞いた通りの殿方だと思いましてね……エナ!! サクヤさんがお帰りになったわよ!! お出迎えしないのですか!?」


 アンナさんが後ろに向かって大声でそう叫ぶと、数秒の沈黙の後……


――ガシャガシャガシャァァン!!


 と、何かを盛大に倒す音が鳴り響いたかと思うと、奥から慌てた様子でエナちゃんが飛び出してきた。


「サクヤさん!! あ、あれ? 冒険者ギルドに行ったんじゃ?」


「うん、行ったよ。そこでパーティーを組んで、明日は朝早くから冒険に行くことになったよ」


「……その時に、お仲間さんから、同じ宿に泊まらないかと聞かれませんでした?」


 連絡手段が無いから、確かにそう聞かれると同じ宿の方が便利だろう。


「聞かれたけど、俺には帰る場所があるからね」


「帰る場所? 元の世界ですか?」


 確かに、元の世界と行き来が自由なら、帰る場所は元の世界だろう。だが


「俺は今朝、行ってきますと言ったよね? そして、エナちゃんはいってらっしゃいと言ってくれた」


 そう、そのやり取りが、この場が今の俺の帰る場所だと、この世界に居て良いんだという証なのだ。


「だから俺は、今度はこう言うよ。……ただいま」


 笑顔でただいまと言う。本当に久しぶりな気がする。


 召喚前の日本に居た時、最後に笑顔でただいまと言ったのは何時だろうか。記憶をどこまで遡っても、該当する記憶にヒットしない、それだけ俺は、日本で帰る場所を軽んじてたのかもしれない。


 エナちゃんも俺に対し、笑顔を向けてくれた。


「おかえりなさい、サクヤさん!!」

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