剣士
掌サイズの大理石を持ち、剣を横に向け、刃の部分を丹念に削る。
万が一にも人を殺してしまわない為だ。
ギシギシと大きな音が立っているが、これだけ人がいるのに誰も目を向けもしない。皆「ロゼ兄弟」と呼ばれている二人の会話を盗み聞くのに必死だ。
実際、他の剣士達が「先にロゼ兄弟をやっちまおうぜ」と徒党を組む相談話なども聞こえて来ていた。
よほど注目されている剣士なのだろうなと、ルキアはぼんやりと思うだけだった。
気にせず剣の刃を削り続ける。
徒党を組もうとこの『雷地大震蔡』で優勝できるのは一人だけだ。徒党を組むような仲間もいないルキアはただ精神誠意、闘いに望む他なかった。
それに、修羅のように生きた十年の成果を発揮するのには物足りない場所であるとすら考えていた。
「さあさあ。よってらっしゃい見てらっしゃい〜な。『雷地大震蔡』いよいよ開幕だ。選手達は入場せよ」
控室の外。拡声器を通した実況者の大きな声が会場全体に響き渡る。それを合図に控室にいた剣士達は闘技場へと移動を始めた。
ルキアは剣を削る手に一層力を込める。刃を満足するまで削り終えた頃には、控室には誰も居なかった。慌てて会場へと移動する。
三百六十度観客に包まれ、真ん中に設置された楕円形のコロシアム。
数百の殺気だった剣士達が所狭しと立っている。
ルキアは十年という途方もない歳月の記憶を呼び起こす。剣を地面に突き刺すと、両の手の平で頬を二度叩き、昂る鼓動を抑え込んだ。