王
「火雨の儀は上手くいったか」
薄暗い王室。窓際に腰掛け十五夜の月が絢爛と輝く夜空を、見つめたまま、バキュラはオリヒアに尋ねた。
「ええ。抜かり無く。情報部隊の兵士からの情報なので、確かなものです。ですが、気になる報告が。なんでもルキア部隊長は、村人だけでなく、村そのものを滅したようです」
「村そのものを?」
オリヒアの言葉にバキュラは振り返る。
「ええ。ルキア部隊長は、人も家畜も民家も畑も。それらを燃やして出た灰さえも。全てを燃やし尽くし、村を更地にしてしまったようです」
「ほう。その真意について。本人に問うたのか」
「はい。これはルキア部隊長の言葉です。『神であるバキュラ様の行う火雨の儀。単に村人を惨殺するのでは無く、村全てを更地に変える。神の手に掛かれば、村一つを地図から消し去るなんて、赤子の手を捻るように簡単なことだ。と全土に知らしめたかったのです』と。続けて、罰があるのなら甘んじて受けるとも。どうなさいますか?」
「ふん。大した忠誠心だな。ルキアという者がどんな人間か、我への忠義が本物か。確かめてみるか」
「まさか『独月の儀』を行われるのですか」
困惑気味にオリヒアが尋ねる。バキュラは「そうだ」と短く答え、窓の外を振り返り、月に向かって掌を広げ、かざした。
「我には暴けぬ嘘も、手に入れられぬ物もないのだ」
バキュラは手の中にある月を握り潰した。