剣士
「急ぐぞ。夜明けまでそんなに時間があるわけではない」
ルキアは馬に跨り、国の南端に位置するアルファ村に向かっていた。
兵士として王都で働き始め、一年が経過した。ルキアはその剣の才覚で、兵士としての地位をみるみるうちに上げていた。今では数百人を率いる部隊長を務めている。
だが、同じく馬に跨り、ルキアの隣を走るのは兵士の部下ではない。幼少期、ルキアが村を滅ぼされ、隣村に逃げた時からの幼馴染みであるミルキだ。年はルキアの三つ下。日々の鍛錬なども共に行い、ルキアが唯一心を許せる弟分のようでもあり、親友でもある。そんな存在だった。
「しかし、間に合いますかね。たった一夜で。村人達の警戒心も解かないといけないでしょう」
馬に足音に消されないように少し前を走るルキアにミルキは声をかける。
「間に合う間に合わないじゃない。間に合わせるんだ。俺が兵士として生きている、目の黒いうちは、出来る限りバキュラの暴虐による犠牲者を防ぐ」
「そうは言いますが、簡単じゃないでしょう。バレたら復讐も何もかも終わりだ」
「慎重にならなければいけないのは分かっている。しかし『火雨の儀』が命じられたのだぞ。しかも今回、それを実行するように命じられたのはこの俺だ。村を滅ぼされ、バキュラに復讐を誓う俺自身が村を滅ぼす。そんな悲劇を引き起こしてたまるものか」
この国では年に一度、十六夜の夜にバキュラが無作為に選んだ村を国家の兵士の手により滅ぼす、通称『火雨の儀』が執り行われる。何故そんな事をするのか。真意はバキュラしか知らない。十年前、ルキアの村が滅ぼされたのも火雨の儀によるものだった。バキュラが王に即位し、三年目の年に行われた火雨の儀の対象の村となったのがルキアの村だったのだ。
そこから十年。バキュラは毎年火雨の儀を行い、今回、兵士として注目を浴びていたルキアの部隊が火雨の儀を行うよう命じられたのだ。
「そうですね。なんとしても防ぎましょう」
事情を知っているミルキはルキアの想いを聞いてそれ以上反対はしなかった。
「頼りにしている」
二人は馬の腰に鞭を叩き、一層速度を早めた。